通知に気がつけば終わり

「明日はテストだって事をしっかり頭に入れておけよ」

「えー! すっかり忘れてた……」

「一旦時間巻き戻そうぜ」

 ホームルームでの先生のたった一言で教室の雰囲気は一変した。

 現実を認めて深いため息をしながら呟く人や現実逃避をしようとして騒ぎ出す人など色々だ。後者に関しては、本当に特殊能力を持っている可能性も無くはないが。

 中には、テストが明日に迫っているという絶望的な気分に浸っているだけの人も居るかもしれない。テストを気にするフリをしながら、心の奥底ではほとんど気にしていない強者である。

 優は自分にこういう部分がある事を自覚していた。ヤバイヤバイと騒ぎはするが、騒ぐ事はエンターテインメントか何かだと思っている節があるため、勉強はしない。

 高校受験も含め、のらりくらりとやっていたら最後には何とかなってしまう場合がほとんどなのが良くないと言い訳をさせて欲しい。

 花蓮はどうしているのか見てみれば、予想に反して静かにしていた。

 失礼な話ではあるが、騒がしいのが彼女らしさみたいな所があるので、とても意外だ。

 結局、クラス全体に広がっていたざわめきは、担任が教室から出て、一限目の教師が授業を始めるまで続いた。

 授業が始まってから数分が経過した頃、ズボンのポケットがある辺りから振動を感じた。

 当然スマホを授業中にいじることは禁止されているのだが、通知に気がついた以上どうしても気になってしまう。

 こんなことならば、サウンドだけでなく通知自体を完全に切っておくべきだったかもしれない。

 チラチラと先生のことを確認したりしてしまうえば、明らかに挙動不審になってしまう。

 どうするかと考えた所で、出来るだけ自然な形でスマホを操作するというありきたりな答えしか出てこない。

 先生が板書を始めたタイミングでスマホを取り出し確認してみると、花蓮からのチャットだった。

 なぜわざわざ授業中に送ってくるのか疑問ではあるが、行動に深い意味はないのが花蓮なので、素早く内容に目を向ける。

 予想通り、なんてことは無いただの勉強の誘いだった。

 お互いの得意科目と不得意科目が入れ替わるようにして一致しているため、教え合いたいようだ。

 どうやらさっきは静かにして居たのではなく、明日がテストだと言う事実が飲み込めなかっただけらしい。

その証拠に、チャット上での文字ですらうるさい。

 正直に言えば、この誘いを受けるか迷った。

 花蓮と二日連続で放課後を過ごすのが嫌なわけでは別になく、家の近さもこれ以上ない程、というかこれ以上なく近い。

 数学に不安があるので教えて欲しい気持ちもある。

 ただ、同じくらいゲームをしたり、漫画を読んでダラダラしたい気持ちがあった。

 もっと言えば、無事に高校受験が終わったので、まだ勉強したくないと考えてしまう。

(いや、もう高校に入学してますけど? )

 優は自分自身に心の中で突っ込む。

 全く手が動いて居ないと怪しいため、少しだけ板書を写しながらスマホを確認していたのだが、受験が終わってからというもの字を極端に書いていなかったせいかだいぶ汚い字になっていた。

 ペンを握った手を見れば、なんだか震えているようにも見える。

 これは流石にまずいかもしれない。

 諦めて、誘いに乗る事を決めた。

 簡単に了承の意を送ると、スマホをしまって黒板を見る。

 そこには、優がスマホを取り出した時からずっと書き続けたのであろう大量の板書が広がっていた。

 思わずため息が出た。ペンを持ちなれずに震えている手を必死に動かして、板書を写す。

 これは罰なんだろうか。


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