共闘要請
屋外だと落ち着かないので、一同は報道部の部室に集まっていた。アマテラスはミウが「暇なら一緒に来るにゃ」と言って誘ったら大人しく付いてきた。一体何がしたいのだろうとハヤトは疑問に思ったが、今はアリサとゴモリーのことが優先だ。
「まずはっきりさせておきたいのだけど、あなた達は人間をどうするつもりなの?」
呼ばれてやってきたユカも含め、全員が席につくと、キョウコがミドリとミウに向かって質問をした。キョウコは天使や〝
「どうもしないにゃ」
ミウが毛づくろいをしながら答える。ミドリが補足のために言葉を後に続けた。
「私達は空を目指してここに来たんです。皇帝陛下も同じで、一切人間に危害を加えるつもりはありません。天使ともこの地球上で戦うつもりはないんです」
「決戦の地は空の彼方だからにゃ」
決戦の地、という言葉をミウから聞いて、やはり最終的にはあの天使達と戦うつもりなのだとハヤトは複雑な気持ちになった。対してキョウコは顎に手を当て思案している。ミドリ達の言葉が信用できるか考えているのだ。
「ミドリとミウは『回転する炎の剣』を探してるんだよね?」
ハヤトが最初の目的を再確認する。常軌を逸したトラブルが続いて、すっかり記憶から消えてしまいそうになっていた。だが今となってはこの言葉すら、何かとんでもなく不吉なものを示しているのではないかと思えてきた。
「それって、生命の樹に行く道を守ってる剣のこと? エデンの東にあるっていう」
ハヤトの言葉に、キョウコは顎に当てていた手を降ろした。
「知ってるにゃ?」
ミウの問いかけに、キョウコは肩をすくめて答える。
「場所までは分からないわよ。エデンの園はアダムとイヴが追放されたっていう楽園のことでしょ。具体的にどこなのか……よく言われているのはアルメニアの首都エレバンだって話だけど、あそこに生命の樹はないわよ」
「場所は問題じゃないのよ~、
急にアマテラスが話に入ってきた。それもかなりはっきりとした情報を語って。突然太陽神が喋り出したので、彼女の恐ろしさが記憶に焼き付いているユカが小さく悲鳴を上げて腰を浮かせた。
「アマテラスさんは空への道をご存知なのですか?」
「私を誰だと思ってるのかしら?」
「さっさと教えるにゃ」
ミドリとミウがアマテラスに詰め寄る。彼女達の目的は後回しと言っていたが、手がかりが見つかったなら話は別だろう。ミウが誘ったのもこれを聞き出すためだったのだろうかとハヤトは思った。
「それよりダアトにいるレヴィアタンを迎えに行ったらぁ?」
聞かれると、途端にそっぽを向いて話を変える。しかし彼女の言葉はハヤトにとって一番聞きたかった内容だった。思わず身を乗り出して質問してしまう。
「ダアトって、どこにあるんですか?」
「こらこら、慌てないの。さっきも言ったけど次元の狭間よ。
そう言って、キョウコはミドリとミウ、それにアマテラスへと顔を向ける。
「私達を信用してもらえるのなら、協力するのは構いませんよ。ただ、私達は私達の目的のために天使達とも交渉をしています。それでもあなたは平気ですか?」
ミドリが、キョウコに値踏みするような視線を向け、挑発的な口調で問いかける。先ほどとは逆の立場になった。
「問題ないわ。私は人間を守るために戦っているの。天使と意味なく戦う気なんて無い」
「私はこの国を守る仕事があるから無理ねぇ」
アマテラスはのんびりとした口調で、だがきっぱりと断りの言葉を口にした。ハヤトは内心ホッとする。これまでアマテラスからは攻撃の対象にされてきたのだ。正直なところ、彼女と仲良くできる気がしない。ミドリ達にとって重要な情報を持っているようなので、それだけ教えて帰って欲しいと思っていた。
「あなたに肩を並べて戦えとは言わないわ。でも人間を守る目的は同じなのだから、私達の邪魔をしないでくれるとありがたいんだけど」
「太陽の下で魔法バトルしなければいいのよ」
アマテラスの主張は首尾一貫している。実に頑固で面倒な神様だと思ったが、これはこれで逆に信用できるのかもしれない。条件さえ満たさなければ敵になることはないのだ。誰もが日中に魔法を使わないようにする理由がよく分かってきた。下手に刺激しないのが一番楽だからだ。
「あ、あの……カトリーヌさんは協力してくれるそうです」
ユカがおずおずと手を挙げて発言する。そういえばそんなのもいたな、と思ったがこのアマテラスと渡り合うミドリや底知れぬミウよりも位の高い悪魔だと聞いた覚えがある。姿や性格で強さを測ってはいけないのが悪魔というものなのだろう。
「戦力はいくらあっても足りないからね。アリサさんが帰ってくるまでは仲間集めは私とユカさんで、ハヤト君はそれよりもアリサさんをなだめる方法を考えておいて」
「あ、うん……」
一番難しい役目である。ハヤトにとってアリサは大切な幼馴染だが、アリサにとってのハヤトはそうではない。どんな態度で接すれば彼女は損ねた機嫌をなおしてくれるだろうか。そう思い悩みつつも、アリサを取り戻せる可能性が現実的に存在するという事実に心が軽くなっていた。
「話が決まったところで、門番について吐くにゃ」
ミウはうやむやにされずにアマテラスへ情報を求める。ハヤトはここにいる面子で一番しっかりしているのがこの黒猫だと実感した。
「ふふ、ライオンの頭を持つ天使に心当たりはないかしら?」
それだけ言うと、アマテラスはさっと窓から外へ出て、光になって消えてしまった。これ以上情報を与えるつもりはないということだ。そしてハヤト達はライオンの頭どころか、ライオンそのものの天使を知っている。
「ライオネル……と、レスティマですね」
ミドリの言葉にミウが頷く。ハヤトは名が挙がった天使の姿を思い出す。ライオネルは翼の生えたライオンだが、レスティマは薄布に身を包んだ美女だった。あの二人が門番ということだろうか。『回転する炎の剣』は、結局どこにあるのかわからずじまいだ。
そう思っていたのだが、それが間違いだったということをハヤトが知るのは、もう少し後になる。
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