スピード社会へご招待
時は、2100年 この世は高速化の極地にいた。
『ピピピ!ピピピ!』そんな音と共に目を覚ました。
『おはようございます、まずはお顔を洗ってください。』
さっきまで寝ていたベッドは少し浮かびながら移動し洗面台の前に来ていた。
渋々と体を起こして顔を洗った。
顔を洗ったのを確認した機械がまたけたたましく喋り始めた。
『顔を洗い終わりましたね、では朝食をどうぞ』
気づくと朝食の並んだテーブルにワープしていた。
この瞬間移動装置というものが普及してからありとあらゆるものが高速化していった。
意識がはっきりしていない状態で瞬間移動をすると危険ということから必ず顔を洗ったのを確認してから瞬間移動させるそうだ。原理はとても小難しく理解することができないが、ハイテク機械の動作に必要不可欠なのがこんな古典的なやり方だなんてなんて馬鹿馬鹿しいんだと思いながら朝食を摂った。
朝食が終わった頃にまたAIが喋り出した。
『朝食が終わりましたね、それでは出勤の準備をしましょう。』
すると、パジャマだった姿が瞬く間にスーツ姿へ変わり、すっかり洗顔と歯磨き髭剃りまでバッチリ終わっていた。これもまた、瞬間移動の応用らしいこれを作ったやつは相当なめんどくさがりだったんだろうな。
『それでは、いってらっしゃい』その言葉を最後に気づくと会社のオフィスにいた。出勤時間がないのは非常にありがたいが、仕事へ対する憂鬱感は全く拭えん。
今日は、仕事が盛りだくさんだ。おまけに今晩は会社の重役との飲み会がある。
私はデスクに向き合うと仕事を始めた。
多くの効率化のおかげでかなりの仕事が自動化されたというのに仕事の量は増えるばかり、きっと人類が滅びるその日まで仕事は増え続けるんだろうな。
まるで宇宙みたいだ。
気が付くとお昼休憩の時間となっていた。
「最近健康のために、ワープ出社じゃなくて普通に通勤してるんだ」
「へー、めっちゃ偉いじゃーん」
女子社員たちの話を横で聞きながら私は社食でお昼を摂った。午後のことを考えると少し寝ておくかな。私はデスクで仮眠をとることにした。お昼休みはあっという間だ。
午後の仕事が開始した。集中していろんな仕事をこなしていく、気づくと
終業時間となっていた。
「今日は、この後予定があってお先に失礼します」そう言うと
事前にAIに伝えていた待ち合わせのお店に飛び立った。
「よくきてくれた、今日は本当に良いお店をセッティングしたんだ、普段じゃ手が出ない高級店を用意した。大事な話があってな」重役のこの発言に出世の予感をした私は少し高揚しながらお店に入った。
「いらっしゃいませ〜、よくお越しいただきました。お履物をこちらでお脱ぎください」女将さんらしい人に促されくつを脱いで上がった。やけにゆっくりと話す人だな。そんなことを思いながら用意されていた個室まで案内された。
「ひとまず、飲み物を頼もう。今日は好きなものを頼んでくれ」
重役に促され注文を決めた。
重役はすでに注文を決めていたので店員さんを呼ぶためのベルを押した。
しかし、10分くらい待っても一向に来る気配がない。
「店員さん来ないですね、もう一度押してみましょうか?」
「何を言っているんだ?このお店は、高級店なんだからこれくらい遅いに決まっているだろ。最近は、遅いのが高級店の証なんだ」重役はにっこりと笑った。
飲食店の良し悪し語れるほどの知識はないが、庶民には全く理解できないな。
金持ちの考えることは全くよくわからん。
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