第29話 看板
運良く近場の街を指し示す看板や街道を見つけることができたので、俺たちはそこに向かってだだっ広い草原を歩いていた。
物陰があまりなかったため、空間魔法での移動は断念したのだが……久々に長丁場を歩くとなると、疲れるものだった。
けれどもひとまず、俺もハルも疲労の色を隠しきれないままだったが、なんとか街に着くことができた。
街の名前はドラティウムというらしい。以前の都市ほどではないが、そこそこな規模を持ち、石造りや木造の建物が多く立ち並んでいる。
だが、街の雰囲気が明らかにおかしかった。ちらほらと店が開いている様子は窺えるものの、どう考えても街行く人々の数が少なかった。おまけに、旅の人間は物珍しいのか、先ほどから街の人からチラチラ視線を向けられているような気がした。都市で購入した魔力隠蔽のためのネックレスをつけているおかげで、魔力関連での不都合が起こることは避けられるとは思うが……。
「魔力反応も特別変わったところは無さそうですが、なんだか、雰囲気が……悲しげ、というか……活気があまりありませんね……?」
「そうだね……少し情報を集めれば、何かわかるかもしれない」
こうして俺たちは、あまり怪しまれない程度に、情報収集することにした。
建物や店を見る限り、やはり特に変わった様子はない。いくつかの立て看板を見たものの、それらしき情報は得られなかった。
このままでは予想以上に時間を食ってしまうと考えたので、数少ない道行く人に尋ねてみることにした。
「すみません、私たちは旅の者でつい先程着いたばかりなのですが、この街のことを教えてくれませんか?」
俺は道行く男性に声をかけた。その男性は少し俯きげに、こう答えた。
「すまないが今はあまり時間がなくてね。……まぁでも、旅の人なら一度、この道を少し行くと噴水のある広場に出るから、そこに立ってる大きな看板に書かれてることを読んでみるといいよ。」
看板を読むと良いという答え方にいささか疑問を感じたが、ひとまずお礼をし、広場に向かうことにした。
「見えてきましたね、あれでしょうか?」
しばらく街中を進むと、一際大きな広場に辿り着いた。男性が言っていたように、大きな噴水と看板がある。
その看板には他の情報を押しのけるかのように大きな文字でこう書かれていた。
────回復魔法に自信のある旅のお方は、どうか、この先にあるギルドを一度お尋ねください。
回復魔法の使い手を探している……ということは、何かしらの事故か事件で、怪我人が多く出てしまったのだろうか?それならば、街を出歩く人の数が少ないのも納得がいく。
さてどうしようかとハルに目を向けると、彼女は行く気満々、といった顔をこちらに向けてきた。優しい彼女のことだ、魔法都市を救えなかった手前、困っている人がいれば助けたいという気持ちがあるに違いない。現に、俺も同じ気持ちなのだから。
「……せっかく来たのだし、行ってみようか」
「はい」
そうして俺たちは、先程の看板に招かれるように、ギルドの建物を目指して足を進めた。
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