第10話 可哀そうな名前 ヘクソカズラなど

 拙宅には猫の額のような庭があるのですが、それを取り囲む生垣はサザンカです。

 サザンカは、殺風景になりがちな冬に、赤い花をたくさん付けて目を楽しませてくれますが、それも盛りを過ぎました。

 花全体がポトリと落ちるツバキとは異なり、サザンカの花は花弁はなびらを散らすものの、落ちないで色褪せたままの花も残っています。


 私はいたってモノグサなので、花ガラを摘んだりはせず、放置しています。

 そういえば、サザンカの生垣には、枯れたつる草も残っています。この蔓植物が、表題に記した「ヘクソカズラ」です。


 ヘクソカズラは、普通に見かける雑草で、多年草です。ですから、根から除去しないで蔓だけ刈っても、また伸びてきます。それに、サザンカに蔓を伸ばしたとしても、葉は小さいし、蔓もそれほど長くはないので、サザンカを枯らすことはありません。それをいいことに、伸びるに任せています。


 このヘクソカズラ、漢字で書くと「屁糞葛」です。

 蔓や葉を傷つけると嫌な臭いがするので、この名前が付いたそうです。

 ネットで調べたら、『万葉集』に「屎葛くそかずら」という名で出ているそうです。(原典は未確認)

 いくら嫌な臭いを発するとしても、屁糞葛という名は可哀かわいそうです。なにも、ダメを押すように、屁と糞を重ねる必要はないと思うのですが。

 臭いだって、二つを重ねるほどひどくはないです。気の毒というほかありません。


 ヘクソカズラは小さなラッパ状の花を咲かせます。色は白く、中心部は赤いです。しいて言えば、可憐な花と言えるかもしれません。

 これもネット情報ですが、地方によっては、ヘクソカズラは「早乙女さおとめ花」と呼ばれるそうです。こちらを正式名にしてあげたいです。

 なお、ヘクソカズラは、黄色っぽくて小さな球状の実を付けます。


 可哀そうな名前と言えば、「オオイヌノフグリ」を思い出します。

 道端などに生えている雑草で、青色で小さな可憐な花を咲かせます。ヨーロッパ原産で、明治時代に日本に入ってきた外来種だそうです。

 漢字で書くと「おお犬の陰嚢ふぐり」。フグリとは陰嚢いんのう、つまり俗に言う「金玉きんたま」です。


 あんな可憐な花を付ける小さな植物なのに、大きな金玉、それも人のではなく、イヌのとは、いったいどういうことでしょう。

 日本にはもともと近縁種の「イヌノフグリ」という植物があります。明治時代に植物学者・牧野富太郎が命名したそうです。その実の形が、イヌの陰嚢に似ているからというのですが、すごい発想力だと思います。

 外来種のオオイヌノフグリの花は、イヌノフグリより大きいので、「おお」を付けたそうです。今では、イヌノフグリの方はほとんど見られなくなったといいます。

 一方、近縁種の「ネモフィラ」は、ひたち海浜公園などで大人気です。


 牧野富太郎はウィットに富んだ人だったのでしょうか?

 「ワルナスビ(悪茄)」も牧野の命名だといいます。

 これは、明治時代に日本に入ってきた外来種で、毒草です。牧草に紛れて家畜が食べると、家畜の健康に害が及ぶそうです。

 成田市三里塚さんりづかにある御料ごりょう牧場で牧野が発見し、命名したとのことです。

 「悪」と「なすび=ナス」の組み合わせがユニークです。


 最後にもう一つ、変な名前の植物というと「ハシリドコロ(走り野老)」が思い出されます。これは誰の命名か私は知りません。

 トコロ(野老)というのは、山野に自生する多年草の蔓草で、根は苦みを抜くと食用になるそうです。

 一方、ハシリドコロは、その地下茎がトコロと似ているものの、葉や茎など体全体に毒が含まれています。

 「走り」というのは、誤って食べると錯乱して走り回ることから来ています。こうなると、少しホラーがかってきますね。


 名は体を表すなどと言いますが、動植物の名前は人間が勝手に付けたものです。必ずしも「体」を表してはいないようです。

 






 

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