第5話 暗雲

 翌朝、外に出てみると、なにやら広場が騒がしい様子だった。近づいてみると、一人の男性が何やら訴えているようであった。


 「おっ、俺は見たんだ!!何もないところにいきなりでっかい穴が空いて!!そこから人が!!」


 必死に周りに訴えかけるも、中々他の人々は半信半疑のようで、首を傾げている。


 「またいつものように飲み過ぎて変な夢を見たんじゃないのか?」

 「そんなお伽噺みたいな話……転移魔法みたいなのでも存在するって言いたいのか?」

 「お前さん疲れてたんだよ、きっと」


 方々から散々な言われようをしていたが、男性は一向に気にも止めず、訴え続けていた。


 「だから見間違えじゃなくて────」



 ふと、後ろのハルに手を引かれた。彼女は少し怪訝な顔をしながらも、こっちこっちと言わんばかりに俺の腕を引っ張るので、それに従って広場を後にした。


 広場の集まりもあって近くに誰も通らなさげ路地裏まだ来たところで、彼女がこそっと呟いた。


 「やはりあの男……処理するべきでしたか……」


 「いやいやそんな物騒な──」


 そう言い終わるよりも早く、彼女の表情が険しくなった。


 「あれだけ騒げば、もしかすると魔法の存在を知っている人物まで話が伝わってしまうかもしれません」


 以前彼女が危惧していた内容だ。この類の魔法を悪用しようと企む輩がいつどこにいてもおかしくはないのだ──


 「俺ももっと危機感を持った方が良いのかな」


 「危険因子は排除するに限りますから」

 そう言った彼女の表情は、これまでに見た中でも上位に挙がる程の暗さであった。


 「でも、それで罪なき人を殺してしまったら、それはそれで問題になってより大事になるかもしれなくない?」


 「……それもそうですね」


 どうしても重い空気を払拭できずにいた。


 「おそらく、俺たちの格好や顔まではバレてないと思うから、もう数日したらどこか違うところに出発しようか」


 「そうですね、そうしましょうか」


 やっと彼女が笑顔になった。やはり暗い顔より笑っている顔の方が似合う。俺は出来るだけそういう思いをもうさせないようにしようとこの時誓ったのであった。



 それから数日、お世話になった宿主にお礼をして、ひとまず隣町を目指すことになった。


 道中に魔法の修行を挟みながら進んだため、思った以上に時間がかかってしまった。

 だが目的はそれだけではなかった。単純な資金不足に陥っていたため、魔物の素材や肉を売ることで当分の資金を工面しようとしたからだ。


 

 

 隣町までは対して離れていないはずであったが、結局2日程かかってしまったが、なんとか辿り着いた。


 ひとまず狩猟した魔物の素材のおかげで、どうにか当面の生活資金はどうにかなったので、その日は宿に泊まって、ゆっくり休息を取った。


 

 翌朝、外に出てみると、なんだか広場が騒がしかった。デジャヴを感じながらも、恐る恐る掲示されている記事を二人で見た。


 

 記事を見た瞬間、内心ホッとしてしまった。なぜなら、先日のような自分たちに関わる内容ではなかったからだ。


 

 内容は、どうやらこの町の近くにある洞窟に、膨大な魔力と大量発生した魔物の群れが観測されたというニュースであった。


 もしその魔物の群れが一斉にこの町に来たとしたら────町の人たちが不安になるのも仕方のないことだ。


 

 どうやら別の張り紙を見ると、この町のギルド総出でこの洞窟の調査と討伐を行うらしい。そのために人員募集をかけているそうだ。


 

 「──私たちが出る幕じゃ到底無さそうですね」


 ハルと同じ意見であった。目を合わせ、広場から引き返し、買い物を済ませるため比較的人通りの少ない通りに向かった。


 


 だが、その途中で幸か不幸か一人の冒険者らしき装備をした女性に声をかけられてしまった。


 「……お二人さん、私たちのパーティーに臨時で入ってくれませんか??」


 さぁ、また面倒なことになったぞと、二人して顔を見合って表情を曇らせた。

 


 

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