戦争の火種

 事の発端はある男たちが上野の居酒屋でおこなった、なんの変哲もない議論がきっかけだった。一人男は、加熱した卵料理の始まりは”卵焼き”だと主張した。それに対してべつの男は、卵料理の始祖は何を隠そう”目玉焼き”であると主張をした。その口論は、どんどん白熱していた。その喧嘩の仲裁に入った男がまた新たな燃料を投下した。その男は、二人を宥めながらこういった。

「二人とも落ち着け、卵料理の始まりはもちろん”スクランブルエッグ”だろ」その言葉に当事者二人が激怒した。


 この論争は、居酒屋の会話からネットを介して世界に広がっていった。そして、全世界が3つの勢力に分断された。そして、争いの火種はどんどんと大きなものになっていった。


 各地で起こっていた小さな紛争はやがて世界戦争へと変貌していった。

後の人々は、この戦争を卵戦争と名づけた。


 卵戦争は、5年という長い時間続いたという。かつて、世界を結んでいた国交は

断たれ全ての場所が戦地に変わった。世界はスクランブルエッグのようにぐちゃぐちゃでどの土地もまるで半熟の目玉焼きのように爆心地へと変貌していった。


 そんな、ある日とある母親の言葉が世界に轟いた。

「こんな、世界じゃ可愛い雛鳥が育たない!誰もが手を繋ぐそんな世界にはならないの!?あぁ神様!!卵焼きのように、この世界を一つにまとめて!!」


 その言葉を聞いた、全ての人は、我に帰った。


 そして、今日講和会談が開かれた。スクランブルエッグ派、目玉焼き派、卵焼き派

全ての陣営の有識者が始まりの場所 東京上野の居酒屋に集い会談が始まった。


 この様子は、世界に同時配信され、同時に多くの言語で翻訳された。世界中の人がその議論に注目していた。議論は三日三晩続いていた。しかし、議論は平行線のままだった。そこへ、ある一人の天才博士がやってきた。


「皆さん、どうであろうか。このままでは、埒があかない。ここは、卵本人の意見を聞いてみるというのは」


その発言にその場にいた全員がきょとんとした。


「まぁ、驚くのも無理はない実はこの度私は卵の声を聞く機械を発明した。これで直接卵の声を聞くことができる。」


会場は、一瞬理解できなかったが藁にも縋る思いでその提案に乗った。


装置に一つの卵がセットされた。


博士は、卵に向かってゆっくりと質問をした。

「卵よ、世界で初めて作られた加熱した卵料理はいったい何だ?卵焼きか?目玉焼きか?それとも、スクランブルエッグか?」


ついに長年の争いに決着がつく!この瞬間に世界中が注目した。



卵は言った。





「それは、ゆで卵だよ」

 

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