リョウタ
ハヤト達が魔力の調査をしている頃、リョウタは魔力を集中させて新たにより強力な剣を生み出そうとしていた。
「あの猫にも捉えられないほど速く……いや、数を多くした方が対処困難か」
ブツブツと呟きながら、邪魔者もろともユカを抹殺するための剣を幾つも空中に作り出していく。その背中に、男の声がかかった。
「リョウタ、第三者の介入を許した時点で目撃者の始末は失敗だ。諦めて他の者に任せなさい」
「うるせえ、俺はお前の部下じゃないぞ! 指図するな!」
声をかけてきたのは生徒会長のユウヤだった。ハヤトと同じく成績優秀な彼に対し、リョウタはやはり憎しみを抱いている。特別な力に目覚め、彼等のような天才の上に立ったと思った矢先にユウヤも同じく力に目覚めていたことを知った。その時の失望感は大きかったが、それでも〝選民〟の中ではこの天才とも対等な立場であるという事実になんとか救いを見出していた。
「そりゃ上司と部下という関係ではないけどさ、僕は学校の先輩だよ? なんでそんなに噛みつくかねえ。君も選ばれし者なのだから、もっと余裕を持ったらどうだ」
肩をすくめて、呆れたように言うユウヤである。そんな態度すら、リョウタの劣等感を刺激する。
「……俺は個人的にもあの女に恨みがあるんですよ。余計な口出しはしないでくれませんか、セ・ン・パ・イ!」
敵意をむき出しにして睨みつけるリョウタに、ユウヤはため息を一つ。
「君も貴重な戦力なんだ。つまらないことで天使に捕まったりしないようにね」
そう言い残すと、ユウヤはその場から瞬時に姿を消した。リョウタは目の前で姿を消した能力の仕組みを理解できず、また憎々しげに歯ぎしりをする。
「……天才野郎が」
吐き捨てるように独りごちると、また小さな剣を幾つも生み出していくのだった。
「こっちの方から同じ魔力を感じます」
ミドリの案内に従い、ハヤト達はリョウタのいる建物の非常階段を上っていく。雑居ビルのようで、入口に鍵はかかっていなかったが、閉鎖空間で罠でも仕掛けられていたら怖いという理由で、外側にある階段から行くことにした。
「高いところが好きなようだにゃ。きっとユカのことを上から見ながら剣を操っていたんだにゃ」
「あそこにいたのはみんな学校の生徒でした。私を襲ってきた剣も、その中の誰かが作っていたのでしょうか?」
「たぶんそうだと思う。〝選民〟は天使の目を盗んで仲間を増やしているから、目撃者をなんとかしようという短絡的な考えで攻撃してきたんだろう」
「短絡的?」
「うん。単に秘密を守るだけなら、他にいくらでも手立てはあるはずだよ。仲間に引き入れてもいいし、天使みたいに記憶を消してしまうことだってできるかもしれない。一時的な対処としては捕まえて監禁する手もある。いきなり剣で斬りかかるなんて、隠れている彼等にとってあまり良い手とは思えないからね」
不思議そうな顔をするユカに、ハヤトが自分の考えを説明する。そんな話を襲われた本人に語るのは少々デリカシーに欠けていたと気づいたのは、一通り話し終わってからだ。
だが、ユカの懸念は別のところにあった。
「……リョウタくんがやってきた可能性もあるんですね」
ユカは頭のいい生徒だ。状況的に考えて、自分にとって最も好ましくない事態が、おそらく一番可能性の高い予想になるだろうと考えていた。それは正解なのだが、彼女は更に踏み込んだ思考をする。
「リョウタくんが犯人だったとして、それは洗脳されているからなのでしょうか。それとも――」
「ただの予想で悩むのはよくないですよ。まず犯人をつきとめて、それから対応を考えましょう。事前にあれこれと考えていると、思い込みが先行して重要なヒントを見逃してしまうこともあります」
ユカの言葉を遮り、ミドリが話しかける。ユカはリョウタを救いたいと思っているのだ。だったらその気持ちをまっすぐに持ち続けた方がいい。ユカを見つめるミドリの目はそう語っているようだった。
「誰が相手でも、捕まえて天使に力と記憶を消させればいいにゃ。それでカイケツにゃ」
ミウの単純な答え。案外それが最良の道なのかもしれないと、ハヤトは余計なことを考えすぎる自分を戒めた。
「――危ない!」
そこに、ミドリの声。
「守れ!」
何かを考えるより先に、まず口をついて出たのは盾を生み出す呪文だった。同時にハヤトを襲ったのは、背中を強く押される衝撃。たまらずその場に倒れ込むと、何かが風を切る音が耳に届いた。それも複数。
慌てて首をひねり、上を見ると幾つもの小振りな剣がハヤトめがけて飛来する。すぐに光の盾で身体を隠した。
「僕を狙ってる!?」
狙われるのはユカだと思っていた。それはこの場にいる全員に共通する思い違いだ。リョウタの敵意は、今や完全にハヤトへと向けられていた。彼にとって最も許せないのは、自分に無い才能を持つ人間。それは魔法を使えないユカよりも、光の盾を生み出す優等生のハヤトの方がより当てはまるのだ。
「気をつけるにゃ、数で攻めてくる気にゃ」
ミウがハヤトの眼前に立ち、ミドリはユカをかばって階段の踊り場に待機した。飛来した剣二本を盾で弾きながら立ち上がったハヤトは、素早く剣の数を数える。
その数、実に二十本。五本を超えた辺りで数えるのをやめ、ハヤトはこの状況で取り得る最善の手を考えるのだった。
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