ハンバーグorステーキ

お店でステーキを食べる経験というのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。

それだけにとても後悔した。ハンバーグの方が良かったからか、違う。

ハンバーグと同等以上の美味しさだ。

「ステーキの感想はどう?」

少しテンションが上がりながら、花蓮に問いかける。

「ハンバーグの方が流石に上かな」

「ステーキも美味しいけどね」と付け足しながら、花蓮は言う。

ここでやっと優と花蓮の間で意見が食い違った。

今まで怖いほど行動や意見が同じだっただけに、意見が食い違って安堵する気持ちと、少し残念な気持ち半々だ。

行動や意見が同じだったと言えば、花蓮に聞きたいことがあるのも思い出した。

「海外に行ってた理由をどう説明したの?」

「父親が外交官だからって説明したけど」

花蓮のその答えを聞いて、花蓮も自分と同じくらい盛っているのではないかと思ってしまう。

先程、あなたほどではないけれどなんて言っていたのはどうしたのだろう。

「なんでまた、外交官を理由にしたの?」

「え? 理由って言われても、お父さんが外交官だからってだけだけど」

花蓮のその答えで、優は恥ずかしくなった。

花蓮に比べて優は、嘘に嘘を重ねているからだ。

ただ、花蓮の父親が外交官だというのは、凄く幸運だ。

花蓮に対して今更プライドを守る必要もないので、すぐに行動に移す。

「外交官って具体的に何をするんだ? 頼む教えてくれ!」

花蓮は優に対して少しの間怪訝そうな顔をした後、ゆっくりと口を開いた。

「――え? もしかして芹澤のお父さんが外交官ってのも嘘なの……?」

どうやら優が教室で話しているのを聞いていたらしい。声が大きすぎたかもしれない。

「嘘だよ。だから頼む教えてくれ!」

失うものがない人間は強いというのは多分本当の事だろうと思った。それを自分自身で理解してしまうのはとても不本意だが。

「お互い協力するって言ったし、そもそもそれくらい協力ってレベルでもないからいいけどさ……」

多分かなり呆れられている。優にこれを挽回出来る時は訪れるのだろうか。

花蓮は続けて言う。

「具体的にって言っても、あんまり知らないのよね……」

そう言いながらも、基本的に五年から六年周期で海外勤務と日本にある本庁勤務を繰り返すことや海外勤務の場所は選んだ第二言語によって決まることを教えてくれた。

花蓮の父親も少し前から海外勤務のようだ。

中二の時に両親が離婚し、中学の近くに父方の祖父母が住んでいたため、まだ日本に居た父親と共に祖父母と同居。

しかし、父親の海外勤務が決まった事もあって花蓮も一人で暮らしてみようと考えたらしい。

そして、父親からの一人暮らしの条件が父親の母校でもある桜沢学園の入学とある程度の成績の維持だったため、桜沢学園に入り一人暮らしをしているのだという。

花蓮の事情はともかく、外交官の異動の周期と勤務地の選ばれ方は基本的にこうなっているようだ。

「要は、海外勤務から二年で戻ってきた事にしてしまったら早すぎるし、勤務していた事がある国をヨーロッパと中東から選んだらおかしいってこと?」

花蓮の話を聞き、確認の意味で質問した。

「そういう事ね。気をつける事があるとすればこれくらいじゃない?」

ここで外交官は何をするのか聞いたのに、父親が外交官だと周りを騙す時に気をつけるべき事しか聞いていない事に気がつく。

ここまで普通に生きている人が一生話すことも無い話題も珍しいだろう。

父親の仕事内容について本当に分かっていない可能性も無くはないのが花蓮の怖いところだ。

しかし、別に将来外交官になりたいわけでもないので仕事内容は聞く必要も無い。ただ、外交官について興味を持たなければいけなかったと言うだけ。

既に二人とも食べ終わり、席が空くのを並んで待っている人達が居たため、話が一段落した所で店を出ることにした。

同じマンションに向かう帰り道は、明後日のテストが憂鬱だとか取り留めのない話をした。

マンションのエレベーターに乗り込んでから花蓮が言う。

「マンション一緒なんだし、朝一緒に行かない? お互い一人暮らしだから寝坊も怖いし」

「いいよ、じゃあ朝に部屋来てくれる? 俺の部屋の方が下だし」

優が答えると、花蓮は了承し簡単に話はまとまった。

そこで丁度エレベーターが優の部屋がある階に着いた。

エレベーターを降り、エレベーターの中に居る花蓮に向き直る。

「またね、おやすみ」

花蓮が手を振りながら言う。

優は手を振り返しながら、エレベーターが閉まりきるまで花蓮を見送る。

そして、部屋に戻るのだった。


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