魔法の鍛え方

 ハヅキは心配ないということで、後日〝選民ペキュリアーピープル〟の活動に参加する約束をして別れた。順調だったが、ハヤトにとっては何もかもが初めての経験なので少し疲れを感じてしまった。ハヅキを不幸にしたくないという思いが強すぎて、必要以上に緊張してしまったせいでもある。


「さて、拠点に戻ろうか」


 ユウヤの一言で三人は学園に向けて歩き出した。


「今回はかなり特殊なケースだった。あんなに話ができて一発で説明を理解する生徒は今まで見たことがない」


 タクミがハヤトに説明する。こんなに簡単にいくものだと思わないようにと忠告しているのだ。もちろんミサキの件に直接関わったハヤトは言われるまでもなく分かっていた。


「だいぶ時間が節約できたね。少し休んだら、今度は魔法の力を鍛える修行をしよう。ハヤトも強くなりたいだろ?」


「ええ、お願いします!」


 ハヤトにとって、それだけが彼等の活動に参加する目的だった。少しでも早く強くなってアリサを救いに行かなくてはならない。今の彼には強力だが狭い範囲しか守れない盾と、まだ使っていないからどれだけの強度があるか分からない障壁バリアを出す魔法しかない。ただ、先ほどのハヅキを見て自分でも新たな魔法を使えるかもしれないと感じていた。今のハヤトには試してみたいことがある。


「やる気だね。それじゃあ十一時に生徒会室へ。簡単にやることを説明して、昼食の後から本格的に修行を始めよう」




 そして時間になり、ハヤトは生徒会室へやってきた。魔法の話なのですぐに奥の部屋へと移動する。


「来たな。魔法を鍛える方法は俺が教えよう」


 修行を担当するのは副会長のタクミらしい。ユウヤが瞬間移動するのは知っているが、このいかにも武闘派に見えるタクミがどのような魔法を使うのかには興味があった。


 お互いに手の内を見せないようにする方針なので丁寧に教えてはくれないだろうが、これまでの情報から彼が戦闘員であることは分かっている。となれば、リョウタやマサキのように武器を出すのか、アリサやハヅキのように属性そのものの力を放出するか。あるいはユカのように自身の肉体を強化するのだろうか。修行の説明でそれも絞られてくるだろう。


「まず魔法にはそれぞれ得意な属性があることは知っているな?」


 タクミの問いかけを受けて首を縦に振ると、向こうも満足気に頷く。


「魔法の強さは、魔力と呼ばれる術者の生命エネルギーで決まる。魔力の強さには二つの種類があり、一つは術者が体内に蓄えている魔力の総量で、もう一つは一度に扱える魔力の量だ」


 燃料タンクの蛇口から燃料を注いで使うように、自分の身体という魔力のタンクから使う魔力を放出して消費するのだ。イメージはすぐに浮かんだ。そのタンクの容量と蛇口の口径を拡げるのが魔法の強化というわけだ。


「一度に使える量を増やす方法は分かりやすい。魔法を何度も使うことだ。筋トレで筋肉が鍛えられるのと同じ要領だな」


「なるほど、魔力を使って消費した後に超回復が起こるんですね」


「ああ、そして魔力の総量を増やす方法だが、こちらは簡単ではない。時間の経過で勝手に増えるものだ。だから長く生きる天使や悪魔は強いんだ」


「えっ、それじゃあ人間はどうあがいても悪魔に勝てないってことですか?」


 生きた年数の差は埋まらない。となるとハヤトはいつまで経ってもゴモリーに勝てないということになる。それは困ると眉をひそめたら、タクミが口角を上げて笑った。


「ふふん、もちろん一気に強化する方法はある。魔力を外部から体内に取り込むことだ」


「魔力をパクパクしちゃお〜」


「何かを食べるんですか?」


 横槍を入れるナツミの言葉に反応するハヤトだったが、今度はヤスナリが肩をすくめて言う。


「口から摂取する方法もあるがね、最も手軽な方法は自分の身を魔力に晒すことだ。簡単に言えば魔法を受ければ容量が増える」


「……つまり、魔法の攻撃を受ける?」


「御名答。でもそんなことをしていたら命がいくつあっても足りない。だから、我々は安全に魔力を浴びせる魔法を覚えることにした。要するに、相手に危害を加えない魔法をお互いに使うことで、容量と放出量の両方を同時に鍛えることができるというわけだ」


 なるほど、とハヤトは深く納得した。同時に、おそらく〝選民ペキュリアーピープル〟は皆が同じ魔法を使えるのだろうかと考える。


「白魔法ってやつですか?」


 ミドリが得意だと言っていた、相手を癒やす魔法を使えば説明された条件を満たすことができる。


「そうだね、理想は傷を癒やす回復魔法だけど、そう上手い話もない。属性ごとに得意な魔法も変わってくるしね」


 ユウヤが手のひらを上に向けて胸の前に上げ、言う。その手の上に、黒い塊が生まれた。彼の魔力は黒い色をしている。ミドリから徹夜で聞かされた話を思い出した。


「それは、闇の魔力ですか」


「さすが、あの魔女さんによく教わっているようだね。言うまでもなく、闇の属性は回復魔法に向かない」


 闇属性で回復するイメージとなると、不気味なものを想像してしまう。納得すると共に、闇属性のユウヤはどんな性格なのだろうかと疑問に思った。


「相手を傷つけなければいいのだから、やりようはいくらでもあるさ。自分の属性を考えることだね。ハヤトは風属性だから癒やす魔法は得意そうだけど」


「癒しの風は戦争において最高に使い勝手が良いだろう。期待できるな」


 そう言って笑顔を見せるタクミの顔を思わず見つめてしまう。言われてみれば、盾で防ぐのと合わせて誰かを守るのにこれほど都合のいい能力もない。


「風属性はどんな魔法を使うにしても発動速度、効果範囲共に優れているからね。使い勝手最悪の闇属性とは大違いだ」


 自虐的に言うユウヤに、その場の誰もが曖昧な笑みを返すことしかできなかった。

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