第25話 決起
「黒幕を倒すには、どのみち王宮に乗り込まなければいけません。そのためには、ガイオス、まずは貴方に頑張ってもらう必要があります」
「人使いが荒いな……でも、やるしかないな」
「貴方の情報通りなら、黒幕は玉座の間にいる可能性が高いでしょう。参謀位置に付く者はおそらく国王のそばにいるはず。お二人──ハルさんとガルアさんは、ガイオスに招かれた王皇軍の用心棒ということで、三人で国王その他諸々に面会してもらいます」
どうやら俺たちがまず王に面会するところから始まるらしい。少し厄介だが確かこの騒動が起こる前に面会する予定だったのがスライドしたと思うことにしよう。だが問題は────
「面会となったら、警備諸々は厳重になるが、お前はどうするんだ?」
ガイオスはおそらく空間魔法のことを詳しく知らない。というか知らないのも無理はない。アレは禁術といっても過言ではないのだから。
確かに肝心のイリスはどうするのか疑問だった。けれどもその答えは簡単だった。
「「『空間魔法』ですね」」
ほぼ同時にハルとイリスが答えた。
「私一人くらいならアレで移動できます。なので、相手の力量が分かりませんから、面会と称したお二人の力も借り、あの場を制圧すると同時に、黒幕を私が一瞬で叩きます」
覚悟は既に出来ている、と言わんばかりに、イリスは堂々と言い切った。
……あの穴って移動できるのかよ……と言わんばかりの表情で、ガイオスは目を丸くしていた。まぁ無理はないよね。
「玉座の間自体が魔法封印されていれば、話が変わってきますが……その場合は国王にお二人の力を見せるため……みたいな感じで乗り切ってくださいね、ガイオスさん?」
「…………無茶振りにも程があるぞ……」
小悪魔のような作り笑いをするイリスに難題を押し付けられ、彼は頭に手を当てて嘆いた。
「念の為に、お前たち二人がどれくらい強いのか教えてほしい。現に入国時に水晶を割ったとも聞いているしな」
……困った。どこまで俺たちの情報を喋るべきか。作戦を成功させる為にも、彼らの信頼を勝ち取るにも、本当のことを言ったことが良いのだろうが……思わずハルの方を向くと、珍しく彼女も少し困った表情で、俺が喋り出すのを待っていた。
「俺は攻撃魔法よりも、防御魔法とかの方が得意です。…………残念ながら俺の魔力量は壊滅的に少ないので」
そう言って俺は都市で買った隠魔のネックレスを外す。俺程度の魔力量なら、別に存在がバレても問題ないだろう。
これにはイリスもガイオスも予想外で驚いたのか、口をぽかんと開けてしまっていた。
「攻撃魔法全般は任せてください。ですが、私たちは自分たちの身を最優先で守らせていただきます」
「あぁ、それで構わない。教えてくれてありがとう」
ハルの魔法に関しては二人とも見ていたので、そのまま何事もなく終わった。結局時空魔法については一切言わずに終わった。
「ハルちゃんは、ガイオスと協力して場の制圧をしてほしい。で、私がもし失敗したら、その時は────」
「分かりました」
「ガルア君は、二人のサポートね」
「分かりました、任せてください」
「……巻き込んで申し訳ない」
「大丈夫です。俺たちが力になりたいと思って、今ここに残っていますから」
彼らの力になりたい。その思いは本当だった。イリスの空間魔法、黒幕の実力など、気になることはいくらでもあるが、ひとまずはこの問題が無事に収束することを願うばかりだった。
結局その日は、各々の場所へと戻り、決戦に備えることになった。
次の日、予定通り戦乱は休戦状態となり、都市には一時的な平穏が訪れた。
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