勧誘活動
日中に行う活動といっても、生徒会の仕事ではない。〝
「日中に我々が行っているのは、主に勧誘活動だ。アマテラスの禁止事項は魔法で戦うことなので、魔法を戦闘以外の目的で使っても現れたりはしない。そうでないと常時魔法が発動しているナツミはとっくに炭になってるからね」
言われてみれば、アマテラスは魔法バトルするなと言っていた。最初に現れた時には〝黄泉の力〟を使うなとも言っていたが、それは黒魔法にあたるものを指しているのだろう。ユウヤが言うようにナツミが無事でいる以上、魔法を使うことそのものを禁止しているわけではないことは疑いの余地がない。それでも日中に攻撃魔法を使ってお咎めなしだった例がいくつか思い浮かぶのだが、これについていま深く考える必要はないかと一旦意識の外に追いやった。
「ということは、魔法を使って勧誘活動しているんですか?」
「そうだね、ただもう一つ重要な事項として、天使は常時魔法が使われた気配を探っている。我々が魔法を使っていられるのは天使の目から隠れるゴモリーの魔法が効いているからだ。そして当然、目覚めたばかりの者は隠されていない。だから天使に先を越されたり、勧誘活動中にやってこられたりする」
ハヤトが天使と遭遇したのもその流れだった。だがその後の騒動で天使の姿が見えないことで徐々に彼の中で天使に対する不信感が生まれてきている。実際にはミサキの前に現れたし、アリサの時は例によってゴモリーの妨害で気付けずにいたのだが。その情報をミドリから得たガブリエルが新たな策を講じているが、ハヤトも〝
「ゴモリーか……」
「心中穏やかでないのは分かるけど、言ったろ。利用できるものは最大限利用するんだ」
ゴモリーの力に守られるという状況に抵抗感があるハヤトが思わず呟くと、それを聞き逃さずにユウヤがたしなめた。つまらない感情よりも自分の目的を優先しろということだ。少し前のハヤトなら、顔色一つ変えずに同じことを言っていただろう。
「そ~いうのはいいからさ~、さっさと活動の説明しよ~」
ナツミがしびれを切らしたように急かした。〝
「ごめんごめん、説明に戻るけど我々は町中に網を張っていて、目覚めた者が魔法を使えばすぐに分かるようになっている。それをヤスナリが確認して、対応できるメンバーを選定し対象者に指示を出すんだ」
戦闘員ではないというヤスナリの役割はそういう部分だろうと予想していたので特に驚きはない。どんな魔法でそれを実行しているのか興味が湧くが、同時に盾と障壁しか出せない自分はどの役割になるのだろうと気にするハヤトだった。
「今はまだ目覚めた者もいないようだし、勧誘の流れについてシミュレーションで説明しよう」
そう言ってユウヤが役員達に目配せし、ハヤトに説明するためのシミュレーションを始めようとしたところをヤスナリが手を挙げて制した。
「待った。ちょうど誰かが目覚めたようだ」
その言葉に、役員達の表情が一気に引き締まった。
「実際に勧誘をしているところを見てもらった方が早いだろう。ユウヤ、タクミとハヤトで向かってくれ」
ヤスナリがメンバーを選び、部屋にある地図に手をかざした。すると地図のある地点が赤く光る四角い線で囲われ、拡大される。と今度は現場の映像が映し出され、そこには一人の人間がいた。夏休みに入ったというのに、阿僧祇学園高校の制服を着ている。女子生徒だ。部活動などではない。この格好で町を歩いていたのだ。買い物だろうか?
「天使はいないみたいね~」
「何の魔法を使ったか分かるか?」
のんきな声を上げるナツミを押しのけ、タクミがヤスナリに質問する。
「どうやら、火を起こす魔法だ。寒気を感じて暖を取ろうとしたんだろう」
「よくいるタイプだね。他者への害意で魔法を使ったのでなければ、勧誘は比較的容易だ。彼女は一年の
ユウヤが姿を見ただけで該当生徒の名前や成績、授業態度まで解説したことで、ハヤトの中に今までにない驚きと不安が去来した。生徒会長というのは全校生徒の情報を把握していなくてはならないのだろうか、他人に興味の薄い自分には荷が重い。
「よっし、いくぞ二人とも!」
動揺するハヤトを尻目に部屋を出ようとするタクミである。ユウヤがハヤトの肩をポンと叩き、その後に続いたのでハヤトも気を取り直して後を追う。
ハヅキという名の後輩をミサキのようにしてはいけない。そんなエゴにも似た使命感に駆られて静かな校舎を後にするのだった。
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