明日は土曜日

 目覚ましの音で目が覚めるやいなや憂鬱な気分が襲ってくる。理由は言わずもがなテストがあるからだ。

 このテストは成績には加味されず、なんだったら順位も出ないという話を小耳に挟んだため何点を取っても別に問題ないのだろう。

 しかし、それはそれだ。結局テストである事には変わりないし、成績や順位が出ることよりもテスト独特の重い雰囲気の中に身を置かなければいけないのが優としては苦痛だった。

 意識が覚醒してからもしばらく天井を眺めていたが、気合いを入れて一気に起き上がる。

 今日も花蓮が部屋に迎えに来る。二日目にして準備が間に合わなくなるなんて事があれば、どんなペナルティを食らわせられるか分かった物ではない。更に明日は土曜日、つまり家具の組み立てなどを手伝って貰う日だ。

 万が一にも機嫌を損ねることがあってはならないのだ。

 一通り身支度を済ませ、朝食を食べる。今日の朝食は、昨日お菓子と一緒に買っておいたパンとサラダだ。

(とりあえずサラダ食べれば、多分平気だよな)

 他人に言えば少し首を傾げられそうな事を思いながら、食べ進める。

 もっとも、冷蔵庫を見れば野菜ジュースが、薬がまとまった箱を見ればサプリメントがいくつかあったりするので、優が健康に気を使っているか、いないかで言えば、気を使っている方に入るだろう。

 手早く朝食を済ませ、飲み物をテーブル――世間一般的な言い方ではダンボールに置き、一息ついた。

 テストがある事への現実逃避なのか、このテーブルとも明日でお別れなのかと、ダンボールを見ながら感慨深いものを感じる優。

 この家でしっかりと暮らし始めてから一週間と少し、その間食事を支えてくれた。

(だからなんなんだ? ただのダンボールだし、俺の怠惰の結晶じゃないか)

 急に素に戻ってしまい、思わず心の中でつっこんでしまう。

 一人暮らしは独り言が増えると聞いたことがあったが、本当のことかもしれないと危機感を覚えた。

 そこで玄関のチャイムがなる。どうやら、スマホの通知を切ってしまっていたらしい。花蓮から数分前に連絡が来ていた。

 荷物を持って、急いで扉を開けると、昨日と特に変わらない様子の花蓮。

「さ、行きましょ」

「お、おう」

 連絡を入れた事に関しては何も言わずに、出発を促してきた。こういう風に、ある程度細かいことに関しては不満も漏らさないのも花蓮のいい所だ。

 昨日と同様、時間に余裕を持って教室に着いた。ところが教室に入って見渡せば、昨日とは比べ物にならない程の人が既に来ている。

 席が近い人と確認している人や黙々と参考書を確認する人、徹夜したのか寝ている人など過ごし方は様々だ。

(ああ、ここは本当に進学校なんだなぁ)

 その様子を見て、まるで他人事の様な感想を優は持ちながら、春樹に軽く声をかけ、席に座る。

 周りに流されるように参考書を開き、いつまで経っても慣れない重い雰囲気にそわそわする。

 しばらくして担任が入ってくると、科目の順番など今日の流れを軽く説明される。

 今日は定期テストではないため、国語、数学、英語の3教科のみで、午後は学年での集会が行われるらしい。

 説明が終わると、いよいよテストの開始だ。

 一科目目は国語。

 現代文は昔から何となく出来た。正直、才能みたいな物が八割方点数に絡んでいると考えていたりもする。

 問題は古典だ。いっそ清々しいくらいに分からない。勉強しないので、当たり前といえば当たり前なのだが。

 テストの見直しを仮にしても、問題の現代語訳を読んで満足してしまう為、古風な現代文を解いているようなものだ。それで点数がとれたら苦労しないのだが、そうもいかない。

 二科目目は数学だった。

 花蓮が予想した出題箇所が的中し、かなりいい手応えを感じた。何問か解く気が起きないレベルの物をあったが、優はそっとその問題から目をそらすのだった。

 三科目目は英語だった。

 これといって何も無いという感想しか出てこない。優からすれば簡単の一言で済む内容でしかなかった。

 テストにあまり関係ないことだと、時間を持て余したために描いた落書きが思いのほか上手くかけた事だろうか。

 最近話題沸騰中のアニメキャラを描いてみたところ、人に見せたくなるほどの出来になった。

 誰に見せるか迷ったあげく、花蓮に写真を送った。

 本当は駆け寄って見せたいところだったが、流石に自重した形だ。

 すぐに「似てる!凄いじゃん。 私も次の数学のテストは絵描こ」と返信が来た。

 花蓮がいい人すぎて、涙が溢れ出てくるかと思うほど感動した。

 昼休みを挟んで、午後は学年集会だったが、学年主任をはじめとする先生の紹介や勉強の事など特段変わった内容は無かった。

 気になる点をあげるならば、少し遅くないかと思ったりもする。

 体力測定が初日から行われたことに対しても驚きがあったが、紹介がそれよりも遅れる事なんてあるのだろうか。

(まあ、色々都合があるんだろうな)

 答えが知れるわけもないので、そう納得せざるを得ない。

 高校ともなれば学年主任や他クラス担任など、紹介されて何になるのだというのもまた事実だろう。

 こうして、優の高校生活が開始されて三日が経ち、怒涛の平日が終わるのだった。

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