ただの残念な人とギャップがある残念な人
一通り朝の身支度を済ませ、少し気の抜けた時間を愛用の通称人をダメにするソファで過ごしていると、スマホの通知音が鳴った。
通知を確認すると、チャットアプリからの物で花蓮からメッセージが届いたらしい。開いてみると後数分で家を出るという内容。
どうやら花蓮は学校に余裕をもって行くタイプらしい。昔遊んだ際も遅刻などされた事はなかったが、学校と遊びは別だ。
来る日も来る日も行かなくてはいけない学校に早めに向かえるというのは中々出来ることではないと優は身をもって知っている。
学校からの評価が下がり、高校受験などの入学試験で不利になってしまうため、欠席や遅刻は極力避けるべきだ。
その事を頭では理解していても学校に出発する時間は大抵遅く、時には死にそうになる程走って遅刻を回避していた過去が優にはある。
思わず苦い顔をしてしまった時、玄関前に来客が会ったことを知らせるチャイムがなった。
用意してあった荷物を取り、玄関のドアを開ければ、そこにはやはりメガネをしていない花蓮の姿があった。いや、伊達眼鏡だと言うことであれば普段から付けている方がおかしいのだが。
どうしてもメガネをしていない花蓮にはまだ慣れない。
しかし、伊達眼鏡を1年間ずっとつけている事のおかしさに気がついた少女に対して、また伊達眼鏡を勧めるというのはどうなのだろうか。
天地がひっくり返っても前例がないであろうこの悩みを頭が解決しようと必死になっている。
メガネからコンタクトに変えたのと同じだと言えば同じなのだが、伊達眼鏡を1年間かけ続けていたという驚愕の事実が優の思考をおかしくしている全ての原因だった。
そんな優の心の中は露知らず、花蓮は「何しているの?」とでも言いたげな様子だ。
数学の未解決問題顔負けなのではないかと思える悩みを頭の中から弾きだし、玄関の鍵を閉め、エレベーターに乗り、マンションのエントランスから外に出る。
そして、きっとこれから数え切れない程歩くことになる道を歩き出す。
二人が住むマンションは、駅前の建物が密集しているエリアに位置している。そのため道は細かく入り組み複雑だ。
昨日のように心ここに在らずというような状態では無いが、それにしても駅にきちんとたどり着けるか不安だった。
不安だからと言って、一応何度か行っているはずの駅に地図を開きながら行くのは、花蓮が一緒の手前流石に恥ずかしい。
前を歩く花蓮を見えば、曲がったり直進するのを迷いなく行っているようだ。
自信満々とも取れる花蓮の行動に不穏な何か正直に言えば感じてしまった。
しかし、それは杞憂に終わる。十分と経たずに駅前にたどり着き安堵した。
前に居た花蓮がいきなりこっちを向く。
「芹澤!走って!」
「え?」
かなり気の抜けた声が出てしまったが、とにかく言われた通りに走る。
理由はホームに着いた時に分かった。丁度電車が駅に停車していた。
急いで車内に乗り込み、1つ空いていた席を花蓮に譲って、その前に立つ。
通勤、通学の時間であるため、かなり運が良い。
桜沢学園は大都市の中心と言える土地にあり、通学に使える電車の種類が多い。
更に二人が利用している路線では、最寄り駅で降りても学校まで15分以上かかるため利用している生徒はほぼ居ない。
この路線は生徒の大多数を占める富裕層・準富裕層が住むような地域は通らないため尚更だろう。
二人の家庭も富裕層よりではあるが、高級住宅地に一人暮らしさせられる程では当然ない。
他の生徒は実家で暮らしている人が大半なので、これは仕方の無いことである。
今度こそ安堵し、どこか満足気にしている花蓮の事を見る。
なぜ、道に迷わず、時間管理もきちんと出来るのに時々突拍子もない言動をするのだろう。優の中でまた謎が深まっていく。
これがギャップというものなのだろうか。
「学校ではどうする? いきなり仲良くなるのも変だし、海外に居た事が嘘だとバレないようにしながら、昔の知り合いだと説明するのも大変な気がする」
昨日寝る前に頭の中に浮かんだ疑問を優自身の頭を切り替える意図もあって花蓮に投げかけた。
これが出来るのも同じ学校の生徒が乗っていないためである。悪いことばかりでは無い。
「昔の知り合いって認めると、何気ない中学時代の話の時にお互いの事を聞かれて矛盾が生まれたりしそう」
花蓮も認めることに肯定的ではないようだ。
実際、昔の知り合いだと公表しなければお互いの事は聞かれないし、聞かれなければお互いの事を周りに話すことはないだろう。
学校では関わりにくくなるが、そのうち何とかなるはずだ。
とはいえ、仲が良いのに学校では話せない事が惜しいというのは二人の共通認識である。
そのうちと言わずに、出来るだけ早く解決する運びになるだろう。
解決策を探しているうちに最寄り駅に到着し、改札を出て、マンションの周辺とは違ってとても分かりやすい学校までの道のりを歩く。
学校が近くなってきた所で別れ、何事もなく教室にたどり着く。
先に教室に来ていた春樹の元に行き、今日もまた学校が始まるのだった。
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