椅子
私は、A市に最近引っ越してきた。A市の近くにはB市があり
A市からB市に行くには、30分ほどかかる一本道を歩けばつく。
その道は、直線距離で30分程度で両脇にはただただ広がる草原が広がっていた
太陽光を遮るものがないから夏場は歩くだけでも一苦労する。
6月のある日たまたまA市とB市に用があった私はA市で用を済ませた後、健康のために歩いてB市へ向かうことにした。その日は、6月特有の湿気に加えカンカンに晴れて気温は8月上旬並みの35度を記録していた。
しばらく、歩いただけで身体中汗でびっしょりになった。
勘弁してほしい。普段の運動不足と慣れない暑さがあいまって、15分ほど歩いたところで身体中の疲労感は最高潮に達していた。
すると、少し先にベンチのような腰掛けられるいすが見えてきた。
これは、ちょうどいい私は迷わず腰掛けカバンの中のお茶を取り出して飲み始めた。
一息、つくとちょうど涼しい風が吹いてきた。
熱った体にはたまらない風のおかげで体力が少し回復した。
その椅子の近くには、大きな木が立っているのだが時間帯的に丁度かげになっていた。しばらく、していると急激な睡魔に襲われた。
「何をしているんだ!!!」
私のまどろみを遮ったのは、そんな大きな声だった。びっくりして前を見ると一人の老婆がいた。老婆を見ると、老婆はとても焦った表情でこちらを見ていた。
「どうしたんですか?急に何かありましたか?」そう尋ねる。
「そこに、何座ってるんだ!さっさと立ち上がってどっか行きな!」
老婆がそう怒鳴った。私は、あまりの剣幕に一目散にその場を立ち去った。
全く、なんなんだあの婆さん、きっとあの婆さんもあの椅子に座りたかったんだな。
確かにいい位置にある椅子だけど、あの言い方ないよな。
私は、不機嫌になりながらB市へ向かった。
帰り道、B市での用事を済ませ帰路についた。
行きの時ほどの暑さはないがまだじめじめして嫌な陽気だった。
しばらく歩くと先ほど、あの椅子のあった場所に差し掛かった。
しかし、その場所は昼間みた光景とは違うものであった。
大きな木はあるのだが椅子はなく小さな祠が立っていおり、
そこには、おびただしい量の仏花が備えられていたのだ。
私は、その光景になぜだかすごくゾッとし、急いでその場を離れることにした。
家の近くにつくとたまたま、引越しの時にお会いした町内会長さんと会った。
世間話ついでに先ほど見た祠の話をしてみることにした。
すると、町内会長さんはばつの悪そうな顔をしながら話始めた。
「実は、昔からあの道を行く途中で消息を断つ者が多いんだ、この辺に古くから伝わる神隠し伝説で、この辺の出身の者はあの道を歩く者はあんまりいないんだ。
なんでも、祠がなくなって腰掛けに変わってそこに座った者をどこかへ連れ去ってしまうそうだ。」
私は、驚きながら今日の昼にあった出来事を町内会長さんに話してみた。
「それはそれは、その老婆に助けられましたな、こんど行くときは祠に何かお供え物を持っていくといい。きっとこの辺の者として神様も認めてくれるはずだ」
「わかりました」
それ以降、B市に行くときは必ず自転車で行くことにした。
そして、祠を見かけたら必ずお供え物としておまんじゅうを置いて
拝むようにした。
しかし、獲物がくるまで椅子の姿で待ち構えるとはなんてのんびりとした神様なんだろうか。まるで食中植物みたいだ。
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