交わらぬ道
考えてみれば当然の結果だ。リョウタは魔法を使い続けていた。ハヤト達がやってくるよりもずっと前から空飛ぶ剣を操ってユカを襲っていたし、一度にニ十本もの剣を作り出してけしかけてきた。その上で光の剣を振り回していたのだ。道具に頼って光の盾を出していただけのハヤトとは比べ物にならないほどの重労働だろう。
魔法を覚えたばかりのリョウタはそんなことを教わっていない。急激な疲労感に襲われ、足に力が入らないほど衰弱して初めて、魔法を使いすぎたと理解した。
――なんでだよ。なんで俺はこうなんだよ!
怒りに任せて叫び声を上げたいほどの気持ちだが、声も出ない。まるで身体に力が入らず、ただ荒い息をつくことしかできずにいた。自然と目から涙があふれ、地面に落ちる。それも悔しくて、ぎゅっと目を瞑った。
そんなリョウタの姿を見て、たまらずユカが駆け寄る。ハヤトやミドリも、あとはユカに任せた方が良さそうだと判断した。リョウタはもう戦えない。関係の薄い自分達には彼の闇を晴らすこともできない。目の前で打ちひしがれるリョウタと泣きそうな顔で駆け寄るユカの姿を視界に入れながら、ハヤトは己の無力さを痛感していた。
「リョウタくん!」
「おっと、今の彼に変な同情心を向けるのはやめてもらいたいな」
そこにユウヤが現れる。ハヤト達がいる場所から少し離れた屋上の一角に立ち、その腕にはリョウタを抱えて。
「えっ」
驚きの声を上げたのはその場にいた全員だった。今の今までリョウタが四肢を床についてへばっている姿を見ていたのだ。それが突然姿を消し、離れた場所でユウヤに抱えられている。一瞬たりとも目を離していないはずだ。ユウヤ達の方を見れば、お姫様抱っこと呼ばれる体勢でリョウタが抱えあげられている。男同士だが、長身で美形のユウヤが小柄で童顔のリョウタを抱いている姿は妙にしっくりきた。
「……君は自分で思っているよりずっと周囲から評価されていることを知るべきだよ、リョウタ」
腕の中で悔し涙を流すリョウタに顔を向け、優しく語りかけるユウヤ。そしてすぐに呆然と立ち尽くすユカへ視線を向けて声をかけた。
「君は一年生のユカちゃんだね、
「でも、リョウタくんのことが心配なんです!」
生徒会長もあの集団の仲間だと知り、驚きというより困惑の感情が強いユカは、懇願するように返事をした。
「心配は要らないさ。我々の指導者は別に〝
「でも目撃者を殺そうとしたにゃ?」
「そうだね、それはこちらの判断ミスだった。口封じはしなければならないが、別に命を奪う必要はないんだ。私情も加わってリョウタが暴走してしまったのはすまなかったが、こちらも死活問題でね。
「独断って、どういうことです?」
ユウヤの言葉にミドリが不思議そうな顔をして質問すると、生徒会長は肩をすくめる。
「神に選ばれた人間を天使が攻撃するのはおかしいだろう? だが珍しいことでもない。彼等は融通が利かないからね。全てを語らぬ神の意志を誤解して、天使の間でもたびたび意見が割れているのさ。君達のことはゴモリーから聞いているよ。本来僕らと君らは味方同士のはずだ」
ユウヤは多くのことをゴモリーから聞いているようだ。そして彼女を崇拝している様子もない。騙されているのかは分からないが、一つだけハヤトにははっきりとさせておきたいことがあった。
「……僕は選ばれてなんかいません。魔法だって使えないんです。ミドリさんから貰った道具の力で光の盾を出せるだけで」
「それは――」
ハヤトの言葉にミドリが反応して口を開いたが、その言葉を遮るようにしてユウヤが笑い声を上げた。
「はっはっは、何を言っているんだ。君はその魔女さんから教わっていないのかい? 『道具を使ったり呪文を唱えて使用する魔法は、心でイメージするだけの魔法より高度なもの』だって。君は魔法の道具を使い、呪文を唱えて魔法を操っている。その証拠に、君自身もひどく体力を消耗しているだろう?」
ユウヤの言葉にを聞いて、目を見開く。そういえば確かにミドリから説明されていた。あの時はあまり意味を理解していなかったが、こうやって解説されると分かる。
確かに、自分は魔法を使っていたのだ。それも、リョウタより高度な魔法を。
「ではまた学校で会おう。生徒会の仕事も覚えてもらわないといけないからね」
そう言って、ユウヤはまた姿を消してしまった。どういう魔法を使っているのかは分からないが、相当手ごわい相手なのは間違いないだろう。敵対せずにすむならそれに越したことはないのだが、ハヤトはやはり、リョウタとユカの件を踏まえてゴモリーの仲間達を放っておくわけにはいかないと感じていた。
「とりあえず帰るにゃ。ユカも来るにゃ」
「はい、どうぞ」
ミウが言うと、ミドリがまた扉を出現させる。ユカが目を白黒させるが、大人しく従ってついてきた。
結局、リョウタを救うことができずに終わってしまった。今後どうすればいいかを考えるためにも、一度落ち着いた場所で話し合う必要があるだろう。
「――そうか、僕はもう〝まーちゃん〟だったのか」
扉をくぐりながらポツリと呟くハヤトの背中を、心配そうに見つめるミドリだった。
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