第27話 戦闘──そして

 イリスの合図と共に、ハルが警備兵の足止めのための魔法を放ち、一網打尽にする。同時にガイオスはありったけの炎魔法で王もろとも側近四人を紅蓮の渦に閉じ込める。

 そして俺は何が起こっても対処できるように、俺たち三人に防御魔法と防御障壁を展開し、敵の動きに備える。


 「…………なんの真似だ?」

 長髪の側近の顔が苦虫を噛み潰したような顔に染まっていく。


 「こりゃ、まいったねぇ」

 短髪長身の側近は言葉とは裏腹にまだ余裕だというような笑みを浮かべる。


 「…………あぁ、あの時に消しておけば良かったナァ」

 どこかで見たことのあるようなヒゲ長の側近は顔を掻きむしりその顔がどんどん憤怒に染まっていく。思い出した。この人は図書館で出会った人だ。まさかこのような所で再会するとは思いもしなかったが。


 「……めんどくさいこと、するね……」

 白髪の側近は渦に閉じ込められてからずっとそれに向かって気怠げに魔法を放っている。だがそれが氷魔法であるおかげか、彼一人の魔法だけではまだ突破されそうにはない。



 「無駄だというのに」

 炎の渦が一瞬にして長髪の側近によって消し飛ばされた。

 

 次の瞬間。私たちと側近たちの頭上に時空の穴が生まれる。そこから出てきたのは──両手に既に魔法を構えているイリス。


 これにはさすがに驚いたのか、四人の表情が一気に曇ったり動揺の色を表したりし始める。


 「『重力魔撃グラビディウム』!!!」


 イリスの魔法は四人の側近をそれぞれ襲った。彼らは咄嗟に防御魔法を使うも、時空魔法に対抗するには威力が足りなかったのか、魔法がもろに着弾したのが窺えた。爆発と共に煙や音が大きく立ち上る。



 だが敵の魔力反応はまだ消えていない。

 俺たちは警戒を解くことなく煙が晴れるのを待ち、敵の様子を確認する。


 煙が晴れ敵の姿を確認できる前に、辺りを不安な空気が一瞬突き抜けていった。まずい、と思ったが間に合わなかった。

 途端、俺たち四人の体は地面に崩れ落ちる。


魔撃磁力リバディオラ


 短髪の側近が放った魔法は、桁違いの強さで俺たちを襲った。四人とも地面に跪かされ、どうにか体勢を整えるのがやっとだ。

 顔を上げると、側近四人はほぼ無傷だった。埃を払う仕草をする程度には余裕げで俺たちの頭には一瞬にして絶望の二文字が浮かんでしまう。

 

 「この私にこれを使わせるとは……大したものですね」

 そう言って長髪の側近は以前イリスが使ったものと同様の時空魔法を展開し、防いでいた。


 イリスもガイオスも目を丸くしてただその光景を見ていた。

 「信じられないものを見たような顔をしているがイリスにこの力を与えたのは私たち教団の──」

 

 「喋りすぎだ」


 ヒゲ長の側近が指をパチンと鳴らした瞬間、途端、長髪の側近の喋りも動きがぴたりと止まった。まるでそこだけ時間を切り取られたかのように。

 

 

 まずいどころの騒ぎではないと、俺の頭が警笛を鳴らした。ハルを見ると、彼女も同じことを思ったらしく、急激に魔力が高まっていくのがなんとなく感じられた。



 「さっさと失せろ」

 白髪の側近が百は降らないであろう魔弾を涼しい顔で俺とハルに向かって凄まじい速さで撃ち出す。それに俺たちは咄嗟に魔法障壁を展開して構える。だが────

 



 「『亜空ディメント』」

 イリスが俺たちの前に立ち、魔法を打ち消してくれた。それにガイオスが呼応するかのように、二人側近四人を煉獄の渦に閉じ込める。今度のものは、明らかに先ほどよりも強く、大きかった。

 

 「…………巻き込んで申し訳ありませんでした。私の出すワープホールで、どこか遠くへお逃げください」

 その時のイリスの顔は、全てを察し、諦めたかのような清々しい顔をしていた。

 

 

 「おのレェ小童どもめ、許さんぞォ!!!!喰らうがいい!!『断罪ジャッジメント』!!!!」

 長髪の側近のその言葉と共に、怒りに狂った側近たちはが同時にとてつもない量の魔力を解放し、それぞれ得意であろう魔法を放つ。

 それは一つに重なり────ブラックホールのような球体になり、速度を落としたものの徐々にこちらに向かってくる。

 この距離では経っているだけで少しでも気を抜けば吸い込まれそうな勢いだった。


 「これは…………私やガイオスではどうしようもありませんね」

 そう呟いたイリスは後方に俺たちが脱出するようのワープホールを作り出した。




 このまま、諦めてしまうしかないのか。けれどもその瞬間。


 「……いいえ、まだ私たちにもできることはあります!」

 咄嗟にハルに腕を掴まれ真剣な目でこう言われた。

 「魔力枯渇を前提でお願いがあります。後の責任は全て取ります。私が多少魔力を譲渡しますから、渾身の力で時空魔法を放ってください。私の空間魔法と合わせて、アレを止めましょう!!」


 そもそもそれをやってどうなるのか、解決するものなのかという疑問を持つ時間も、決断に迷う時間はなかったが、断る理由も無かった。



 大丈夫だ。今回はハルが俺の手をちゃんと握ってくれている。以前のように一人じゃない。そう思うと、彼女の力抜きにしても自然といつもより力が湧いてくる気がした。


 「『時空魔撃ジオ・ディアント』!!!!!」


 俺は彼女に貰った魔力と合わせて、かつて使ったもの以上の、最大級の時空魔法を放つ。

 


 

 


 


 

 


 

 

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