巨人の手も借りたい
翌朝、ハヤトはユカと共に登校した。男女で行動すればあらぬ噂が立つのは目に見えているが、それでも命には代えられない。ユウヤはもう命を狙うことはないと言っていたが、信用できない。そしてユカは悪魔と契約をしたが、まだ魔法を使うことができない。日中はミドリやミウ、カトリーヌは外に出られない。となれば選ぶ道はハヤトが護衛するか登校を諦めるかになる。ハヤトとしてはユカを学校に連れていく必要があるので、もはや選択の余地はなかった。
「すいません、私のせいでハヤト先輩にも変な噂が立ってしまいそうで」
「僕はそんな噂なんて気にしないから大丈夫。前はアリサに焚きつけられて噂の真相を暴いたりしていたからね」
ハヤトはいくつもの噂を調査しては真相を突き止めていたのでよく知っているが、噂話なんてほとんどが嘘か尾ひれの付いた話だ。そしてそんな噂話で壊れるような人間関係は維持する必要がない。
とかく学生時代は、学校の中が世界の全てのように感じてしまい、ここでの立場が一生続くのだと考えてしまうものだが、いざ社会に出るとそんなものはただの錯覚だったと気付くのだ。
「アリサ先輩に……」
ユカは噂そのものよりも、それによって引き起こされるであろうトラブルのことが気になっていた。具体的にはハヤトとアリサの仲が険悪になる可能性を気にしていたのだ。二人のことは当然ながら高校、いや大学も含めた学園中で知らぬ者は無いほどに有名だ。だからこそハヤトに言い寄る女子も現れなかった。
ユカも二人は付き合っているものだと思っていたのだが、昨夜のミドリと話すハヤトの様子から感じるものがあった。もしハヤトとアリサの二人が恋人同士ではないのであれば、アリサが今の状況を見た時のショックは想像を絶するだろうと思っていた。当のハヤトはユカをアリサとキョウコに紹介するつもりなのだが。
◇◆◇
――なによあの女。なんでハヤトと一緒にいるの?
ハヤトとユカが並んで登校してきたという話はあっという間に学園中に広まった。さっそく至る所で様々な憶測が語られる。
「なあなあ、ユカちゃんがハヤト先輩と一緒に登校してきたらしいよ」
「ふーん、それで?」
「それでって、隣の席なんだし気にならないのかよリョウタ。よく話してるじゃん」
「興味ないね」
なぜわざわざ知らせてくるのだろう、とリョウタは内心苛立っていた。昨日の今日だ。どうせまた襲ってくるかもしれないからとハヤトが護衛を買って出たのだろう、と当事者であるリョウタは事情を察していたが、そんなことは知らない同級生が妙にしつこく話を振ってくるので対応に苦慮していた。本当のことを言うわけにもいかないし、自分はあの〝天才野郎〟に打ちのめされたばかりだというのに何度も名前を聞かされてうんざりだ。
「でもハヤト先輩とはこれからもよく会うんだろ?」
「なっ、なんで!?」
そこに思いがけない言葉をかけられ、面食らったリョウタは思わず立ち上がってしまう。そんな彼の態度に同級生は不思議そうな顔を見せた。
「えっ、だってリョウタは生徒会に入るんでしょ? 生徒会長が推薦したって話だけど、聞いてないの?」
「はぁっ!?」
◇◆◇
「ハヤト、凄い噂になってるよ」
ハヤトが教室に入ると、すぐにアリサが話しかけてきた。あれはどういうことなのかと問い詰める気満々な顔だ。ハヤトは彼女がこう言ってくることは最初から分かっていたので特に気にした様子もなく答える。
「そのことで話したいんだ、後でキョウコのところに行こう」
「キョウコちゃん? てことは……あの子も関係者なの?」
キョウコの名前が出て〝
ハヤトは軽く考えているが、アリサは彼等の裏を知っているからこそ、より一層気持ちが落ち着かないでいるのだ。だって、魔法使いではない自分には立ち入れない世界で他の女性|(しかも美女ばかり)と仲良くしているのだから。同じ世界に住む者同士ならまだ勝負になるけど、別の世界で生きる人達とは勝負の土俵にも上がれないのだから。
――顔がいいだけでチヤホヤされて。人生イージーモードってやつ?
休み時間に話そうとしたが、あまりにもユカのことを聞いてくる同級生が多いので昨日約束した場所に放課後、集まることにした。
「なるほど、そんなことがあったのね」
キョウコがうんうんと頷きながらハヤトとユカの話を聞いている。ハヤト達は現在、キョウコが部長を務める報道部の部室にいる。部員は彼女以外みんな幽霊部員だ。部を存続させるために同級生の名前だけ借りているらしい。向こうにとっても実質帰宅部でありながら、文科系の部活に所属しているという立場を得られるので悪くない取引のようだ。ここにいるのはキョウコ、ハヤト、ユカとアリサの四人である。
「それじゃ、ハヤトもユカちゃんも魔女になったってこと? 私もなれるの?」
「悪魔と契約すればなれるけど、危険なことに自分から首をつっこまないでよ」
アリサがハヤト達の仲間になりたそうな顔をしているので、釘を刺しておく。ネフィリムに協力するのだって本当はやめて欲しいのだが、彼女の行動を縛る権利があるわけでもない。
「そうそう。悪魔と契約なんて軽い気持ちでするもんじゃないわ。アリサちゃんはアリサちゃんのできることをすればいいのよ」
そんなことを言いながら、キョウコはユカを値踏みするように見つめている。ハヤトがここに連れてきたということは、つまりネフィリムの仲間に入れて欲しいということだ。だがキョウコとしても自分の意思で悪魔と契約するような人間をそう簡単に信用するわけにもいかない。
「あ、この子をキョウコに紹介したのは彼女の噂について聞きたかったからなんだ」
ハヤトは、ユカの悪い噂をなんとかできないかと思い、噂を操るキョウコを頼るつもりできたのだった。
「噂の出所? 少なくとも私じゃないわね」
「それは分かってるよ」
ユカの噂はおそらく彼女への嫉妬によって撒かれたものだろうと思っていた。だから魔法や地獄のこととは関係なく、なんとかしてやりたいと考えたのだ。
――せっかく噂を流してイメージダウンさせたのに、これじゃあ意味がないじゃない!
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