第18話 魔導書

 魔法都市に入国した俺は、まず真っ先にハルに手を引かれ町の魔道具屋へと立ち寄った。



 「ひとまずここらへんで、魔力を上手い具合に隠せる魔道具を探しましょうか。前みたいなことがあったら困りますし」


 店に入ると杖を持ち古着を着た痩せ気味の男性が構えていた。

 「お嬢ちゃんたち、旅人かい?結構な魔法の使い手と見えるが」

 魔法の国ということもあって流石にある程度あれば力量なんかが分かってしまうのだろうか。それとも商人として長年多くの人を見てきた勘なのだろうか。

 

 「そうです。なので、あんまり目立たないように魔力の強さを隠せるようなアイテムなんかがあれば嬉しいのですが……」


「なるほど、ならば隠魔のネックレスなんてどうだ?なんならお二人さんでちょうどペアルックも出来るぞ」

 店主は和やかに笑いながらそう言った。


 「いいですね、じゃあ二つお願いします」

 ハルも柔和な笑顔でそう答えた。


 「まいど!!」


 結構な値段だったが、まぁ必要経費として考えよう……

 以前ティアに詫びとして貰ったお金がまさか早速役立つとは。


 「ちゃんと手放さずつけておいてくださいね。……私たちの命がかかるかもしれないですから」


 「……分かってる」


 そして、魔法図書館へと向かった。


 この図書館、恐ろしいことに一般書からあらゆる魔法に関する情報まで、数多の種類の本が揃っているらしい。ハル曰く、ここなら俺の新しい魔法のヒントになるものが眠っているかもしれないということで、俺も期待に胸を膨らませながら向かった。



 「……天井が……高すぎないか??」

 見上げると、はるか上に天窓が見えた。


 「まぁここの国民は国内なら箒や絨毯で空を飛ぶのが普通らしいので、不便とかはあまり無いんでしょうね」

 螺旋階段はあるものの、基本利用者は飛んで階層を移動しているため、あまり利用者は少ないように見えた。

 

 確かに、この国に入った時に箒に乗って空を飛ぶ人はいた。だから別にそれ自体に驚きはしなかったのだが……


 「にしてもとんでもない高さと広さだな……」


 そもそも外から見ても建物自体がかなりの大きさだったが、入ってみると一日かけても全部を見て回れるか分からない程、本棚は多く階層も多く見られた。しかも案内表を見れば地下もあるらしく、非常に驚きだった。

 この世界に存在するあらゆる種類の本が揃っていると言われているという噂も納得の場所だ。


 「とりあえず、しばらく自由行動にして、三時間後くらいにでもここでまた落ち合おうか?」


 「そうですね、私もいくつか気になるものがありますし」

 

 そうして俺はハルと一旦別れ、まずは魔法全般に関する棚から見ていくことにした。


 …………やはりとは思ったが、大抵の本は俺の元いた国にもあるものだった。


 せめて時空魔法に関する記述があればなと、あれこれ探していると、ついにそれらしきものを見つけた。


 …………だが、これも殆どの内容が見たことのあるものだった。


 肩を落としながら、引き続き別の階層に移り、探していると、気前の良さそうなヒゲの長い一人の男性に話しかけられた。


 「よう兄ちゃん、何かお探しものか?」


 「そうですね……単なる火魔法とか水魔法、とかではなくもっと高度な魔法とか人智を超えたような魔法の記述がある本とかないかなぁと探していたんですが……」


 「……なら地下だな。地上のやつは大抵が一般向けだからよ、そういった特殊なやつはそっちにあるかもな」


 どうやら、地下には様々な変わった本があるらしい。


 「ところで、どうしてそんな本を探しているんだ?」


 「まぁ、理由があるとしたら普通に強くなりたいからですかね。大事な時に仲間に頼りっぱなしじゃ、情けないですからね」


 「なるほどな。……まぁせいぜい頑張んな!」


 「はい、ありがとうございます」


 お礼を言って、俺は地下の書庫へと向かった。



 地下書庫は少し薄暗かったが、地上に負けず劣らずの本棚が陳列しており、利用客も少なからず見られた。


 

 適当に棚を見ていくと、見慣れた顔がいた。


 「ハル、何を読んでるの?」

 

 「うわぁ!ガルアさん??どうしました??」

 彼女は驚き思わず手に持った本を落としそうになっていた。

 

 どうやら読むことに必死になっていたらしく、近づく俺に気づいていなかったようだ。


 「……歴史書?」


 「はい。天使族にまつわるものを探していたので……」


 「なるほどね、じゃあ俺は別の場所探すかな。じゃあ、また後で」


 「良い魔導書なんかが見つかると良いですね」


 具体的に何をどこまで探っていたかまでは聞けなかったが、まぁそれはいつか聞くことにしようと思った。

 結局、彼女と再び別れ、再度本探しを再開した。


 

 しばらくして、俺はかなり良さげな本をいくつか見つけることに成功し、食い入るように読んでしまっていた。結果、地下書庫は想像以上に興味深い本が多く、気づけば時間があっという間に経ってしまっていた。

 

 

 

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