歓迎会
報道部の部室では、キョウコがアリサとユカを仲間として歓迎するためにささやかなパーティーを開いていた。彼女のお眼鏡にかなったというわけではないが、ユカが〝
「本当はアリサちゃんとハヤト君の歓迎会をするつもりで用意してたんだけど……ハヤト君はまだ
「何でもお見通しなんだね。昨日のことがあってまだ決めかねてるんだ。でもキョウコに協力はするよ、ミウにもそうしろって言われたしね」
ハヤトは人を殺そうとした〝
「こうして頼ってくれるだけで十分よ。ユカちゃんを連れてきてくれてありがとう」
「ね、ユカちゃんはどんな魔法を使うの?」
アリサは魔女になったというユカに興味を示している。ハヤトの目には彼女が後輩と仲良くしようとしているように映り、これなら大丈夫だろうと思っていた。
「あ、私はまだ魔法を教わっていないんです。カトリーヌさんは私に使わせたい魔法があるみたいですけど、準備が出来るまで秘密だそうで」
カトリーヌはユカを自分のパートナーとして鍛えようとしているらしい。ハヤトも昨夜の戦いで盾しか使えないのは危険だと感じていたが、それでも他者を攻撃する魔法を覚えたいとは思えない。相手の動きを封じるような魔法があればとも考えたが、悪用できる力はやはり怖い。リョウタの姿を見て、自分が闇に堕ちないでいられる自信を持つことがどうしてもできなかった。
「ふぅん」
あまり話題の広がらない返答に、話す言葉を無くしたアリサは無言でジュースに口をつけた。何となく気まずい空気が流れる。このメンバーでは他愛のない雑談を楽しむという雰囲気でもないし、何より上級生達の一番の関心事である噂の話題はユカに気を使ってしまって口に出すのが憚られた。
ハヤトはキョウコの用意したスナック菓子をつまみながら、ユカの噂を思い返す。大した情報量はない。単に彼女が中学生の時に不良グループに襲われたというだけだ。具体的な時期や場所、相手のグループとやらの情報も一切なかった。だから最初に耳にした時からこれはデマだろうと思っていた。さすがにこんな噂の真相を探るようにアリサが求めてくることもなく、ただそういう噂があると聞いただけで終わらせてしまったのだが、今にして思えばこういう不名誉な噂こそ積極的に嘘であることを証明してみせた方が良かったのではないか。
「リョウタ君はどんな様子だった? 今日も来てたんでしょ」
キョウコがユカに尋ねる。二人は隣の席だ、さぞかし気まずい思いをしただろうとハヤトが思っていると、ユカが笑顔を見せた。
「ええ、元気そうでした! 挨拶しても素っ気ない返事しかしてくれないんですけど、それは元からなので……いつか、ちゃんと話ができたらと思います」
「じゃあ、当面は様子見だね。向こうは天使に情報が渡るのを嫌っているから、刺激しないようにしておきましょ。まあ天使なんかに手を貸すつもりは更々ないけど」
キョウコは天使と敵対している。悪魔にもいい感情は持っていない。その両方の勢力と付き合うことになるハヤトとしては、どうにも複雑な気持ちだ。個人的には天使にあの連中を大人しくさせてもらいたいぐらいだが、それをキョウコは望まないだろう。彼女は人間の犠牲者を減らすために活動しているという。立場的には〝
「話は戻るけど、ユカの悪い噂を流した人物を突き止められないかな。この高校内にいるはずだし、放っておいたらまた良からぬ噂を流すかもしれない」
ちょうど話も落ち着いたところで、ハヤトは意を決して噂の件を切り出した。ユカが嫌な顔をするかと思ったが、あまり反応はなかった。どこか不思議そうな顔をしている。なぜそんなに気にするのかと思っている様子だ。
「その噂でもちきりの時ならともかく、今は別の噂が大々的に広まってるから出所を探すのは難しいんじゃないかなぁ?」
アリサがもっともな感想を述べた。ハヤトも完全に同意なのだが、だからといって諦めるわけにもいかない。悪意ある人間が確かに存在するのだ。それも身近に。するとキョウコが悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開いた。
「ちょうどいいじゃない。ハヤト君とユカちゃんの関係が噂になってる今なら、犯人は嫉妬してまた新しい噂を流そうとするわよ」
「そうなんですか?」
自信満々に断言するキョウコに、さすがに不安そうな顔を向けるユカ。これ以上自分の悪評を流されるのは嫌だというのもあるが、恩人であるハヤトに更なる迷惑がかかるのは困る。だがキョウコはまた自信満々に頷いてみせた。
「そうよ。そもそもあんな噂を流して誰が得するかって考えたら、損得勘定で動いているわけじゃなく感情的に行動したものだと分かるわ。ではその動機は何か? 簡単よ、ユカちゃんが完璧美少女過ぎることに嫉妬して足を引っ張ってやろうとしたのよ。それも軽い気持ちでね。この年代の女子はそういうことをやるものなのよ」
どこまでも自信満々に断言するキョウコである。だが不思議な説得力がある。伊達に学校どころか町中に噂を広めて回っていないというところか。こう見えて何千年も生きているらしいので、年の功というやつかもしれない。そんなことを心に思い浮かべたハヤトだが、これは決して口に出してはいけないと己の魂が警鐘を鳴らしている。ここは曖昧な笑みを浮かべて聞き流すしかない。
そんなハヤトの横には、何やら思案する様子のアリサがいた。
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