第30話 姫騎士

 ギルドの中は、建物の大きさと比例せず予想以上に閑散としていた。ちらほらと冒険者らしき人物と、一人二人の職員がいる程度。皆疲労しきっているのか、顔色があまり良いようには思えなかった。


 だが俺たちのことを認識した瞬間、冒険者たちはほんの少し希望が見えたかのような目で一斉にこちらを向き、カウンターに立っていた職員の女性が大急ぎで走ってきた。


 「……あっ、あの!もしかして広場の看板を見て来てくださった旅のお方ですか??」

 職員は若干慌て気味で言葉が詰まりそうになりながらも、懇望するかのような表情で俺たちに声をかけてきた。


 「はい……そうですが?どうしました?」


 「すみません、案内しますので至急こちらへきていただけますか!」

 なんだか切羽詰まった様子で、俺たちは全く状況が理解できないまま職員に案内され、三階へと向かった。


 道中、怪我人らしき包帯を巻いた人に数人ほど出会ったため、どうやらこのフロアは怪我をした人の救護施設的な場所となっているらしい。詳しくは分からないが様子を見た感じだと、どうやらかなり激しい戦いがあったようだ。



 「町長!旅のお方を連れてきました!」

 

 そう言って職員がとある部屋の扉をゆっくり開く。

 そこには町長らしき人物を含む五、六人くらいの人々と、苦しそうな表情をし横たわる一人の女性、そしてその女性の手を祈るように握る女性がいた。

 

 一目見ただけで、ハルも状況を何となく察したようだった。

 

 苦しそうに横たわる女性の体には、まだ生きていることすら不思議と思えるくらい、禍々しい魔物の角のようなものが深々と突き刺さっていた。

 


 おそらく医者や回復術師らしき人物が交代で治療を行っているのだろう。部屋にいる人々の表情からはかなりの疲弊が見えた。


 俺たちが部屋に入るやいなや、真っ先に白髭を生やした町長らしき人物が駆け寄ってきて、懇願された。


 「旅の方、お願いします……。どうか……どうか姫騎士シェリア様をお救いいただけませんでしょうか……!!」


 どうやら、この今にも死んでしまいそうな女性が、シェリアという人物らしい。

 続け様に横たわるシェリアの手を握っていた女性が、泣きながら俺たちの足元を掴んで懇願する。


 「お願いします!!!!シェリア様を……シェリア様をお助けください!!!!お礼は……何でもいたしますから!!!!」


 他の回復術師や医者、ギルドの職員らしき人物たちも一斉にこちらを向き、願うような視線で見つめてくる。


 「分かりました。力になれるかは分かりませんが、やれることはやらせていただきます」

 俺とハルは一度目を合わせ、うなづいた後、姫騎士シェリアの側へと寄る。



 俺は早速回復魔法を施そうとすると、ハルに止められた。

 「ぱっと見ですが、何らかの呪いの類がかかっているかもしれません、そうなるとおそらくガルアさんでは厳しいでしょうから、私に任せてください」


 呪いという単語が出た瞬間、周りの人々からは驚きの声が漏れた。俺も呪いというものが存在することは本で読んだことはあったものの、それらしきものであるとはいえ、こうして直に見ることは初めてだった。だから、いくら回復薬や回復魔法を施しても状態が良くならなかったのだろう。


 心配そうに見つめる周りの人々を他所に、ハルは体内の魔力を急激に覚醒させ、回復魔法を施し始める。勿論その中には、解呪の魔法も入っているのだろう。彼女の真剣な表情と、中々お目にかかれないであろう強力な魔法の光に俺や周りの人々はしばらく圧倒されていた。



 「……町長さん、一体何が起こったんですか?」

 手が空いてしまった俺は雰囲気的には聞き辛かったものの、気になっていたことを町長に尋ねることにした。


 「……さすがに事の経緯くらいは話さねばなるまいか……よかろう」

 こうして町長は、この街と姫騎士シェリアに起こった顛末を語り始めた。

 

 

 


 

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