生徒会の仕事

「生徒会とは、ここにいる役員の集まりではなくこの阿僧祇学園高校に在籍する全ての生徒による学校運営組織のことだ。大半の生徒はそんなこと自覚せずに生活しているけどね。部活動の部長や会計をしている人にとっては、かなり重要な意味を持つ」


 ユウヤが生徒会について説明を始めた。この学校独自の要素があるわけでもなく、一般的な生徒会運営の話だった。ハヤトにとっては、知識としては知っていたけど自分のこととして考えたことはないという内容だ。なので興味深く聞いていた。リョウタはあまり興味が無さそうだが、生徒会会計につくなら誰よりも詳しく知っておかないといけない内容だろう。


「リョウタ、君には生徒会予算の振り分けをしてもらうことになる。つまりこの学校に存在する二十三個の部活から来年度の予算希望を受け、その内容を吟味した上で生徒会予算から各部活へ予算を出す仕事だ。生徒会予算には実際に学園が用意したお金による現金支給と自治体に請求して道具などを直接もらう現物支給の二種類がある」


 生徒会の仕事で最も重要なものがこの予算分配だ。各部長にとっても一番の関心事であるため、生徒会長になるハヤトもよく知っておかないといけない。


「具体的なやり方は俺がリョウタに教えよう。いきなり難しいことから始めたりはしないから、心配しなくていい」


 現会計のヤスナリがリョウタに微笑みかけると、リョウタは戸惑いの表情を見せた。ハヤトの知る彼の性格からすると、今説明を受けたような仕事はかなり荷が重いのではないかと思ったが、指名されてここにきている以上は心配する必要もないのだろうと納得しておく。


「他には、学校内の行事を行う時に会長が中心となって動くよ。特に二大行事の体育祭と文化祭は、毎年周辺の住民から苦情が寄せられているので教師陣からも余計な横やりが入ることが多い」


 体育祭や文化祭はその名の通りお祭り騒ぎになるので騒音も大きく、周辺住民が苦情を言うのはどこの学校も同じらしい。ハヤトにはその苦情を減らす策があったが、それをこの場で披露する必要はないので黙って聞いている。


 そうやって一通りの説明が終わると、ユウヤが「続きは奥で話そう」と言い出した。先ほど説明されたナツミの能力から考えて、今度こそ〝選民ペキュリアーピープル〟としての話がはじまるのだろう。ハヤトには彼等の仲間になったつもりはないが、彼等の思想を聞く限り、魔法が使いこなせるようになった人間は基本的に仲間として考えているようだ。個人の考えの違いに対しても相当な寛容さを感じる。その反面、魔法を使えない人間や、使いこなせずに命を落とした者に対しては恐ろしく冷酷な姿を見せる。その部分がハヤトには受け入れられず、どうにかして天使に彼等の力を封じてもらいたいと思っていたりもする。


 奥の部屋に入ると、そこはハヤトにとって何だか見たことのある不思議な空間となっていた。何かの儀式に使うような妖しい祭壇、よく分からない形状をした置物の数々、いかにもな壺。妖しさではミドリの拠点に遠く及ばないな、とよく分からない優越感を抱きながら足を踏み入れるハヤトの様子を見て、副会長のタクミが感心したように「へぇ……」と呟いた。


「こちらが生徒会役員ではない、我々の活動の拠点だ。一般の生徒や教師達が入っても普通の部屋にしか見えないように結界を施してある。以前ユカさんに覗かれた時の教訓からゴモリーが魔法をかけたのさ」


 なるほど、ユカが見たのはこの部屋だったのかと納得する。ゴモリーはもう戻ってこないのだろうかと気になるが、あの悪魔とはなるべくなら顔を合わせたくない。


「どちらかというと、こっちの活動の方が忙しいのよね~」


「お前は非戦闘員だから大したことないだろ。夜中に町を走り回るのは一苦労なんだぞ」


「勝手に動き回る連中を監視するのも大変なのよ~、ね~リョウタ」


「うるさいな、俺はそこまで勝手なことはしてないだろ」


 ここにきてついにリョウタの声を聞いた気がする。ハヤトはあまり考えたことがなかったが、〝選民ペキュリアーピープル〟は〝習得者アクワイヤ〟を見つけて仲間に引き入れ、魔法の使い方などを教えたりしていると考えると相当に活発な活動をしていることが想像できた。それに加えて秘密を守る活動もある。初期はリョウタがやっていたように目撃者を抹殺しようとするような過激な行動に出たりもしていたが、すぐにユウヤがゴモリーに進言して別の口封じ方法を行うようになったらしい。


「目覚めたばかりの奴はだいたい攻撃的でね。タクミやマサキのような戦闘員が抑えないと勧誘もままならないのさ」


 ヤスナリが肩をすくめる。そういう彼は戦闘員ではないのか、と気になった。


「ハヤトが魔法で盾を出すのはよく知ってるよ。他に使える魔法があっても、活動に支障が出ない限りは教える必要はない。お互いにね」


 そしてユウヤが言う。必要以上に自分の能力を明かさないのがここの方針らしい。


「もちろん知ってもらう必要のある魔法は教えるよ~、私は『自動記録』の魔法で生徒会室内の全ての会話を記録してるからね~」


「ナツミの魔法はあまりにも致命的なので全員に知ってもらうことにしている。迂闊に秘密をばらされたらかなわないからね」


「面倒なことに、ナツミが記録した会話は燃やしたりしてもすぐに復活して処分することができないんだ。本人にもな」


 本当に面倒くさそうな顔で説明するタクミだが、それを聞いたハヤトも本当に面倒くさいと思ったので彼の気持ちはよく分かった。


「さて、せっかくだし我々が日中に行っている活動を手伝ってもらおう。いいよね?」


 ユウヤは当然のようにハヤトを仲間として扱う。他のメンバーも、リョウタすらそのことに不満を持った様子はない。魔法を使いこなす者は同志である、というのが彼等の最も強い理念なのだ。

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