海の見える駅

 その風景を一目見た時から私はその場所の虜になった。


 そこは、海の見える駅。そこから一望できる海はどんな悩みもくだらないと感じさせてくれた。私が、そんな景観に一目惚れしたのは、去年であった。


 私は、若くして事業に成功し、多忙な日々をおくっていた。

そんな時、ふと自分の周りを見ると私の金に群がる人で溢れていた。

SNSでしか近況を知らない友人たちは、結婚をしたり、いまだに古くからの友人と

交友関係を持ち仕事以外の人間関係を保っているというのに

そんなことを考えていたら全てがどうでも良くなり、私は仕事を辞めた。


 私の手持ちの貯金だけでもあと5~6年くらいは持ちそうだったのでひとまず人のいない場所を求めて居住地を探した。そんな時に海の見える駅に出会ったのである。


 私は、その近所にすぐに引っ越した。

そこに引っ越してから時はのんびりと過ぎていった。


 そんな、あるよく晴れた日、海沿いを散歩して例の駅に向かうと駅員さんに呼び止められた。

「今朝、あなた宛の手紙が届いてましたよ。どうして、この駅に送ったのでしょうか?」

私は、しょっちゅうここへ来るので駅員さんとは顔馴染みで私の名前も知っている。

「ありがとうございます。実は、ここに住んでいることを誰にも伝えていなくて。

全く誰からでしょうか?」

私は、可愛い薄ピンク色の小さな封筒を受け取った。差出人の名前は書いていなかった。

「また、私宛の手紙が来たら受け取っていただけませんか?」

「いいですよ!あなたはほとんど毎日景色を眺めにいらっしゃいますし。」

駅員さんは快く了承してくれた。


家に帰り不思議な手紙を開けてみると、中から便箋に大きく文字が書かれていた・


「よ?」私は思わず声に出して読み上げてしまった。

便箋には、大きくカタカナで”ヨ”の文字が書かれていただけだった。


次の日

いつものように駅にいくとまた駅員さんに呼び止められた。

「こんにちは!また、手紙が届いていますよ!」そういって駅員さんから手紙を受け取った。お礼を言いまた家に帰り封筒を開けるとまた便箋に大きく1文字書かれていた。


「ぎ?」今度は、カタカナの"ギ"だった。


また次の日も同じく駅に手紙が届いていた。読んでみると次は便箋に大きくカタカナで"ボ"の文字が書かれていた。


全くなんなんだろうか、私は不思議に思った。


そして、明くる日また駅にいくとやっぱり手紙が届いていた。

私は、受け取ると家まで待てずにその場で開けた。


そこに書いてある内容は言葉にならなかった。

なぜなら、ただ一本線が書いてありふりがなが振ってあった。"伸ばし棒"と

本当に言葉にならない言葉が書いてあった。


私は、今まできた手紙をつなげて読んでみた。

「ヨ、ギ、ボ、ー…ヨギボー!人をダメにするソファのあれか?

そうか!誰かが私にこんなのんびりと人をダメにする環境から戻って来いといっているのかもしれない!!」私は思わず驚嘆の声をあげてしまった。その日はなんだかワクワクしながら家路についた。


 明くる日も駅に向かった。しばらくしたら、また都会に帰ろう一からやりなおそう。そう考えながらこの景色を堪能しているとまた駅員さんがやってきた。

「こんにちは!今日もお元気そうで!またお手紙が届いてますよ!」

そう言って手紙を手渡してきた。


私は、その手紙を開けたそこにはこう書いてあった

『ちがうよ』と私は思わず声をあげた


「違うんかい!!」


私は、ニヤリを笑って海を眺めた。水平線は、どこまでも続いていた。


 

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