第16話 反撃

 魔道士と名乗った男は勝ち誇った顔で、ハルを見つめている。


 チャンスは一度。男が魔法を放つ瞬間。


 成功する確証もない。だがどのみち、ここで反撃出来なければこのまま蹂躙されてバッドエンド。やるしかないのだ。


 覚悟を決め俺は発動タイミングを見計らう。


 

 「重力破球グラビディウム

 男がついに彼女に向け魔法を放った。


 「反転壁リフレクション・極!!」

 その瞬間男を包み込むように障壁を張る。本来なら対象を守るための壁。だが今回のは違う。


 反射壁。主に魔法なんかを簡単に跳ね返してしまう壁だ。本来は彼女を守るために陰で習得しておいたのだが、使えるようになっておいて良かったと心から思う。

 それを、反転させ、男を閉じ込めることに成功した。


 男が放った魔法は、壁に反射しながら男を何度も襲う。

 「ちくしょう、厄介だが、こちらには絶壁盾ゼロシールドがあるからな、それに、この程度の壁なら物理で殴れば……」


 すかさず男はシールドを張り、自身が放った魔法を掻き消した。だが、その隙は俺にとって充分なものだった。


 「時空魔法・時限牢獄クロノプリズン


 ありったけの魔力を使って作った壁が、男を更に包囲した。この壁は簡単には壊れないように出来ている。何故ならこの牢獄は、外とは時の流れが異なるからだ。

 俺が得意とする防御壁魔法と教わった時空魔法を応用した組み合わせ。思いつきだったけども、上手く行ったかな。やはり火事場の馬鹿力というものは存在するんだろうね、きっと。


 「は?なんだこれは、どうなってやがんだ!」

 

 勢いよく物理攻撃しようが魔法攻撃しようが、中からでは速度が大幅に落ちてしまうため、突破出来ないようになっている。


 ………まぁ俺の魔力量じゃ外から容易に壊せるし時間が来れば消えちゃうんだけどね。

 

 今の俺の限界が、どうにか通じたようでホッとした。だが安心してしまったのが原因か、目の前が霞んでいく。


 「あっ、これはまずい……」


 おそらく魔力枯渇だ。限度を超えてしまった。


 倒れゆく俺の体を、柔らかい感触が優しく包んでくれた。

 

 「助かりました。今のうちに、逃げましょう!」

 

 「ごめん……動けそうにない……」


 「魔力はまだ余裕ありますから、私に任せて適当に寝てても良いですよ」

 彼女は嬉しげな表情をして、俺を軽々と抱き抱えてしまった……魔法で。


 「おい俺を置いて────ー


 「浮遊魔法……そして、疾風迅速ウイングブースト

 ハルは男の方を一度も見向きもせず、魔法を発動した。

 

 何かしら変な感覚が俺を包んだかと思うと、次の瞬間物凄く強い風魔法が吹き荒れた。多分。その後どうなったかは意識が落ちていたので分からない。




 草原には仲間が来るまで数日の間、男が変な壁に包まれたまま、立ち尽くしていたという。





 

 「……ごめん!俺何日寝てた??」

 

 「ご心配なさらず。今回はまだ一日も経ってませんよ?あっ、ちなみにここは、本来の目的地の一個先の街です」


 気がつけば、俺はまたベッドの上で、隣には彼女が。またしても意識を失った迷惑をかけてしまったのか……


 「何度もすまない……あの程度で魔力切れを起こすなんて……」


 「いえいえ、こちらこそありがとうございました。貴方の機転のおかげで、無事なんとかなりましたから……それに、出会った当時からすれば順調に進歩していると思うので、元気出してください。ですが……」


 おそらくあいつは、血眼になってでも俺たちを探すだろう。きっと仲間もいるはずだ。

 ということは、これからはいつ誰が襲ってくるかもしれないのでは…………

 やはりもっと強くならなければならないと思った。俺一人でも彼女を守って窮地を脱せるくらいには。


 「これからどうしようか?」


 「とりあえず、もっと遠くに移動しましょうか。もう少しここら辺の街も楽しみたかったのですが、いつ追手が来るかも分かりませんし……」


 

 翌日、俺たちは再び別の街を目指して出発した。次の目的地は、ハル曰く、かなり発展した魔法都市らしい。そこならば、実力者も多いため、変に魔力を探知されて追われるということも無いだろう、という読みだ。


 距離は離れているが、ハルの時空魔法でゲートを開いてしまえば、あっという間だった。

 ちなみに俺もこの魔法を覚えたい!と頼んだが、まだ早いです!と一蹴されてしまった。

 

 まぁ消費魔力は馬鹿にならないらしいし移動の度に倒れられたら困るもんな……


 


 

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