第10話 時空を超えて

 ハルが死んだ。目の前で。

 彼女だけではない。ティアも、ジザも、コクアも、もう手遅れであろう。


 「………嘘だろ………こんなのって、アリかよ………」


 思わず絶望の声が出てしまう。


 結局、俺は何も出来ず、ここで終わるのか??



 せっかくハルが与えてくれた時空魔法も、ろくに扱えないまま………


 嫌だ。こんな終わり方は、絶対に、嫌だ。



 ふと、記憶が蘇る。

 それは、時空を捻じ曲げて、時間を戻したり空間を飛んだりする魔法の話。

 昔ならば、──御伽噺のようなものであると、思っていたけれど。

 ハルと出会い、さまざまな話を聞き、魔法を教わり、そして、先程の彼女の魔法で確信した。

 

 この魔法は使い手次第で無限の可能性がある。

 

 


 ────四人が死ぬ前に時間を戻せるのならば。


 ────もし、俺の体が破滅しようとも、四人を救えるのならば。


 ────俺の体も心も命も全部差し出してやる。


 今しかない。


 今、ここで、過去の自分を何段階も超えて。


 運命を変えてやる。



 

 痛む頭と体に鞭を入れ、両手を前に向け、立ち上がる。


 既に魔龍はこちらに標準を合わせ、四つ首からそれぞれ魔弾を放とうとしていた。

 時間は残り少ないようだ。



 全身の隅から隅まで研ぎ澄まし、残っている魔力を腕に全集中させる。

 まだ足りない。もっとだ。


 頭が痛すぎる。すぐにでもはち切れそうだ。


 足の感覚が無くなり、膝を付いてしまう。


 でも足りない。


 体の無数の骨にヒビが入り始めたのを感じた。


 同時に、大量に吐血してしまう。


 だが、集中力だけは切らさなかった。


 ……あと少し足りない。


 両手を諦め、左腕の魔力を全力で右腕に移す。


 途端に、左腕の全感覚が無くなり、だらんと垂れてしまう。でもこれで良い。


 今出来る全ての魔力を集結させた。


 これで無理なら、あの世でみんなに謝ろう。





 「──時空魔法『終焉無き時空の旅人エンドレス・ウォーカー』」



 ──夢は時空を越えて。

 魂が何処へ行こうとも。

 きっと、またどこかで────

 


 もはや自分のことはどうでもよかった。

 俺の目の前で散っていった、四人のために。

 持てる力の全てを使って、魔法を発動した。

 


 唱えた瞬間、俺の視界は歪み始める。成功したのかすらも分からないまま、闇の中に意識は落ちていった。



 

 

 

 ──あぁ眠い……目を開けると、そこは真っ白な空間。ここは一体何処であろうか。体がふわふわする。何やら遠くで声が聞こえる。


 「……また禁忌に足を踏み入れた人間が現れたのですが……どうします?」


 「私利私欲のためなら即処刑なんだけど、今回くらいなら別にいいんじゃないかしら?」


 「分かりました……でしたら、所定通りに。」



 何を言っているのか良く分からなかった。既に何かを考える余力は無く、ただ茫然と水面を漂うような感覚に陥っていた。


 ──また強烈な眠気が襲ってきた。

 目を開けようにも、力がうまく入らない。

 

 結局、俺は目を閉じて眠りについてしまうのであった。


 

 


 


 

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