第23話 都市の秘密

 地下への入り口はあっさりと見つかった。何故なら負傷した兵がその扉付近に複数倒れていたからだ。負傷兵を運ぶ者や手当てをする者などが、ひっきりなしに動いており、どうやら俺たちに構う暇などはなさそうで、すんなりと進むことが出来た。

 

 恐る恐る、地下へと続く階段を下っていく。まだ明かりは見えない。だが俺でも、この先に莫大な魔力の反応を感じることが出来る。


 「光が見えた!あそこ────」

 ドクン、といきなり心臓を掴まれたかのような悪寒に襲われた。俺は胸を抑え、立ち止まってしまう。急激に汗や唾が止まらなくなってきた。まるでこの先に、何かとんでもないことに存在があるかのように。


 不意に、優しく手を握られた。

 

 「大丈夫です。何があろうと、私がついていますから」

 笑顔を取り繕ってはいるものの、彼女の表情からも不安の色は拭えていなかった。


 「……ありがとう。こんなところで怯えるわけにはいかないよな。自分が選んだ道でもあるわけだし」


 覚悟を決め、ついに階段を降りきり、大部屋へと足を踏み入れる。

 


 そこはまるで、研究所のような場所だった。


 中央には非常に大きなカプセルのようなものがあり、複数箇所から管が繋がれ、液体が注がれ溜まっていっている。真ん中程まで何かしらの液体が溜まっている。

 他にも部屋のあちこちには研究書のようなものや、実験器具のようなものが散乱している。


 そして、ざっと十数人以上の人が血を流して倒れている。

 

 

 入った瞬間、部屋の中心、カプセル装置の目の前に立つ女性に睥睨される。

  

 「また援軍かと思ったら、見たことのない顔ですね。格好も違いますし、どこのどなた?それとも、ガイオスの遣いだったりするのかしら?」

 水色の艶やかな長髪を翻し、その女性はこちらを向いた。情報が間違いなければ、この女性が反乱軍トップのイリスという人物だろう。黒く鋭い瞳、整った顔、服装の上からでも分かるほど引き締まったスレンダーな体。そして何より異質だったのは、その人が纏っている魔力だった。

 

 「……構えてください。何か異様な気配を感じます」

 俺もハルに言われるまま戦闘姿勢に移る。


 「ガイオスとやり合って、さすがに少し疲れてしまったので、あんまり戦いたくはないのですが……」

 イリスはおもむろに魔法陣を展開──しなかった。

 展開されたのは、黒紫色の穴。それも複数。例えるならば、かつてハルが見せてくれた場所と場所を繋ぐ、ワープホールのような何か。

 

 その穴から、複数属性の魔法が放たれる。

 

 「防御障壁!!」

 俺は咄嗟にシールドを貼り、魔法を防ぐ。その間にハルが攻撃魔法に転じる。

 「月蝕エクリプス

 光属性と闇属性を複合した強力な魔法がイリスめがけて放たれる。


 イリスは一瞬驚いた表情をしたものの、すぐに障壁──ではなく先程のような大穴を展開した。

 

 魔法はその穴に吸い込まれ、消えた。

 

 俺もハルも戸惑いが隠せなかった。何せ、一瞬にして魔法が消えたのだ。それもかなり強力な類の魔法が。


 「亜空ディメント

 次の瞬間、俺たちの背後に大穴が出現した。そこから現れたのは──先程放った魔法────

 それを認識する前に、俺の体は動いていた。コンマ数秒のうちに俺と放たれる魔法に向かって防御障壁を貼り直し、ハルを突き飛ばす。


 「がはっ!!」

 魔法を障壁で上手くずらし、角度を変え直撃を回避はしたものの、完全に防ぎきれず、大きく吹き飛ばされ、研究所の装置に体を打ちつける。耐え難い痛みに大きくえずき、ついに吐血してしまう。


 力を振り絞り、目を開ける。ハルは無傷のようだった。良かった……。

 


 「その魔法を、どこで覚えたのですか」

 憤怒に満ち溢れた表情と声色で、ハルはイリスに問いかける。百は下らないであろう魔法を展開し、まるで返答次第では即殺するぞという物理的威圧を兼ねて。



 「うーん……通りがかりの親切な魔道士さん?私が再び都市に戻るため力をつけている時にね、貰ったの。ちょっと手助けしたお礼にって」


 「その力は、本来は……」


 「らしいわね、使っている私ですらそう感じるほど負荷も大きいし強いもの。でも、頼るしかなかった」

 悲しげな声と表情で、イリスは語り出す。


 「少し昔話をしましょうか、この都市が、ここまで発展する、前の話。どこにでもある国だったわ、でも平和だった。でも、対外諸国なんかは色々と争いも起こっていたようで、それに自衛、対抗する手段にしたかったのかしらね。四年前、現国王がそこの馬鹿でかいカプセルを作らせてね、そこから変わった。電気、水、風、熱、土……魔法を駆使した都市の利便性はみるみるうちに向上していき、いつしか魔法都市なんて呼ばれるようになった。国民の魔力を犠牲にしてね。……要はね、国民はもちろん都市を訪れる旅人なんかからも、魔力を奪っているのよ。量が僅かだから、誰も気づかない。魔力を奪うデバイスが都市のいたる場所に埋め込まれていることも、知りようがない。そしてその魔力が一遍に集められている場所が、ここ」


 「結局、貴女は何がしたいのですか」


 「別にこの都市を破滅させようなんて思ってはいないわよ。ただ、民に黙って日々魔力を奪う。それを利用して最終的には他国に戦争を吹っ掛けようとしている。なんて、許されるわけがないでしょう?少なくとも、都市のあらゆる所に埋め込まれたデバイスは破壊させてもらうわ。でも、それを知る人物が中々口を割らないのよねぇ……」

 

 困ったような表情でイリスが見つめる先には、いつの間にか傷だらけのガイオスが立っていた。

 


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