追い込まれるとアイスの味もしない

 体力測定の結果という話題もあり、自然と6人で帰る事になる。

 本来なら楽しい時間なはずが、頭の中は七瀬さんの事ばかり。とはいえ、名前以外知らないのだから"七瀬"の文字が頭の中でパレードをしているような状態になる。

 脳内で行われるパレードに終わりが見えないのは言うまでもない。

 更に、悩んでる事をほかの5人に悟られることがあってもいけない。

 どんなメンタルをしていたら、「朝にした話が嘘だって事が同じ中学校だった人によってバレてしまうかもしれない」なんて言えるだろう。

 5人は、騙した相手なのだから。

 考えるまでもなく、そんなセリフを言わなくても、嘘をついた事がバレた時点でアウト。

 初日の朝に話題の中心になりたいがために、自分の経歴を嘘で盛る人など普通居ないから。というか切実に居ないで欲しい。

 自分でやっておいてなんだが、そんなのは狂人以外の何者でもない。

 こんな何も解決に導かない無駄な思考の間に、最下位が決まっていた。

 本来なら周りに対して反応出来ていたのか優なら気にするところだが、そんなことに気が回らない位に心に余裕がなくなってしまっている。

 優は最下位にはならなかったのだが、それもなんの救いにもならない。

 奢ってもらったアイスも普段より味が薄く感じられた。こんなに大きな不安があっては何も手につかない。

 明日の学校まで精神が持つのかどうかすら不安になってきた。

 アイスを全員が食べ終わった頃、何となく解散の雰囲気が流れ帰路につく。

 まだ数回目の不慣れな道を通り、途中ボーッとしていたために電車のホームを間違え、道に迷ったりもしながら何とか家についた。

 一人暮らしは気楽で素晴らしいと思っていたが、今日のように気分が晴れない時は家族の存在が恋しくなる。

 玄関で靴を脱いだら、手も洗わず、着替えもしないでベットに横になってしまう。

 そして、どれだけ時間が経ったか分からない頃、インターホンの音で身を起こすのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る