ユカ
「リョウタくんを助けてください!」
目前の脅威が去り、一息ついたユカがまず発したのは、他ならぬリョウタの救助を願う言葉だった。ユカは襲ってきた剣を操っているのがリョウタだとは知らない。怪しい集団の仲間に入って謎の美女に跪いていたのを見て、危険な宗教に洗脳されたのだと思っているのだ。当たらずとも遠からずといったところではあるが。
「リョウタって誰にゃ?」
「ひゃあ!」
黒猫が話しかけてきたので、魔法を散々見てきたこの状況でもユカは驚いて飛び上がる。そりゃ驚くよね、とハヤトは自分の時のことを思い出した。
「いきなり話しかけたら驚かれますよミウさん。この世界では猫は喋らないんですから」
ミドリがミウをたしなめるが、ミドリ達が来たのはこの地球上のどこかではないのかとハヤトは変な納得の仕方をする。考えてみれば悪魔は地球上に住んでいるとされることより、地球外のどこか(便宜上魔界等と呼ばれる場所)から呼び出されたり何らかの通路を通ってやってくるとされることが多い。彼女達もそうなのだろう。ミドリには人間であって欲しい気もするが、それは外見に囚われている〝こちらの世界〟の発想なのだろう。
「リョウタくんは同じクラスの男子で、いつも真剣に授業のノートを取ってる真面目な子なんです。それが、カルト宗教みたいなのに参加しているみたいで」
ユカが自分の見た光景を説明すると、ハヤト達は顔を見合わせた。それこそまさに自分達、正しくは天使達が探していた敵の本拠地である。生徒会長がリーダーのような振舞いをしていたことからも薄々感じていたが、どうやらゴモリーはハヤト達の通う学園を根城にしているらしい。〝習得者〟も生徒が多いのだろうかと思うと同時に、ハヤトはとても嫌な予想をしてしまった。
「ゴモリーにゃ」
「間違いない、〝選民〟だ。そこにいたってことは、リョウタくんも魔法を使えるんだな」
「そうなんですか!?」
もしや、さっきの剣で襲ってきたのがリョウタ本人なのではと思ったが、さすがにこの場で口に出すのは憚られた。いずれにせよユカの驚いた声で言葉を遮られたのだが。
「ええ。最近この周辺で突然魔法を使えるようになる人が多く現れているのですが、そういう人達に魔法の使い方を教えて自分の手下にしている悪魔がいるのです」
「それって、あの女の人が悪魔だってことですか?」
ミドリの説明に、ユカが青ざめる。リョウタは魔法使いになっていて、悪魔にそそのかされているということだ。どうすれば彼を救えるのか、考えてもまるでいい案は浮かばない。目の前にいる魔法使いの先輩達は力になってくれそうだが、それで安心できるというものでもない。
「うん、そうだよ。だからもう近づいちゃいけない。後は僕達がどうにかするから、その部屋がどこにあるのか教えてくれる?」
ハヤトは僕達と言うが、実際のところ光の盾しか使えない自分が主導で解決するつもりはなかった。ミドリ達から天使に伝えて貰うのが最善の策だろうと思っているし、それは間違いなく正しい考えである。だが、何事も思い通りにはいかないものだ。
「もう夜だからガッコウにはいないんじゃないかにゃ? たぶんこの子は今夜ずっと狙われるにゃ」
ミウの指摘はもっともだ。今から阿僧祇学園に乗り込んでもゴモリーや魔法使い達はいないだろうし、このままユカと別れればまた剣が彼女を襲う。今夜のうちに攻撃者と決着をつけなくては、この少女の安全を確保することは難しいだろう。
「心配は要りません。先ほどの魔力のトレースをしています。完了したらあの剣の魔力の波動と同調する人間を探していきましょう。その間、お互いのことを紹介しませんか? 名前も知らないですし」
ミドリがミウの砕いた剣の欠片が消えた辺りに何かの魔法をかけて、魔力の波動なるものを調査している。それが終わるまでの間に簡単な自己紹介などを済ませて、お互いの名前を知った。ユカはハヤトのことを知っていたが。
「ところで、ハヤト達も下の名前で呼びあうんだにゃ? こっちのニンゲンはだいたい名字で呼ぶって聞いてたにゃ」
ユカがハヤトのことを「ハヤト先輩」と呼んだのを聞いて、ミウが不思議そうに言った。仲の良い知り合い同士なら分かるが、初対面の相手も下の名前で呼ぶのが奇妙に思えたのだ。言われてみれば確かにとハヤトは頷いた。
「実は、私立阿僧祇学園高校の校則でお互いのことを極力下の名前で呼ぶようにするというものがあるんだ。理由は先生もよく分かってないらしくて、いじめ防止とか言ってたけどたぶん違うと思う」
「名前を、分かりやすく……なんか、どこかで聞いたような話ですね」
「なんでも結びつけるのは良くないにゃ。インボーロンにゃ」
ミドリとミウはよく分からない感想を述べた。何か心当たりがあるのだろうか。何はともあれ、ミドリが調べた魔力の波動を追って犯人を捜しに向かうことにした。ユカは離れたら危険なので一緒に連れていく。本人も非常に乗り気で、むしろ自分から連れていって欲しいと言ってきたほどだ。よほどリョウタのことが気になるのだろうと、複雑な気持ちを胸に抱くハヤトだった。
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