第2話 友達になってあげましょう え、ここで女が追加?
この世界に来た理由の一切は覚えていない。この世界に来る前の記憶はあるのだが、来る直前と直後の記憶が一切なかった。
だからこそ元の世界に未練はあれど、死んでしまったのか、もしくはただの転移なのかも分からないので悲観もしていません。
ただの転移ならば元の世界に戻れる可能性もあるかもしれないと楽観的になれるし、死んだら死んだで逆にこの世界で生まれ変われて幸運なのだろう。
そこまで難しく考える必要はない、要はこの世界で生き延びればいいのです。
問題は生き延びるだけならば容易ではあるが、娯楽がない。淫魔は魔力を摂れば、睡眠以外の生命活動は必要としないらしい。
この世界に来た時に魔術師の少女と偶然仲良くなり、淫魔について色々と教えて貰った為、詳しく調べたわけではない。
だが実際に少女に連れて行ってもらった場所は魔力で満ちており、そこに数週間と飲まず食わずで滞在したのだが身体に不調を覚えず、食欲なども食べたい物はあれど特別欲する事もなかった。
代わりに性欲が研ぎ澄まされてしまい、娯楽不足で手持ち無沙汰となった時に、強い淫気に引き寄せられ勇者の家に辿り着いたわけです。
それがまさか勇者とパーティーを組んで、世界を救う戦いに放り込まれるとは思いもよらなかったですね。
いやそれよりも当面の問題は……。
「ギッ……ガッ……?!」
三つの頭部を持つ魔獣の心臓部位に、埋め込んだ拳を引き抜く。
鋼鉄の皮膚を持ちながら、この淫魔の肉体の前ではその頑強性は意味を成さない。
「これで終わり……と。レーヴァ、そっちはどうです?」
緋色に燃える剣で魔獣の頭部を切り落とし、勇者レーヴァは数十体もの魔獣の屍を踏みしめる。
身体は余す所なく血に塗れているが、全て返り血であり、彼へのダメージは何一つない。
「こちらも終わった。ニュクス、怪我はないか?」
「ええ。こちらは何とも」
世界を救う旅をたった二人で行う事に若干の不安は抱えていたが、杞憂であった。
まず、レーヴァの勇者としての戦闘力は、こちらの予想を遥かに超えていた。
音速で飛び交う魔獣に囲まれようが見切り、返す刀で一撃で、確実に絶命させていく。派手さはないが、だからこそ攻撃の凶兆も読めず、魔獣の獣としての本能を置き去り、的確に生物として致命的なダメージを与える。
同時に驚いたのは、その戦闘に付いていくことの出来る……、いやそれどころか彼すら凌駕する自らの肉体だ。
主に私の
淫魔はこんなにも優遇されていたのかと、女になったとはいえ生き残る術を持っている幸運に感謝は絶えないのですが。
「身体が軽く触れ合うたびに絶頂すんのは何とかなんないですかね……」
いくら互いに怪我もなく戦えるほどの実力があろうとも、余裕があるわけではなく、ましてや動きを合わせる事もまだ出来ていない。
身体に軽く触れるだけでも、過剰に魔力の巡りが加速し、絶頂状態に移行してしまうのだから困ったものです。
彼の肉体を見るだけでムラムラしてしまい、今ではその解消を行うために、旅を始めてまだ一週間というのに、レーヴァへのセクハラが日課となってしまいました。
「はぁ~~……、この体質何とかならないもんですかね」
「そう言いながら、俺のケツを触るの辞めてくれないか……」
「いいじゃないですか、既に友達でしょう?」
この状態になってから、レーヴァに後ろから抱きついたり、服の中に手を突っ込んでみたり、お尻をサワサワして落ち着かせている。男も喰っちまうようになったわけではないのだが、この程度ならば友達への悪戯の延長線上でしかない。
これで厄介な発情デバフを解除出来るのならば、男へセクハラするという現状も我慢してやりましょう。
「そう言いながら、結構楽しんでないか……?」
「いえ全然。何が楽しくて男に抱きついたりケツをモミモミしなきゃならないのですか。まあ鍛えられてるわりには柔らかいので心地良いのは認めてやりましょう」
生憎、女に転生する前から生来の無表情で感情が読み取れないとの評判でしたので。
「聖女に見せるように購入したエッチなシスター服で抱きついてあげてるのですから、役得くらいに思い、土下座して感謝するがいいです」
「ニュクスが抱き着くのに血が付いているの嫌だって言うから、服に余計な出費までかけてるってのに。まあそう思っておきますよ」
やれやれと布団に入り寝る準備を行うレーヴァ。少しくらいムラついて、ちょっとトイレ! くらいは言って抜いてきてもいいくらいの美少女である筈なのですが。
あの時の影響でアソコの元気を失ってしまったと考えるのが妥当でしょうね。そうでなければこの美少女のボディタッチに耐えられるわけがないのです。
「悔しいので今日も添い寝をしてあげましょう。これで元気を出してください」
「やっぱ楽しんでるだろお前っ!?」
「いえいえ、玩具としてです」
「玩具つったな今」
始まってからずっとこんな感じだ。世界を救うというのに緊張感がありません。ですがそろそろ気になってきました。彼が何を背負い、世界を救おうとしているのか。そもそも何から救おうとしているのか。ここは分かりやすく魔王とかならいいのですが。
「そろそろ貴方のことを教えてください」
「言ったろ、勇者だって」
「ええ、役割はですけどね。何でそれに選ばれたのか、そもそも何と戦っているのか。何も教えてくれないなんてひどいですよ」
レーヴァは唇を軽く噛み締めて、目を逸らした。その表情は寝取られ現場の時よりも悲痛で聞いてはいけない事なのかと、問い詰めたのを一瞬後悔したほどだ。
だが彼は少しずつ言葉を紡いでいった。何故こんなにも苦しそうな表情を浮かべたのかはすぐに分かった。
「……俺が戦っている魔族なんだけど、本当に此処十年程度前に現れた存在でさ。自然発生じゃないんだ。誰かが人為的に産み出した種族」
「珍しい設定ですね。古くから戦っているものかとばかり」
「そうじゃないんだ。その魔族ってのを産み出したのが……、俺の親父。だから俺はその尻拭いをさせられているだけなんだ。勇者なんて名前で都合よく祭り上げられてな」
聞いた事を少しだけ後悔をした。彼の背負っているものを考えると、この戦いは絶対に勝たねばならないもので……。何よりも……。
「……皆知った上であの男の快楽に堕ちてレーヴァを裏切ったんですか?」
「裏切ったんじゃないよ。ただ皆怖かっただけだ。自分の命を価値を知っているから。辛い道よりもただ気持ちいいだけの方が遥かに楽だから」
少しだけ寂しそうだけど、世界を救うという確固たる意思は決して折れない。
彼は本当の意味で勇者だったのだ。
──でもちょっとズルいですね。そんな事言われたらちょっと優しくしたくなるじゃないですか。
「……友達として少し優しくしてあげましょう。今日は手を繋いでいいですよ」
「玩具と書いて友達だろ?」
「友達と書いて友達です。そんなこと言うなら優しくしてあげませんよ? そんなんだから女の子達を寝取られるんです」
「悪かったよ。じゃあ今日だけはお言葉に甘えさせていただきますよ、ニュクスさん」
フフと笑い合い、少しだけ震えた手をゆっくりと握り締める。いつもの暴力的な快楽とは違い、何とも心地の良い絶頂に襲われ、気持ちよく就寝する事が出来たのだ。
◆
「……なんですかこれ」
起きた時に背中が強い違和感を覚えた。背中に何か引っ付いている感覚が拭えず、手を伸ばし取ろうとするも引っ張ると痛い。仕方がなく、湖に向かい水の反射で背中に何が引っ付いているかを確認する。
「……なんだそれ」
いつの間にやらレーヴァも起きていたみたいで僕の姿を見て驚いたようだった。
当然だ。何故ならば……。
「闇の聖女って6対の黒い翼が生えるんだな……」
「超絶不便なんですけど、その剣で何とかしてくれませんかね?」
「斬れと?!」
どうしよう物凄く邪魔だ。一体何故こんな翼が生えたのか分からないが、素人の考察をするならば睡眠中にずっと触れ合った結果、淫魔として進化したのではないでしょうか? いや何でもありですか淫魔。
「収納……出来ないですかね?」
「出来るよ」
後ろを振り向くと同じように六対の翼を広げた……、勇者の家で間男に寝取られ堕ちた筈の白き聖女が立っていた。
「……一体どうしたって言うんですか?」
警戒を強くし、僅かに拳を握り締める。あの間男がもしかしたら僕も狙っているかもしれないと思ったのだ。力尽くで組み伏せた後で僕を……。
「そう警戒しないで。私はあの男から逃げてきただけなの……。だって二人が楽しそうに旅をしているのを見て、快楽よりも私は二人に付いて行きたいって。信じてくれるよね?」
……え、見てたんですか?
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