第19話 争いの火種

 魔法都市に来て二日目、俺たちが宿から外に出ると、何やら街中が非常にざわついていた。


 「……なんか、このパターン前もありませんでした?」


 「……そうだな」

 二人して顔を見合わせ、どうしたものかと考えたが、とりあえず、様子を見てみることにした。


 

 「決闘だ……!」

 「まじかよ、あの有名な魔法使いで知られるガイオス様と……相手は誰だ??」

 「フードを被っていて分かんねぇが、ありゃ女だろ」

 「水色の髪色の魔法使いで有名な奴って知ってるか?」

 「さぁ、聞いたことないな」

 


 方々で野次馬たちがあれこれ騒いでいた。

 見ると、広場のような場所で、長身で腕組みをした赤髪の男と、フードを被った水色の長い髪をした女らしき人物が相見えていた。


 両者とも相手の出方を伺っているのか、微動だにしない。


 「なぁ、ハル。君から見てどう思う?」

 

 「何がですか?」

 

 「あの二人、どっちが強く見える?」


 「うーん……赤髪の男の人は魔力を外に出していませんが、相当な手練だと思いますよ?現にある程度強大な魔力は感じ取れますから。でも……」


 「でも??」


 「水色髪の女の人からは、不気味なくらい何も感じません。あり得ないです」


 確かに注意深く見てみると、男の方は明らかに強者のオーラを纏っていた。一方女の方は、恐ろしいほど何も感じ取れなかった。


 両者このまま沈黙が続くと思いきや、いきなり男の方が口を開いた。


 「生きていたのか、イリス。だが今頃姿を現してどういうつもりだ?」


 「………」

 女は何も答えなかった。


 

 だが観衆はざわつき始めていた。


 「イリス様って……処刑されて死んだんじゃなかったのか?」

 「いや、追われる身だったことは間違いないが、生死までは知らされてなかったはずだ」

 「元、王族にしてかつて国に反旗を翻したはずの反逆者が今更何故ここに……??」

 「おいおいガイオス様に瞬殺されるぞありゃあ……」


 どうやら、会話を拾った感じ、その女性は昔この国に反逆しようとして追われる立場になったらしい。


 「ここに来ることがどういうことか分かっているのか?」

 ガイオスという男性は怪訝そうに女に問う。


 「……分かっている。……私はあんたら皇族や王族の企みをやはりどうしても見過ごすことは……出来なかった」

 

 言い終わると同時に、イリスという女性は周囲に魔法陣を展開し始める。その魔力は、少し離れていても充分分かるほど、強力なものだった。


 「本気で勝てると思っているのか?」

 ガイオスも同時に膨大な魔力を放出し始めた。

 グラグラと、大地が揺れ始める。

  

 まずいと思ったのか、辺りの人々は次第に慌てふためき、方々に逃げ始めた。するとそこに、この都市の警備隊らしき軍が到着し、現場は更に混乱を極めようとしていた。


 「おいあんたらも、突っ立ってないで逃げたたほうがいい!!」


 状況を飲み込むのが遅れた……というよりも二人の実力が気になってしまい、その場に突っ立ったままの俺たちをガタイの良い男性がグッと引っ張った。結局、手を引かれるまま少し離れた通りへと避難した。

 

 数刻遅れて、激しい爆発音と数人の悲鳴らしき声が街一体に轟いた。


 一息ついたところで、俺は男性にお礼と共に、先程の光景について質問した。

 

 「……あれは一体……なんだったんですか?」

 

 「そうか、二人とも他所から来たのか。災難だったな。」

 どうやら、俺たちはかなり運が悪かったらしい。


 「赤い髪の方はガイオス様。皇族にしてこの都市最強の魔法使い。お前たちがこの都市に入る前、水晶で魔力を測ったと思うが、あれを木っ端微塵にできる数少ない実力者だ。あの人の存在のおかげで、この街の治安は維持できていると言っても過言ではない。それくらい、強い」


 ……ハルが水晶を木っ端微塵にしたことは黙っていたほうが良さそうだ。


 「女性の方は、かつてこの都市を追放されたとか、処刑されたとか言ってましたけど……?何があったんですか?」

 続け様にハルが質問を投げかける。


 「元、王族のイリス様だな。国王や上層部のやり方に唯一反逆しようとしたお方だ。一年前、処刑されたと聞いたんだが……」


 「……この街は一見平和そうですが、何か問題でもあるんですか?」


 「真実は定かではないが、国民から毎日少しずつ魔力を吸い取って、来るべき大戦のために貯蔵しているっていう噂が流れてる。おそらくそれ絡みだろう」

 男性は深刻そうな顔をしてそう言った。


 この人が言うことが正しければ、この都市は一見平和そうに見えて、実は裏で恐ろしいことを企んでいるということだ。


 「惜しいですが、厄介ごとに巻き込まれる前に出た方が賢明かも知れませんね。もう少し、調べごとをしたかったのですが」

 彼女は少し口惜しげにそう言った。


 俺もその意見に賛成だった。


 「それが賢明だと思うが、さっきの騒ぎで一時的に入国関所が封鎖してると思うから、出れるなら明日になるかもしれんな」


 「なるほど、ありがとうございます」

 「ご丁寧にありがとうございました!」

 俺たちは彼に頭を下げてお礼を言う。


 「いいってことよ!そういえば名乗ってなかったな。俺の名はノトス!向こうで『魔法関連なんでも屋』って店やってるから、もし良かったら都市を出る前にでも是非寄って行ってくれよな!」

 

 そうして、ガタイの良い親切な男性・ノトスは手を振って去っていった。

 


 



 

 




 

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