第2話

楽しい時間はいつか終わる、あっけなく。彼女のギターは止まった。彼女はノートを取り出し、そこに書かれた文字は

『やっぱり音楽好きなんじゃん』

僕には心あたりが無かった。音楽が好きだなんて考えたことも無かったのになぜ彼女は僕が音楽が好きなんじゃ無いかと思えたのか。そんなことを考えている間にも彼女のペンは動く。

『合唱コンクール、誰よりも早く覚えてた。自分のパート以外も。ソプラノだって覚えてた。絶対に歌うこと無いのに』

そんなことで彼女は僕が音楽が好きだと汲んでいたのか。僕はただ窮屈な現状から気を逸らすためだけに行事を利用しただけのつもりだったのに。彼女は僕の気づいていない心にまで気づいていたのか。いや考えすぎかも知らないけれど。

『私は今まで一人で音楽をしてきた。作曲も作詞も編曲も、演奏も歌も。』

その言葉で理解した。死ぬならその声貸してよ。それはボーカルが足りないからだ。でも、一つ疑問がある。

「なんで人間の声にこだわるの?いまはコンピューターにだって歌わせることが出来るでしょ?それなら今まで通り一人で音楽活動できるのに」

彼女は目を丸くしたあと、少し笑った。彼女はまたペンをとって

『確かに代わりのボーカルを探してたよ。でもね私は君がいいと思ったから声をかけた。それだけ』

「僕がよかった?」

彼女は縦に首を振った

『音楽が好きな目をしてた。それと歌上手かったし。なにより私と同じ色をしていた気がした』

そう書いた彼女の目はまたあの色をしていた。一人でギターを弾いていたときの色に。それと同時に僕と同じように感じていたのは気のせいでは無かったのだとわかった。

『君頭良いよね。いつもテスト一位だし、先生もよく見習えって名前挙げてるし。だから話しかけづらかったんだよね』

そう書いて見せる彼女は苦笑を浮かべていた。

『しかも毎回教室行ってもいないしさ。超探し回ってたら屋上でフェンス登ってるし、焦っちゃった』

そうか僕は授業以外で教室には基本いないから。友好関係を制限をされているから教室に居る意味も特になくて。あ、でも今

『大丈夫、他に人が居るときは話しかけないよ』

そう書いた彼女は全て知っているようだった。話を聞くと担任から教えて貰ったのだと。

僕の家は他の家庭とはかなり違っている。代々続く会社の跡継ぎに産まれたのが僕だった。僕の前には姉が二人。念願叶って産まれた僕は厳しく育てられた。毎日習い事や塾に通って普通の放課後を過ごしたことは一回も無かった。全て制限されているせいで話しかけてくれた同級生とは話が合わず煙たがられることがほとんどだった。それでも仲良くしてくれている子も居たけれど親にバレては友人を罵倒され、友人の親にまで連絡をした。そんなことに耐えられないかた僕は友人を作るのを辞めた。そんな僕を担任が心配してくれているのは知っていた。でも自分から同級生に距離を作っていたため担任も友人関係に口を挟んでは来なかったが彼女、立花さんは初めて僕のことを聞きに来たんだそう。それが嬉しくて僕をまかせたと事情を話してくれたのだと。これは彼女からの説明と担任から後に聞いたこと。

『きっと思い切り音楽に触れたことなんだろうなって。おおきなお世話なのは分かってるけど私があなたに楽しさを教えたかった。だからこれは私の我が儘。ましてやあなたの声を貸してというのはもっと我が儘。』

そう彼女は笑った。

「僕と仲良くしてくれた人達は皆ろくなめにあってない。君もきっと同じ目に遭うかもしれないよ。」

彼女には悪いが最初から仲良くしない方が僕にとっても相手にとっても良いんだ。彼女は笑いながらペンを動かす。

『これ以上不幸になることはないよ』

僕は彼女のことを全く知らないのに、彼女は笑っているのに、その言葉はひどく残酷な言葉に聞こえた。

『君の声で不幸を止めてよ。でもそれだと気が重くなるか』

僕が考えすぎだったのかと思うくらい彼女はずっと明るいままだった。

『君が歌いたくなったら来てよ。私は休み時間と放課後毎日ここに居るから』

そう伝える彼女は言葉通り無理強いをするつもりはないようだった。普段ならすぐ断っているのに僕から出た言葉は

「考えておく」

だった。

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