第4話 母は辛いよ ミノムシ

 このエッセイでは、なるべく季節にあった生き物を取り上げようと思います。

 

 ご存じのとおり、変温動物である昆虫、両生類、爬虫類などは、冬にはほとんど姿を消してしまいます。

 冬眠状態に入る、あるいは、卵や幼虫、成体(おとな)の姿で、地中や落ち葉・枯れ草などの下で、じっと春が来るのを待ちます。


 ミノムシもその一つです。ミノムシは、「ミノガ」というガの幼虫です。すっかり葉を落とした木の枝に、ミノムシがぶら下がっていて、寒風に揺れている……。いかにも冬らしい情景です。


 昨年の8月、不思議なものを見つけました。


 拙宅の門灯は、玄関ドアから3mくらい前に高さ1.5m程度のコンクリート壁があって、その上にの球体があり、その中にLED電球が入っています。


 ふと見ると、球体の下側に長さ3mmくらいの黒い塊が、並ぶようにして5~6個ぶら下がっています。


 初めは、アマガエルの糞だろうと思いました。が、よく見ると、何やらモゾモゾと動いています。

 それは、とても小さなミノムシでした。

 近くに、普通の大きさのミノムシが球体にくっついていますが、こちらは動きません。


 おそらく、大きい方が母ミノムシで、小さい方は、その子供だと考えられます。子供は、自分の体の成長に合わせて、ミノを徐々に大きくしていくのです。


 ご存じの方も多いと思いますが、ミノガの一生は、オスとメスとでは大きく違います。


 上記のようなチビ・ミノムシ(オスもメスもいます)は、葉っぱなどをどんどん食べて大きくなっていきます。それに合わせて、ミノを大きくしていきます。


 やがてミノの中でサナギになり、春になると羽化してガとなります。ところが、そのようにしてガの姿になるのは、何とオスだけなのです。

 メスは幼虫のような姿のまま、一度もミノから出ることなく、その中で一生を過ごします。ミノを枝などに固定し、移動さえしなくなります。


 繁殖期になるとオスが飛んできて、ミノの末端の穴から腹を差し込み、交尾します。交尾を終えたオスは、どこかへ飛んで行ってしまいます。


 やがて、メスはミノの中で産卵し、死んでいきます。

 ミノの中の卵が孵化ふかすると、とても小さな幼虫が、先端の穴から出てきます。そのままでは鳥などの格好の標的になるので、すぐに手近な材料を使って、身の丈に合ったミノを作ってその中に入ります。


 これが、初めの方でご紹介した、小さなミノムシの正体です。


 ただ、不思議に思ったことがあります。

 チビ・ミノムシは、ガラスの球体の上を、あっちに行ったりこっちに行ったりしていました。ガラスですから、もちろん食べ物などありません。

 なぜ、すぐに葉っぱなどの食べ物を探しに行かずに、球体の上でうろうろしていたのでしょうか?


 母親の亡骸なきがらが入ったミノから、なかなか離れ難かったという想像は、あまりに擬人化が過ぎるでしょうか。


 チビ・ミノムシは、4~5日後には球体上から、すっかりいなくなっていました。


 ところが、今日門灯を見たら、チビ・ミノムシが一つ、球体にぶら下がっていました。

 もしかすると、昨年の母ミノムシの孫かもしれません。

 無事、厳しい冬を乗り越えてほしいと思いました。


 



 



 

 

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