海原
荻原ツユ
第1話 海原2022.12.14
「初学者のハイ」を私は割合重要なものと思っている。それがなければ、最初の草むらで新たに出会うたび経験値が入りレベルが上がるあの感覚を楽しいと思えなければ、その後の「私は何も知らない」という孤海に漕ぎ出せないように思うのだ。そしてそこを少しゆくことさえ出来れば点の知識は繋がり、ネットワークを形成し、空に星が煌めく。
海原は広く暗くどこまでも果てがない。なぜなぜと集めた輝きは零れ落ちて彼方。あの高揚は既にない。しかし星の明るさを、鋭い喜びを知ってしまっては、戻ることも出来ない。見上げればいくつかの星座。月は明るく、星稀に、ある筈の光が見えないことも多い。それでもそこに幾千の物語があることを、私はもう知っている。
振り返れば遥かに街の灯りが見える。鮮やかなネオンの中で弾ける賑やかな声が聞こえる。どうしたらそこに居られただろうという憧れを抱いて寒風の中、月を見ては暖かな田舎を思う。
たまに行き交う他の船は私のそれよりずっと立派で速くて頼り甲斐があって快適そうで、足元を見れば暗闇にひたひたと波の音がする。それでも私の乗るべき舟はここにしかない。何処を目指したらいいか私にだって分からないけれど、代わりに何処に行くも自由だ。
誰が読むか分からない手紙をボトルに詰めて流す。時折拾った手紙は私にとって宝物だから。きっと他の人にもそうだろうと信じて。
ーーー
第一段落までは私のつぶやき(を一部改変したもの)
それ以降は頂いたお手紙から「街、ネオンサイン、子供、なぜなぜ、点を集める、ボート、海に漕ぎ出したから星が見えた、星座は点と点のつながり」などを拾ってお返事を書いたもの。
人は皆、誰か何かに憧れて、手に入らないものを欲しがりながら生きているのじゃないかしら。
海原 荻原ツユ @suzushiro775
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