第21話 王皇軍
「貴女を見込んでお願いがございます。是非そのお力をガイオス様の軍の為ににお貸しいただけないでしょうか?」
その上官らしき男は恭しく頭を下げて言った。
「話がいきなりすぎて、状況が飲み込めておりませんので、まずは説明をお願いできますか?」
ハルは落ち着いた声で、男にそう言った。
「失礼。私はガイオス様率いる王皇軍の上官、タロスと申します。先日、元王族イリス様の叛逆が起こり、今現在都市は混乱の真っ只中です」
「今は……都市中静まり返っていますが?」
「左様。イリス様の軍は現在都市西方の離宮にて籠城されています。昨日の宣戦布告後の戦闘以来、
大きな動き自体は今のところ無いのですが……」
「では、そのガイオスという方を中心にさっさと攻め落としてしまえば良いのでは?それとも、戦力的に負けてでもいるのですか?」
相手は軍のかなり上の立場の人間で間違いない。それもかなり強者面で身長も大きいのだが、彼女は全く物怖じすることもなく毅然とした態度で話している。俺ならば多少は萎縮してしまっていたことだろう。
「ここは魔法の発展している都市です。武力での争いが中心ならば、すぐ攻め落とすことも出来たでしょうが……広範囲高威力の魔法を使われでましたら、都市自体はおろか一般人にまで被害が及んでしまいます。加えてガイオス様の得意魔法もそのような魔法なのです。下手に刺激をしてしまえば、一瞬でここは火の海になることでしょうから、動きがあるまで様子見です。相手方も無害な市民を傷つけることは本望ではないでしょうから。そして我々は今、市民の避難誘導と、都市外部からやってきた有能な人物を勧誘している最中です」
改まった態度で上官、タロスは淡々と述べた。どうやら現在両軍共に互いの出方を伺っているらしい。
「話は大体分かりましたが、正直私たちには関係のないことですから、力を貸すのは無理ですね」
きっぱりと言い切った。こういうところは本当に尊敬できるなぁ。すごい。
「ですが、都市の危機なのです。どうか何卒、お力をお貸しいただけないでしょうか?」
再び頭を下げ、協力を乞い願ってきた。
なんか俺とノトスは完全に空気になっていた。
俺はもしこの戦いに参加することになったらどうするか考えていた。というか、イリスという人物がなぜ反旗を翻すことになったのかすごく気になってしまっていた。あと個人的には、ハルがあのイリスから魔力を不気味なくらい何も感じなかったという点も引っかかっていた。もっと、魔力やなんやらを隠せるアイテムなどがあるのだろうか。
一方ノトスはというと、ハルが水晶玉を割るほどの魔力の持ち主であること、王皇軍の幹部が頭を下げている現状にびっくり仰天といった感じで、ぽかーんと口を開けたままだった。
……なんか少し申し訳なく思えてきた。
「そう言われましても、私たちには旅を急ぐ目的もありますし……それに────」
「──苦戦しているようだな、タロス」
一瞬で兵士たちの身が引き締まったその声の持ち主は、燃えるような赤髪をした男、ガイオスだった。オーラといい魔力といい、常人とはまるで比べ物にならない強さを放つ。赤と黒の法服と外套のようなものをを纏い、余裕げな表情を浮かべていた。
「……ほぅ、球を割る程の人物がいると報告には聞いて、どんな魔女や魔人がこの都市に来たのかと思いきや、まさか可愛らしい女子だとはな」
「──っつ!!」
ハルは何かしら危険を感じたのか、顔に少し焦りの表情を浮かべ、俺の隣くらいにまで咄嗟に距離を取った。
「……貴方が、王皇軍のトップ、ガイオスさんですね?」
「そうだ。全く……私が直々に足を運ぶ前に、承諾を得てもらいたかったがな」
そう言ってガイオスはタロスを含む兵達を一睨する。
「まぁいい、そこの隣の男も一緒でいい。うちの軍に是非とも力を貸してもらいたい。」
「何度言われようが、私たちには手伝う道理がありません」
実際本当にそうなのだ。俺たちはたまたまこの都市に来たところで抗争が始まってしまったのだから。
「ガイオスさんは相当な手練だとお見受けしますが……一人でどうにかならないというレベルの問題なのですか?」
俺は恐る恐る質問をしてみた。実際、彼が本気を出せばこの抗争くらいすぐに鎮圧できそうなものだと思ったからだ。
すると彼は少しため息をついて、
「俺一人でどうこうできる問題ならとっくにやっているさ。だが現に、イリスの実力の底がしれなさすぎる。昨日対峙した時、思わず身震いしてしまうような何かを感じたのだ。この俺がまさか……とは思ったけどね」
「確かに、昨日見た時あの人からは怖いくらい何も感じませんでしたからね」
「だろう?まぁ協力するかは少し置いといて、うちの本部まで一度来てもらえないか?────つい先程、この抗争が鎮まるまで、この都市への出入りは禁じられたことだし」
まるで最初から、これ以外の選択肢は無い、と言わんばかりの言いようで、彼は俺たちにそう告げた。
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