第15話 接敵
見渡す限り一面若草色。
太陽は煌々と照り付けているし、空は驚くほどの快晴。
心地よい風が颯の如く駆け抜ける。
動きといえば、草食らしき魔物が、コソコソ動いている程度。
あまりにも見晴らしが良すぎた。だから、俺たちは変に油断してしまっていた。
「!?」
俺とハルは同時に気づいた。だが、その時には既に、何者かに想定外の所まで接近を許していた。
「……くそっ!」
俺は咄嗟にハルに防御壁を展開する。だが、自分自身にも展開する猶予はなかった。
ハルも咄嗟に身構え、高速で攻撃魔法を撃ち込み始める。
──だがその黒装束を身に纏った男は、何かを詠唱した素ぶりも見せずに左手を俺に向かって突き出した。
次の瞬間、俺の体は宙を舞い、吹き飛ばされてしまっていた。そしてその時、余った右手で、ハルの攻撃魔法をいとも簡単に受け止めているのを目撃し、俺は絶望してしまった。
ここまでの魔法技術を用しながら、なおかつ寸前まで俺たちはこの男の存在に気付けすらしなかった。
────また、俺たちは死ぬのか??
落ち着け、まだ猶予はある。考えろ、一矢でも報いる方法を。
吹き飛ばされた所から一瞬で距離を詰めるべく、時空魔法を唱える。
「クイック!!」
しかし、男はそれを見越していたかのように、何か別の魔法を唱えた。
途端、俺の体が重力に耐えきれなくなり、地に這いつくばってしまう。
「そこで黙って聞いていろ、小童。用があるのはこの娘の方だ」
威圧感のある声だった。
結局この重力魔法が強すぎて、何も動けず言うこともできなかった。
「貴方は一体、誰で、何の用なのですか?」
気づけば男はハルの攻撃魔法は防いだが、彼女に攻撃は一切していなかった。だが、お互いの表情からして、知り合いではなさそうだった。
「名乗るほどの者でもない。それよりお前こそ何者だ。あの街の人間とは別格なんだろうが、それにしても魔力が桁違い過ぎる」
「私の魔力をいつ探知したのですか?」
「数日前だ。攻撃魔法ではない何か別の魔法であるにも関わらず、莫大な魔力を感じた。そして気になって追って来てみればこんな華奢な少女じゃないか。おっと、俺はこれでも魔道士でな、ある程度魔力を隠していても見抜けるのさ」
あの時だ。ハルが俺を全力で回復してくれていた時……くそっ……また俺のせいか……
彼女は険しい顔をして、強力な炎と氷の攻撃魔法を展開しながら言い放った。
「今すぐ、彼にかけた魔法を解いて踵を返してここから消えなさい!さもないと、貴方を本当に消し去りますよ!」
その声は真剣そのもので、いつしか表情も完全に怒りが表れていた。
「ははは、私の接敵にすら気付かなかった君たちが、本当に勝てると思っているのかい?」
男は、余裕げに嘲笑した。
俺はその顔を見て激怒したが、相変わらず重力魔法は緩まる気配がなく、この時はただ、二人の光景を見ているしか出来なかった。
「私たちの旅の邪魔は誰一人としてさせませんから」
「撃炎槍」
炎魔法を纏った右腕を天に掲げたかと思うと、数百本もの焔を纏った槍が男めがけて降り注ぐ。
「撃氷槍」
氷を纏った左手を男めがけて向ける。刹那、数多の凍てついた槍が乱立し立て続けに撃ち出される。
「おお〜!バケモノクラスじゃねぇか嬢ちゃん、気に入った」
男は余裕げな表情をしていた。
「
次の瞬間、時間差で撃ち出された炎と氷の槍が延々と男を襲い続けた。並の相手なら一撃で決着が着くレベルの魔法。だが──
「俺の障壁魔法の前には攻撃魔法なんて無意味なんだよなぁ」
「……っ!」
ハルは一瞬驚くもすぐさま次の魔法を撃ち始める。
「撃雷槍!もう一つ、撃水槍!!」
今度は雷と水を纏った攻撃がそれぞれ数十発、男を襲う。
「おぉ!あれを撃っておきながらさらにこんなのまで撃てるのか、こりゃ魔道士以上かもな!」
男はだがまだまだ余裕げな顔で防ぎ切った。
「人を馬鹿にして楽しいのですか」
「いやぁ、別に馬鹿にしているんじゃなくてだなぁ……」
途端、障壁の色が変わり始めた。
「おっと、流石にこれ以上喰らうと俺の障壁にもヒビが入っちまう」
男は少し顔色を変え、ハルの攻撃を防ぎ切ったのち、片腕に魔力を集め始めた。
見るからに強く濃い魔力が男の腕に集まっていくのを感じた。
──だが、同時に俺を封じていた重力魔法がなくなり、動けるようになっていることに気づいた。
どうやら俺のことをすっかり忘れて一対一の戦いに夢中になってしまったようだ。
俺は男に気づかれないように細心の注意を払い、魔法の準備を進め始めた。
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