第4話 束の間の幸福

 街は夕暮れに差し掛かっており、夕飯の買い出しであろう人々がお店や商店街などあちこちに見受けられた。


 俺たちも同じように、夕飯に必要なものを買い込み、以前泊まった宿に向かう事にした。


 俺の想像以上に、ハルは街中の人々と打ち解けていた。彼らは彼女が天使であることを知らないのも一つの理由だが、どうやら可愛らしい容姿と笑顔と愛想の良さが要因ですっかり人気者らしい。


 結局、帰るまでに必要以上のお裾分けをもらいながら、ようやく宿に着いたのだった。


 「おっ!嬢ちゃんじゃないか、連れの兄ちゃんも元気そうで何よりだ!んで、今日も泊まっていく感じ?」


 「はい、しばらくこの街に居ようと思うので、しばらくお世話になると思います。前使っていた部屋でお願いします。」


 宿屋のおじさんとも打ち解けている様子の彼女を横目に、部屋へ足を運ぶ。

 

 「兄ちゃんも良い嫁さんを貰ったなぁ!羨ましい限りだぜ!」


 「ぐぼっ!!」


 唐突な宿屋の主人の言葉に口の中にあるもの全てを吐き出しそうになるも、どうにか堪えた。


 「いやいや、そもそも付き合ってす…」


 「はい!手のかかる人ですが、戦闘になるとものすごーくカッコいいんですよ!」


 えっ、それ乗っかかっちゃう感じですか????


 そうして彼女は会釈して、ほらほらと俺の背中を押しながら部屋へと進ませた。


 部屋に着くたび、彼女は笑顔で言った。


 「言い忘れてましたけどこの宿はカップル割なるものがあるらしいので、ここにいる限りは私たちは夫婦という設定にしてくださいね。」


 「あー……分かりました…。確かに、お金が浮く分には良いに越したことはないもんな…。」


 一瞬迷ったが、懐が心もとない今、少しでも節約できるなら何でも受け入れようと思った。


 「簡易キッチンがあるので、適当に夕食作っちゃいますね、くつろぐなり体洗ってくるなりしててください。」


 「えっ、天使も料理作れるの?」


 「当たり前じゃないですか、というか家事全般余裕なんですからね?分からないでしょうけど、貴方が倒れてた間、私、色々やっていたんですよ?」


 ちょっと怒られてしまった。だがすぐに謝って感謝の言葉を述べるとすぐに彼女の表情は柔らかくなった。


 「(これじゃほんとに新婚生活みたいじゃないか…)」

 

 少し前まで…都市を追い出された頃からしてみれば信じられないだろう。


 目の前で俺のために料理をしてくれいる子がいる。たった一回、助けただけなのに。その子に魔法まで教えてもらって。しかも、倒れてしまっていた間は身の回りのお世話までしてくれていたらしい。

 

 これが幸福というものだろうか。


 「ほら、ぼーっとしてる…変なことでも考えてたんですか?できましたよ?明日も練習ですから、早く食べて明日の支度して寝ましょうね。」


 「…あぁ。本当にありがとう。感謝してる…。」


 後半部分は殆どボソッと呟いたようなものだったが、彼女には聞こえたらしい。照れてしまったのか、そっぽを向いてしまったが顔が多少赤くなっているのが見えた。


 「(幸せは享受できる内にしとくべきか…)」


 流石に一緒に寝るわけにはいかなかったので、別々のベッドで寝たが、優しさに触れたことで心が温まったのか、すぐにぐっすり眠ることができた。



 「あ…たは……しの………せ…しゅ………て……う…ら…」


 完全に意識が落ちる寸前に彼女の寝言らしい声が聞こえたが、全く聞き取ることは出来なかった。

 


 


 


 


 


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