第8話 最下層

 結局、ハルとも話し合った結果、さすがにこの話を聞いて放ってはおけないということで、協力することにした。

 その旨を伝えると、三人とも大いに喜んでおり、結果行けるならば早い方が良い、と次の日準備をしてさっそく出発することとなった。


 装備を整えると言っても、魔法をメインとする俺たちはそこまで準備するものも無かったので、少し早めに集合場所に向かうことにした。


 

 「よし、全員いるね!陣形の確認だけど、盾役のジザが前衛、剣士の私とコクアが中衛、で、二人が後衛で魔法攻撃と援護を頼むよ!」


 全員集まったところで、ティアが最終確認をする。見たところ、三人ともやはり気合が入っているようであった。装備や武器などはかなり強度と耐性があるものを今回のために用意したらしい。



 目的地へ向かってしばらく歩くと、ついにそのダンジョンへと辿り着いた。事前情報では魔物の群れや大きな魔力が探知された……らしいが、入り口まで来ても、特に変わった所は見当たらなかった。


 だが、むしろそれが不気味さを一層増していたのか、ハルは普段通りであったが、三人は少し緊張してきているようであった。



 かつてこのダンジョンに挑んだティナと盾役のジザを先頭に道中進んで行ったが、驚くほどに魔物が一匹たりとも出てこなかった。もしかすると他の攻略者たちが先に進んでいるのかもしれないと考えたが、それにしては戦闘の形跡も人族らしき足跡も見当たらなかった。


 事前情報とは異なり何も出ないということは、情報違いかあるいは最奥地で何かが起きているのか……進むたびに三人の緊張度はかなり増しているようで、時折喋る声にも震えが混ざるようになってきていた。


 俺自身も、これまでに数多く戦闘を繰り返してきたとはいえ、このようにパーティーを組んでダンジョンへ行くことは実は初めてであった。なので、不安も緊張もかなりあったが、俺よりも数段強いハルの存在が大きく、三人よりは安心感を保てていた。


 一方そのハルは、強心臓と言っていいのか、それともこの程度何とも思っていないのか分からなかったが、特に変わりないようであった。


 


 どれくらい進んだのであろうか…………途中からいきなり漂う魔力が濃くなり始めた。他の四人もそれを感じ取ったようで、一気に臨戦体制を取った。だが、しばらくしても何も出てこなかった。ただ、強い魔力──加えて少しずつ血のような何かの匂いが匂い始めた。


 「──もうすぐで最下層のはずだ……みんな、より気を引き締めてくれ」


 ティアの声にはここにきてかなり冷静な声であった。おそらく、冒険者としての感覚が緊張を完全に塗り潰してくれ始めたのであろう。



 

 ────いよいよ最下層に着いた。

 そこは、悍ましく濃く強い魔力が漂い、大量の魔物の血のような赤黒い液体がそこら中に飛び散っていた。


 確実にこのフロアに何かがいる────そう思った瞬間、真っ先に気配を探知したであろうハルがかつてないほど緊張感を持った声で叫んだ。


 「下がって!!!」


 


 数分後、俺は安易に最下層へ足を踏み入れてしまったことを酷く後悔することとなる。

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