第3話 やはり僕が最強に可愛いんです。ザマァ見ろ
「翼は背中の力を抜きながら、背骨に収納していく感覚を意識するとしまうことが出来るよ」
翼の収納方法を教えてくれる光の聖女が翼を触る手付きは、柔らかくてくすぐったい。少し変な気持ちになってしまいそうだ。
「自己紹介がまだだったね。私はエルザ、光の聖女よ。聖女同士宜しくね」
軽く僕のほっぺにキスをするエルザ。
何とも妖艶な笑顔で、赤い目を向けてくる彼女は自分よりも淫魔という種族に相応しい容姿をしていました。自分の容姿も負けていないと自負していますが、彼女の方がエッチな気もします。ぐぬぬ。
何よりも彼女の悠々として掴みどころのない態度に、本当に間男なんかに快楽落ちするような女なのか疑問になります。
「あれま、まだ信用してくれてないかな?」
「当たり前じゃないですか、僕は貴女のこと嫌いですよ」
レーヴァの意向で彼女を迎え入れる事に決めたわけだが、正直なところ僕は信用していません。決してエルザが加害者と言うつもりはありません。
ですがそれでも彼を裏切ったという事実を友達としてはあまり許そうと思う事が出来ません。彼が一緒に居ても良いと言っているので追い出す権利は僕にはありません。
けれども、二人で旅をしてたところに余計な女が混じってくるのは良い気はしませんね。
「そうだよね。レーヴァの前で他の男に跨る、自分の淫乱な部分を見せつけてたせいで、私は彼の心の傷になってしまったのだからね。本当に……、彼がこんなにも私を想ってくれてたなんて」
「何だこの女……」
怖い、怖いですよこの女。何であの後でレーヴァが自分を想ってくれてた事を認識して笑顔になれるんですか。
稀に寝取られジャンルというものには、意中の男を自分のモノにする為に男を仕向けるなんて物もありますが、まさかその手の女の可能性もあります。ますます警戒は解けません。
「疑わないでくれたまえよ。逃げてきたのは本当なんだよ? あの男は私達の身体だけでは飽き足らずに聖女の力を奪おうとしたのさ」
「聖女の力なんか奪えるものなんですか?」
「寧ろ、君の得意分野だと思うけどね。君の肉体を構成する大部分は魔力だ。そして魔力という物は性行為によって力を奪えるのだが、人と淫魔では効率が違う。君はそれに特化しているのさ」
成る程、だから淫魔という種族はこんなに強いんですね。
そして恐らくは僕が居たあの場所には様々な生物の魔力があり、そこに長時間滞在した事によって僕自身の魔力が強くなったと。
「レーヴァの母親、魔王はそれの究極形だ。並の人間だと近寄れもしないだろうね。だからこそ魔力を父親に根こそぎ奪われた彼が倒す運命を背負わされているのさ」
「だとしたらあの間男結構ヤバい奴なんじゃないんですか? おめおめと逃げるだけじゃなくて、何とかしてくださいよ」
「だから君に接触したんじゃないか~~~~」
……どういう意味だろう。まさかあの間男とヤれと言うんじゃないでしょうね。
「そうじゃないさ、今のあの間男は僕たちの魔力を吸収した影響で肉体に接触せずとも、相手の魔力を綱引きのように引っ張る事が出来るのさ。淫魔の君ならばその綱引きに負ける事がないからね。一緒に倒して、レーヴァを二人で愛してあげようじゃないか」
「面の皮が厚過ぎやしませんか?」
「そう言わないでくれよ、ちゃんと反省したからこそ君を頼って確実に禍根を断ち切る努力をしてるんじゃないか。そうしたら私はレーヴァとまたキャッキャウフフが出来るんだしねぇ」
遠くで休んでいるレーヴァを見て顔を高揚させるエルザの姿は、まるで乙女ではあるのだが、よくもまあそんな顔が出来るなと呆れが先に出る。
それに間男を倒した後、この女は僕たちの旅に着いて来るつもりなのだろうか。勘弁して欲しいのだが。
「終わったら居なくなって欲しいですね、何度も言いますが僕は普通に貴女の事嫌いです」
「えぇ~~、どうしてだよ~~~。一緒の男を愛する者同士、仲良くやれると思うんだけどね」
「レーヴァは友達です、こう見えて僕は元男なので」
「それじゃあ私に惚れちゃった……とか?」
「何でそんな自信満々に言えるんですか?!」
勘弁して欲しいです。確かに女の子が好きなままだが相手は選びたい。
面は確かにいいのだが、こんなにも性格の悪そうな女と一緒に居たら、頭がどうにかなってしまいそうだ。
「それよりも来たよ」
ドスン、ドスン──。
深い森から顔を表したのは、人間とは思えない程に筋肉が膨れ上がった化け物でした。
人型であるだけで人間の面影は残していなかったが、辛うじて頭部は人の形を保っており、その顔はあの間男のモノでした。もしや聖女の魔力を喰らった末路がまさかこれとは言うまいですね?
「フゥ……、フゥ……、何だよこんな場所にいやがったのか……。探したぜぇ……。魔力がちょっと足りなくてよぉ……、お前ら二人をメスの顔にして魔力を貰ってやるから股を開きやがれぇ……」
ギラギラとした眼は既に正気には見えず、完全に暴走している事が伺える。
「いや~~、魔力を奪われた時に過剰に魔力を流しちゃったら脳や筋肉繊維がその負荷に耐えきれなかったみたいでね。あんなんになっちゃった」
「お前本当に正気ですか?」
「そんな事言うなよ。私達なら勝てる……、だろ?」
「それは絆を深めた後で言う台詞ですよ。辞めてくださいよ、擦り寄ってくるの!!」
「何をゴチャゴチャ言ってんだぁああああああ!!!」
間男は魔力を込めた拳を振り下ろす。
しかしエルザはそれを容易く掌で受け止めては、その威力の感触を確かめていた。
「中々の威力だ、流石私の魔力だ。さあニュクス。コイツの魔力を奪い尽くしてくれ。私の魔力を持ったコイツを殺すのは骨が折れるのでね」
刹那、先程の攻撃とは比べ物にならないほどの速度で、エルザは拳の雨を数十、百、千、あるいはそれ以上の攻撃を間男に浴びせていた。
「いでぇええええ……、いでぇええええ……!!!」
拳が肉体を貫通し穴だらけとなる間男だが、肉体が再生能力を有しており瞬時に肉体が治っていき、どうにも死にそうにない。
「ほら早く。魔力を奪い尽くしてくれ」
「……そういう事ですか」
エルザが間男を一方的に蹂躙している隙に、肉体に触れ魔力を奪う。
すると巨大に膨れ上がった間男の肉体は枯れ木のように朽ちていき、ミイラと化していった。
「ふぅ……。悪は滅びた!!!」
「どの口が……」
こんなに簡単に間男を葬れるとは。この女を助ける事は癪だが、ムカついていたのは確かなので鬱憤は晴らせたものではあります。
「レーヴァに報告しなければ。彼も喜んでくれるでしょう」
「だ~め。彼に言っては駄目だよ」
「……どうしてですか?」
「彼は絶対に喜ばないからね。この男ならば私達を自分の代わりに守ってくれるなんて甘い考えすら持ってそうだしねぇ。
そこが彼の可愛いところではあるんだけども、とにかく人殺しとか彼は苦手なんだよ。だから私達でこいつの死体をボコって鬱憤を晴らそうじゃないか!」
性格悪すぎるでしょうこの女。レーヴァもこんな女に纏わりつかれて可哀想です。
僕が彼を守らねばなりません。
出会って一週間しかありませんが、同情や友情を感じ、彼個人を友達として好きになったのは本当です。
何よりもこんな女よりも、超絶美少女の僕が居れば何も問題はないのです。彼女にはさっさとお引取りになって頂こうと思います。
「やっぱり出てってください。彼は貴女が居ても心苦しいだけで喜ばないでしょうし」
「そ、そんなわけないだろうっ!? 彼は絶対に私が居た方が喜ぶはずさっ! 賭けてもいい! もし喜んでくれないなら、そのときは潔くこのパーティーを抜けようじゃないか」
「言いましたね?」
「言ったとも」
この女は本当に喜ばれると想っているのでしょうか。
まあこれでこの女を追い出す口実が出来たのは良い事です。早速彼にこの女の存在をどう思っているか確認しましょうか……。
「……正直に言うと一緒に居るのは辛いかな」
「ですよね~~~~~」
流石に分かり切っていた事でした。
寝取られプレイを目の前で見せられて、その女と一緒に居たがる男はただのマゾです。
そんなマゾだったらどうしようと一瞬、不安になったが一般的な性癖そうで一安心をする。
「……それに今はお前と二人で旅がしたい」
「えっ」
「あ、いやそういう意味じゃなくて……。たの……しいからさ……。エルザも被害者ではあるから……、身勝手な事言っているって分かってはいるけど……。ってニュクス?」
「なんですか?」
「いや何でそんな笑顔なんだ?」
笑顔なんか浮かべてないですよ?
いやもしかしたら浮かべているかもしれません。だって……。
エルザが凄い顔をしてこっちを見ているので、それを見れば笑いなんか堪えられるわけもないのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます