第3話 実践
充分体を休め、次の日から早速魔法の練習が始まった。
ハル曰く、時空魔法の扱いは非常に難しいとのことなので、色々練習を兼ねて魔物のよく出る人気のない森へ行くことになった。
「ところで、まずはどんな魔法から練習を始めたら良い?」
「時空魔法と言っても、種類は多岐に及ぶので、色々試した方が良いかもしれません。ほら、言ってるうちに。」
喋ってる声を頼りに近づいてきたのか、狼型の魔物が複数匹現れた。
「というか、いきなり魔物相手に実戦とか、危なくない?」
「最悪の場合、私がなんとかしますから。貴方は魔力量は少なくても魔力操作は上手いんですよね?さあ思う存分どうぞ!」
そんな元気よく言われても…と思ったが、結局は色々やってみなきゃわからないもんな…
俺たちの会話なんぞお構いなしに、一匹のウルフがこちらへ一直線に距離を詰めてくる。
迷っている暇は無さそうだ。
昔、読んだ本の記憶を頼りに、出来そうな魔法のイメージを練り上げる。
「スロウ!!」
対象のあらゆる速度を下げる、厳密に言えば、相手の時間を遅くさせる…はず。
「うげっ!!」
思いっきり突進を食らった。咄嗟に防御壁を張っていなければ腕を噛みちぎられていかたもしれない。
「発動が遅かったようですね、でも、魔法自体はうまくいってましたよ。慣れないうちはもう少し余裕を持ったほうが良いかと…」
「なるほど、さんきゅ!」
助言をもらい、今度は距離を詰められる前に前もって準備しておく。
先程の攻撃を見たのか、今度は更に複数体が襲いかかってきた。
「今度こそ…スロウ!!」
発動した瞬間に、激しい頭痛が襲ってきた。今まで何度も経験してきた、魔力の使いすぎだという警告だ。
だが、今度は成功、それも複数体相手にだ。
痛がる頭を抑えつつも、動きがほぼ止まっているに等しい魔物を炎魔法で確実に仕留める。
「お見事です、こんな早くに一つでも使えるようになるとは………さすがです。と言いたいところですが、この程度で魔力が死にかけてるのは、少しまずいですね…」
「いやぁ…やっぱ魔力もっと欲しいなぁ。」
笑って誤魔化すが、やはり現状一番の問題はそれなのだと、再確認させられる。
「でも、そうでなきゃ君と出会えてないからね。これはこれで良かったのかもしれない。」
「ええ、そうかもしれませんね。」
彼女はそう微笑んで、俺の腕を取った。そして、魔力を少し、分けてくれた。
会話を交わしたのも束の間、仲間が複数体やられたのを見て、残りの魔物たちが逃げ出し始めた。
「次は…反対のこれだ!クイック!!」
先程の魔法とは異なり、自分の速度を強化する魔法だ。
体が一気に軽くなり、魔物たちの動きが遅くなったように見える。全力で駆け出し、一気に距離を詰める。
あっという間に接近に成功。これには魔物たちも驚いたのか、動きを止め、迎撃態勢に入ったようだ。
だがこちらの時間速度が早くなっているおかげか、相手の態勢が整う前に余裕で各個撃破することが出来た。
風を身にまとい、速度を上げる風魔法とはまた違った感触だった。
「…すごいな。」
「驚くのは早すぎますよ、とりあえず、今日はこの辺で帰ることにしましょうか。」
と、言い終わるやいなや、高速で何かを詠唱し、彼女は空間に大きな穴を開けた。
「早くしないと、置いていっちゃいますよ?」
空いた口が塞がらなかった。
空中に大穴が空いたと思えば、その先にはついさっきまでいたはずの街のようなものが見える。
「それってもしかして…時空転移かなにかで…?」
恐る恐る聞いてみる。
「これが、いわゆるワープホールというものです。狙われる一つの理由として、これを人為的に作れるようになる…というのもあります。」
誇ったような自慢げな顔で彼女は言う。
いやいやそんなドヤ顔で言われても…
「何をそんなに驚いているんですか?貴方、時空を渡って変えたい過去がある…なんて言ってましたよね?こんなのにいちいち驚いていると疲れちゃいますよ?」
「現代に存在するはずのないようなものが街中にいきなり現れたら見た人はどう思うか…」
「流石に街からは少し離してますから…変に見られて曲解されようものなら…簡単なことです。記憶を少しいじっちゃいましょう!」
笑顔でそう言い放つ彼女を尻目に、俺はただただ驚き恐怖を覚えるほかなかった。
そりゃ現代こんな魔法が使えたら、国一つくらい余裕で獲れちゃうよなぁ…
「あっ、時空魔法じゃ記憶の改竄まではできないのでご注意を。」
「……え……?君は簡単に他人の記憶を変えられるんですか??」
「私はほんの少ししかできませんが天界にはそれ専門の人もいるので…」
「話の底が見えないから続きはまた今度にしようか…」
ワープホールを抜けると、一瞬で街付近の街道へと出た。全く気にしていなかったが、すでに夕暮れに差し掛かっており、夕陽が街全体を照らし煌々と輝いて見えた。
相当な魔力消費と見るも彼女は全然ピンピンしていたため、やはり格が違うのだと改めて認識した。
「(ひょっとして、俺もヘマしたら記憶ごと綺麗さっぱり掃除されてしまうのか…?」
「ガルアさん!」
色々考えながら街に戻ろうとする所を不意に引き止められた。
「どうした?」
「このおじさんに転移を見られてしまったのですが、どう処理しますか?」
振り返って見ると、彼女は3.40代らしき男性の首根っこを捕まえて持っていた。男性は口から泡を拭いて白目になっていた。
普通の女性が気絶しているとはいえ大の大人を首根っこ一つで持ち上げるなんて無理なはずである。さすがに魔力で補助かけている…え、というかなんでこの人白目向いてんのさ!
「あっ…いや、私がやったんじゃないですからね??私たちが出てくるところを偶然見ちゃったらしくて、そのまま泡を吹いて倒れちゃったんですよ??ほら!死んでないですし!!」
慌てふためく彼女を横目に、男性が本当に死んでいないことを確認し、木陰にそっと運ぶ。
「…たぶん、気絶してるし大丈夫だと思うから、帰ろっか。」
やはりこの目の前にいる人物は地上の人間ではないのだと、何度も分からされた一日でもあった。
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