第11話 代償
あー、なんだか右手に温かい温もりを感じる。
しかも左手にもしっかり何らかの感覚がある。
……あれ?そういえば左手は魔法詠唱の際にほぼ死んだ気がするんだけど?
うーん、ということは、ここは天国かな?体もなんだかポカポカするしなぁ。
それになーんかごにょごにょ声みたいなのが聞こえるけど、はっきりと聞こえないなぁ。手足も何にも動かないし、参ったなぁ。
……なんかさっきよりも右手の力が強くなった気がする。気になる。目ならなんとか開けれないかな
────眩しい光が、少しずつ目に入ってくる。
まず眼前に最初に映ったのは、見覚えのある銀髪の美しいエルフ。目の前で起きていることが信じられないといった顔をしている。だが完全に顔がフリーズしたかと思いきや、その顔から涙が流れ始めた。……ひょっとして俺の体は、取り返しのつかない所まで行ってしまっているのか??
そのエルフは、涙を見られて少し恥ずかしくなったのか赤面した後、すぐに反対側にいる少女の肩を叩いて起きるよう促した。
その金髪の美しい少女は、眠たげな目を擦りながら目を開けこちらを見ると、目を丸くして、まるで夢から覚めたかのような顔をしていた。口もぽかんとして、驚きのあまり何も言葉が出てこないようで、しばらくその場に無言の時間が流れた。
そしてその後、少女は大粒の涙をこぼしながらこう言った。
「──おかえりなさい。ずっと、ずーっと待っていました……」
あぁ、そうだった。全部思い出した。ということは、魔法は成功したのか。良かった。
「心配かけて、ごめん」
「何を言ってるんですか、本当に貴方という人はこれだから……」
俺の左手を握りながら彼女──ハルは満面の笑みでそう言った。
俺は気が付かなかったが、どうやらこの間に銀髪のエルフ──ティアがパーティーメンバーのジザとコクアを呼んでできたらしく、結局俺の寝ているベッドの周りに四人が集まってきた形となった。
二人も、俺の意識が戻ったことに対して驚嘆と安堵の表情を浮かべていた。
良かった。みんな生きている。ということは魔法はどうやら成功したらしい。本当に良かった。
──あれ、じゃあ俺の体はボロボロになったはずだが???
「ガルア殿の意識が戻った所で、改めて謝罪させてほしい、大変な事態に巻き込んでしまって本当に申し訳ない」
俺の意識が戻り全員揃った所で、唐突にティアが謝りだした。
「全く覚えていないだろうが、あの日最下層に入った途端、一番後ろにいた君が突如血を大量に吐いて倒れたんだ。その体には私たちが見たことのない亀裂のような傷が無数に走っていて、すぐさま地上に戻って治療を施したんだ。……その時は全く治る気配も意識が戻る気配もしなかったけど、全力でハルが治してくれていたよ。三日三晩付きっきりでね」
なるほど、結局ハルが付きっきりでまた治してくれたのか……出会った時のあれがあるにしても、今回ばかりは感謝だけでは済まないような恩を貰っちゃったなぁ。
でも結局魔龍と戦わず帰ってきたって訳か。じゃあどうなったんだ?あの洞窟は。
「正直、私たちは取り返しのつかないことをしてしまったと非常に悔いている。私たちの勧誘で君たちはあの最下層に来てしまい、そしてガルア殿は生死を彷徨う結果となってしまった。本当に申し訳ない」
三人ともに深々と頭を下げられた。それも一分以上も。流石にこちらが申し訳なくなってきたので、話題を少し変えることにした。
「とりあえず頭を上げてください……結局、あの洞窟──ダンジョンはどうなったんですか?」
「君が受けていた傷は見たことのないものだった。だからその受けた攻撃はおそらくそこに巣食う未知なる魔物の攻撃だと考えたんだ。だから、ギルドに報告して正式に王都へ依頼を送ったんだ。数日後には、あの一帯に封印結界が貼られ、しばらく様子見されるらしい」
そうか、まだ魔龍と接敵する前だから分からないのか。────というか、今回の結果は俺の魔法の代償……ではなく、敵の攻撃ということになっているんだな。
そこまでティアが話し合えたところで、ハルが、二人で話したいと申し出たので、三人には一度退出してもらうことになった。
なんだが三人ともかなり俺のことを心配してくれていたらしく、出る際も色々と言葉がけしてくれたので、俺も心配させないよう笑顔で見送った。
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