第4話
僕は学校から出て立花さんが好きだというアニソンを調べた。アニソンって本当に幅が広い。同じアニメなのに全然ジャンルが違う。僕の知っているというか、偏見でしかないけれどアニメのイメージと全然違った。有名だと言われているものから順に聴いていくと立花さんが弾いていた曲が数個出てきた。
「この曲好きだな。」
アニメの名前を検索にかけた。それは男性のアイドルアニメらしい。二人組で別れて歌っているそれは僕が今日立花さんから教えて貰った曲の一つだった。疾走感溢れる音なのに、主張の弱いピアノが心の繊細さを表しているようで強がっている子供のようだ。歌詞もとても綺麗な言葉なのにどこか切ない、やりきれない感情が伝わる。なによりこの曲を歌っている人の声が僕には響いた。音楽が好きだと伝わるのに叱られることを恐れているような、叫びたいのに怒られるのが怖いそんな臆病な子供。自分の好きなこと、やりたいことが明確なのに突き進めないもどかしさが伝わる。そんな声にもう一人の声が重なる。臆病な彼を怖くないよと手を伸ばす元気な子。難しいことは分からないけれど彼のことを助けたいという純粋な思いがある。引っ張り出すだけでなく、彼のペースに合わせて隣を歩く。時には互いに愚痴を言い合って、生き辛いねって泣き笑っているんだ。そして現実にあらがって進んで行く子供達に勇気を貰う。そんな曲。家で聴くことは出来ないだろうからこの登下校時間だけ。この時間だけはこれからも僕と音楽を繋がることが出来る。ほんの少しだけ僕はいつもより歩くペースを落とした。一秒でも多く音楽を聴いていたかったから。
「立花さん」
昨日理由を創らないと行けなかった僕はどこにいったのだろうか。今日は理由を考えるより先に足が音楽室へ向かったいた。あの曲の良さを話したい。その一心で僕は音楽室の扉を開けていた。
「昨日下校時間にアニソンを少し調べたんだけど、この曲凄く好きだった」
僕が携帯の画面を見せてそう伝えると、彼女は嬉しそうな顔でこちらへ向かってくる。携帯の画面を見ては僕の手をとり何か言った。正確には口を動かしただけ、言葉は出ていなかった。理解できていない僕をよそに彼女は僕をピアノのあるところへとひっぱる。きっと今日もピアノを弾くのだろう。彼女はピアノに手をかけた。
「あ、」
あの曲だ。僕が登下校中ずっと聴いていたあの曲。そう思っていると彼女はまた口をパクパクと動かす。
『歌って』彼女はさっきからそう言っているように見えた。それが正解だとすれば彼女も酷なことを言う。僕は昨日知って下校時間に聴いたとしか行っていないのに、その状態で歌えと言うのだから。しっかり覚えている訳じゃない、けど。この曲を歌ってみたいと思っていた。家では歌えないし、ましてやカラオケなんて行ってはいけない。公園や河原で歌っていたら誰に見つかるか分からない。だから歌えないんだと思っていた。けどここには彼女と僕しかいない。
『♪~』
彼女の音と僕の声だけが響く。彼女の完璧な演奏と僕の拙い歌声だけが。この空間がいつまでも続けば良いのに。
『やっぱりもう歌えるじゃん』
弾き終わった彼女は筆を走らせ、興奮気味に僕にそう伝える。これは歌えてるに入るのか?
『もう一回歌ってよ』
彼女は僕にそう伝えると準備室へ姿を消した。
「え、独りでアカペラ?」
そんな言葉がこぼれたけれど彼女はまたすぐ姿を現した。彼女の手にはギター。いそいそとチューニングに接続にと準備をする。手慣れているのだろう。僕が手伝う暇もなくセットが終わった。まあ僕が手伝えることはもともとないのだけれど。
彼女はもう一度あの曲を弾き出した。イントロだけで伝わる。さっきとは全然違う印象。ピアノの時に感じた寂しさや不安とは違って、ギターでは疾走感をより感じて覚悟をもって道を選んで居る感じが伝わってくる。楽器で印象を変えられるなら歌い方も変えられるんじゃないかな。裏声を使った綺麗な高音じゃなくて、叫んでいるような地声に近い高音で。さっきより音程重視じゃなくて歌詞から伝わる感情を優先して歌う。
『♪~』
あ、この歌い方楽しいな。感情が吐き出せる感じ、誰かになっているかのような感覚。立花さんが虜になったのはこんなに楽しいからなのか。
君が生きてれば 柊羽 @syuuha
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