第24話 都市の黒幕

 「あら、しぶとさだけは一級品ですわね」

 イリスはガイオスに冷酷な視線を向ける。


 「てめぇ……今ここの魔力装置を破壊したら、この都市は滅びちまうぞ……今や全て魔力で動いていると言っても過言ではないからな……」

 深い傷を負っているのか、腹部を抑える手には血が滲んでいる。その声も先程会った時よりも覇気が無い。


 「別にこの研究所に手を下すつもりはありません。ただ私は、何も知らない民から魔力を奪い続けるのが見逃せなかっただけですから」


 「何にせよ、俺は上の指示に従わなければならない。残念だが装置の位置は教えられない」

 ガイオスは魔法陣を展開し、複数の炎魔法を放つ。だがイリスの『亜空ディメント』の前にはなす術がなく、吸収されてしまう。

 


 「……大丈夫ですか?」

 争う二人を横目に、ハルが吹き飛ばされた俺の元は駆け寄ってきて、高威力の治癒魔法をかけてくれた。


 「大丈夫……。それよりあの魔法……」

 

 「はい。空間魔法の一種ですね。それもかなり高度な。私としても出処をもっと探りたいのですが、難しいでしょうね……」

 もしかすると以前襲ってきた男が属する組織と関わりがある──そう思えて気が気でなかった。


 

 ……二人がやり合っている間に逃げるか?それとも一度首を突っ込んでしまったのだから最後まで結末を見届けるべきなのか??

 そう迷っているうちに、ついにガイオスが追い詰められ、膝をついてしまう。

 


 「上の指示って……貴方自身はどう思っているのですか?ガイオス」


 「…………それは…………」


 魔法陣の展開をやめ、ガイオスは俯いてしまった。

 「別に……俺はお前と無駄に争いたくなんてねぇよ……でも……お前も元とはいえ王族なら……分かるだろう……?」

 彼は牙を抜かれた獣のように、ボソボソと声を絞り出す。


 「じゃあ、決まりですね、私と貴方が今ここで争う必要は無い。それでいいじゃないですか」


 「いやそんな簡単な問題じゃあ……それに王族にはクソ強い《アレ》》が……」


 「簡単な話ですよ。そこのお二人の力を借りましょう。強い魔法使いが四人も揃えば、なんとかなると思いませんか??」

 イリスは一度俺たちを真っ直ぐ見つめた後、ガイオスに再び質問する。


 「……軍はどうしたら良い?」


 「停戦状態ということにしましょう。それならば、無駄な争いも起こることはないでしょう。その間に、わたしたちで王宮に向かいます」


 イリスは決意を決めたのか、凛然とした表情で俺たちに向かってくる。二人の話がとんとん拍子すぎて、理解がまだ完全に追いついていなかったが、ここまで来たらもう逃げられないだろう。まだハルは警戒心を剥き出しにしていたが、イリスに敵意はもう無さそうだった。


 膝をつき、頭を下げ、イリスは俺たちに希う。

 「どうか、お力を貸していただけないでしょうか、希代な旅の魔法使い様方」

 

 「はい」

 真っ先にハルが返事をした。彼女の意思は最初から決まっていたようだった。遅れて俺も返事をする。



 「確認ですが、倒すべき敵はこの国の王族達、ということですか?」

 俺は気になっていたことを聞いてみた。そもそも、この国の王族というものは、イリスやガイオスと同等の強さなのだろうか。そんな人物が十数人もいるならば、かなり厳しい戦いになりそうだが……



 一度目を瞑り、深く考えたような仕草をして、イリスは答える。

 「半分は正解ですが、半分は不正解です。……断言しましょう。今の王族全体……もとい現国王は誰かに操られている。と」

 

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