お友達計画、始動

「優、おはよう」

「おはよう、春樹」

 優の到着もかなり早いものだったが、春樹はその上を行っていたようだ。

 昨日出会ったばかりだが、春樹の人柄の良さと優の血反吐を吐くようなイメージトレーニングの結果、かなり仲良くなれた。

 春樹にも嘘をついてしまっていることには変わりないが、人柄などを意識的に誤魔化す必要などは無さそうで、とても楽だった。

 クラス全体で見ても、海外に行っていたという嘘が効いていると言える。

事実、海外の話をしていない時でも自然と周りに人が集まり、昨日は良い一日だったと言える。

 やはり、最初のこの時期にどんな形ででも人を集めれば、それがクラスの中の流れみたいな物になる。

 人が既に集まってくれている以上、クラスの中でも変に人柄をよく演じようとする必要は無いのかもしれない。

「だいぶ早くに来てるの?」

「電車が混むから......教室で一息つけるしね」

 聞けば、通勤・通学時の混雑の酷さで有名な路線だった。

 ここで少なくともレベルの違う金持ちの家の子ではないと分かる。というのも、大手企業の重役や自分で立ち上げた会社の社長となると、会社から運転手がつけられている事がよくある。

 その運転手に子供の送迎をさせる場合が桜沢学園ではよく見られるのだ。

 大都市の近くに家族で住むだけでも大変なので、優と春樹の生活のレベルは同じくらいだろう。

 優の中学校がある辺りで考えれば、優の家はお金に余裕があると言わざるを得なかったが、こうして大都市に出れば、同じくらいの家がそこら中にあるのだから凄いものだ。

 朝から生徒達の家計を考えてしまう意地汚さを隠すかのように、春樹への提案を思い出し、言うことにした。

「連絡先交換しない?」

 提案と言うと少し大袈裟だったかもしれない。

 昨日の学校では、会話出来るような時間のほぼ全てを春樹と過ごしていたため、交換するのを忘れていたのだ。

 席が近く、少し話せばいい人柄をしていると分かる春樹と仲良くしない理由がない。

 連絡先の交換は、友達になりたいという意思表示だ。了承してもらえないのではという不安がないと言えば嘘になる。

 しかし、ここは自分に対して嘘をつき、そんな不安はないと自分に言い聞かせながら提案した。必要な嘘も存在するのだ。

「もちろん!少し待ってね」

 そう言って春樹のチャットアプリのIDを見せてくれた。

 これも優は少し考え過ぎていたようだ。中学時代の事から人間関係において臆病になっている節がある。

 もっとも、花蓮に関しては臆病になる前からお互いを知っているからか、緊張を感じることは無いのだが。

 何はともあれ、連絡先が増えるのは嬉しい事だ。新しい環境での連絡先初入手は、人間関係作りの第一歩と言える。

 優が少しの感動を覚えて居ると、登校してくる生徒が格段に増える時間帯になっていた。

 昨日の体力測定で勝負をした残りの四人も続々と到着し、春樹と交換した流れで、六人全員で連絡先を交換し合った。

 交換が一段落ついた頃、担任の教師が入ってきて、ホームルームが始まったため四人それぞれと話す事はあまり出来なかった。

 二人で話して、友達になれればいいなと思う。友達の友達のような関係はごめんだ。

 数が少なくても、友達として一緒に過ごせる人が出来ることを優は心の底から願う。

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