何気ない朝

 いつもならば憂鬱な一日の始まりの合図である独特な音楽が聞こえてくるが、今日に関してはそうでは無い。

 本来ならば休日はアラームをかけておかない主義なのだが、昨日の二の舞にならないようアラームをかけることにした。

 世界中で一番憎悪を向けられていると言っても過言では無いアラームにとって、憂鬱な一日の始まりの合図にならないことは、言葉で表せないほど嬉しいことのはずだ。

 もちろん、玄関の鍵がかかっている事をしっかりと確認してから寝たし、これが成長と言うものだろう。

 買い物に付き合って欲しいと花蓮に言われ、それを了承した訳だが、どこに行くのか、何をするのかなど全く分かっていない。

「十時に迎えに行く」のたった一言だけで出かけることが出来るのは、果たしていい事なのかはたまた悪いことなのか。

 同じマンションに住んでいて、しかも部屋も上下。物理的に近すぎるが故に、再会してから毎日会うのはもちろん、一番多く時間を共有しているわけだが、以前なら考えられないその日々にも多少慣れてきていた。

 学校に行く日よりも遅くはあるが、そう変わらない時間に起きたため、約束の時間までかなり時間に余裕がある。

 そこでこの機会に、朝ご飯作りにチャレンジする事にした。

 一人暮らしを始めて二週間近く経とうとしているが、昼食や夕食は何度か自炊したものの朝ご飯に関しては一度も自炊したことがなかった。

 冷蔵庫を覗いてみると、卵、ベーコン、クリームチーズ、ジャムだけがある。

 正直な所、悩めるほど材料の選択肢がない。

 スクランブルエッグ、焼いたベーコン、ついでに刻んで冷凍してあるネギを入れた味噌汁を作れば良いだろう。もちろん、レトルトのご飯も忘れない。

 炊飯器も一応あるが、炊きあがりを待つのも流石に面倒だった。

 材料を使い切ろうと考えた結果、卵二個を使ったスクランブルエッグとベーコンが五枚のおかずが出来上がる。

 一人暮らしだと、材料を使い切るのも一苦労。かといって作り置きをするのもどうにもめんどくさい。

 味噌汁は沸騰させたお湯に味噌を溶かしてネギを入れただけだ。

 だいぶ適当に見えるかもしれないが、これがまた意外と美味しかった。

 ベーコンがあって不味い訳もないのだが。

 アニメの見逃し配信を見ながらゆっくり食べ、身支度を整えたら丁度十時近くになり、そこに示し合わせたように花蓮が尋ねてくる。

(今日の俺、朝から絶好調じゃね?)

 こう思っても仕方ないくらいに充実し、時間管理もバッチリな朝だ。思わずテンションも上がってしまう。

「よ! おはよ!」

「お、おはよ」

 いつもは花蓮から挨拶だが、テンションが高いため優から。

「――どうしたの? なんかいい事でもあった……? それとも毒リンゴでも食べたの?」

「最後だけやけにメルヘンだな。普通に早起きして朝ご飯作ったり、いい感じの朝だったんだよ」

 テンションが高すぎた事にようやく気がつき、先程よりだいぶ小さい声でそう言う。

「ふーん? 私と出かけるのそんなに楽しみだったのかーって思ったのに」

「普通に楽しみだったよ?」

「普通にって要らない!」

「楽しみだった」

「よろしい」

 花蓮は満足そうな顔でそう言うと、コホンと咳払いをした。

「ではでは今日行く場所を発表します!」

 セルフドラムロールをした後に目の前に出されたスマホを見ると、地図が表示されていた。

 マンションからの経路が出ていて、どうやら大型のショッピングモールに行くらしいと分かる。

「よし、行くか」

 特に異論は無かったので、了承の意も込めてそう言った。

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