第26話 四人の側近
結論から言うと、この日、魔法都市トートラスは、地図上から消えることとなった。
俺とハルは予定通り、ガイオスに連れられ、国王に謁見することとなった。
王宮は豪華絢爛で、いたるところに警備の兵士が立ち並び、蟻一匹すらも通さないような警戒ぶりだった。
「国王、想定外のトラブルにより予定が一日遅れてしまいましたが、水晶球を割る魔力の持ち主を連れて参りました」
玉座の間には、国王と側近四名、それに警備兵が十数名ほどいた。各々の強さは分からないが、この程度の警備兵の人数なら計画の実行はそれほど難しくはないだろう。
「魔法使いのガルアです。修行のため、旅を続けている途中に、この国を訪れました。」
「同じく魔法使いのハルです。彼とは道中で出会い、目的が概ね一致したため、一緒に同行させていただいています」
何をどう話すか悩んだが、何の変哲もない一般人のように振る舞えただろうか。それに、修行の目的で、というのは嘘だが、こんなところで本当の目的を話すこともない。
「……ほぅ、若いというのにその魔力の強さを持つものとは、素晴らしいものだな」
国王ではなく、側近の一人が俺たち二人をジロジロと見た後答えた。短髪長身。その放つオーラは只者ではないことを充分に感じさせる。
「ありがとうございます」
「もしよければ、うちの用心棒として雇うことも考えよう、いかがかな?」
また別の側近が俺たちに用心棒として働かないかと提案してくる。こちらも細身の長身で、男性だが髪は黒く長い。一番年上なのだろうか、オーラはもちろん威厳も兼ね備えている。
「お言葉ですが、私たちはまだ旅を続ける予定ですので……申し訳ありません」
返答を聞くやいなや、彼は少し残念げな表情をしたものの、すぐに無表情に戻った。
「で、ガイオス。イリスは結局捕まえられそうなのか?」
また別の側近がガイオスに尋ねる。……はて、どこかで見たような顔と聞いたことのあるような声……そんな気がするが、確証がない。
「申し訳ありません。彼女は私の当初の想定以上に強くなっており……まだまだ時間がかかってしまうかと……」
途端、ガイオスの右頬を高速の氷の弾丸が掠める。弾丸はドーンという音と共に王宮の床に突き刺さり、警備兵たちがざわめき始める。
ガイオスもこれには肝を冷やしたようで、その手足には震えが見えていた。
「…………役立たずが」
「おいっ!またお前は床を……」
長髪の側近が怒るも、本人は全く聞いていない様子。
「早く……しなよ……。でないと……次こそ君……死ぬよ?」
弾丸を放ったのは白髪の男。細身で長身なのは他の側近と変わらないが、彼だけは異様なほど雰囲気が異なっていた。片目は髪で隠れて見えないが、見えている方の目は不気味なほど紅色を輝かせている先程の魔法で確信した。この四人はおそらく相当強い。
「もっ、申し訳ございません!!」
すかさずガイオスが頭を下げて謝罪する。
一連の騒ぎの間も、王は一言たりとも口を動かさなかった。その目も虚のまま。
てっきり王を操っている黒幕は一人だと思っていた。だがこれを見る限り、相手は四人だ。
ガイオスの謝罪の後、無言の時間がしばらく流れる。いつ仕掛けるのだろうかと、緊張で額を汗が流れ始める。
ドゴォォォォン!!!
王宮の外から爆発音が鳴り響いた。最初の合図だ。更に立て続けに爆発が起こり、建物は揺れ、各所の窓ガラスが割れる音が響く。
何事かと、すかさず警備兵たちが一定の人数を残して玉座の間から出ていった。その様子を見る感じ、慌ててはいるものの訓練された兵なのか統率は乱れてはいなかった。
だが側近たちは全くとして微動だにせず、王は反応すら見せなかった。
ゴォォォォン!!!!
先程とは少し音の違う爆発音が響き、王宮全体が再び揺れる。
イリスが起こした、開戦の合図だ。
俺は瞬時に両手に魔力を集中させ、敵の行動に備えた。
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