第16話 連休とギルドの掟!④



 確かに変わった場所だ、このモールは。遠方から車で来ても平気なように、駐車場はやたらと広い。その駐車場で人と車が混雑を起こさないよう、何と立体歩道橋が網の目に走っている。

 それは建物に張り出した2階のテラスに続き、まるで整備されたステーションのよう。乗り継ぎが便利に出来るように、細心の注意を払われているような。


 歩道橋は変な形で、まるで水族館かアミューズメントパークの様相である。その網の目状の歩道橋を利用して、駐車場にシートで屋根を作っている場所もある。

 夏などは車内が焼けずに済むし、野外公演などの催し物にも利用されるそうだ。


 ゴールデンウィークの今日も、何やら催し物は行われていた。放送を通しての案内や観衆のざわめきが、館内や駐車場の広場からも聞こえて来る。

 なる程、この人混みでは気を抜けばあっという間に迷子になりそうだ。そんな僕らは、沙耶ちゃんを先頭に歩道橋を上がり始める。

 メルがやたらと嬉しそうに、歩道橋の上から下の騒ぎを眺めている。


 ここからもちゃんと、見物は出来るように計算されているらしい。簡易ステージは結構大きくて、子供向けのショーか何かを着ぐるみネコが行っている。

 それに早速食いついたのは、チビッ子の魁南とサミィ。


 結局、下のステージ前まで足を運んで、かぶりつきで30分以上見てしまった。子供向けに思えたが、サーカスのピエロ以上のスキルを着ぐるみネコ達は披露して。

 手品とかパントマイムとか、色んな要素があって飽きさせないのだ。大人が見ても面白く、気ぐるみも色んなタイプが出て来て、その度に子供たちも歓声を上げる。

 侮れないステージだった、これが集客の為だけに行われているとは。


 そう、催しのほとんどは集客の為に行われていて、つまりは見るのも参加も無料である。次に僕らが参加したのは、全館を歩き回るスタンプラリーだった。

 何だそれはとあなどるなかれ。やたらと広い敷地に、良く分からない暗号。貰った案内マップとヒント用紙を手に、子供たちは知恵を寄せ合う。


 一部、大きなお姉さんも混じってるけど。参加者も結構いるようで、どうやらクリア時間によって各種景品が貰えるらしい。子供向けの、風船とかおもちゃっぽいのが主だけど。

 全部で6つのスタンプが必要、リアルのゲームも一筋縄では行かない作りだ。


「売り物屋さんです。品物は革などで出来ているよ。中に物を入れて使います。お出かけの時にはとても便利!」

「う~ん、金庫とか? 出かける時には鍵かけて?」

「優実は喋らないで頂戴、メルとサミィで謎解きするんだから。第一、その答えは間違ってると思うわよ」

「サミィは何だと思う? サミィが保育園に出かける時にも使うよ、こう肩にかけてさ」

「ボクは分かったよ、サミィはどんな?」


 サミィは僕のゼスチャーを見てカバン? と自信無さそうに口にして。優実ちゃんがなる程と、案内マップからカバン屋さんを探しに掛かる。

 そんな感じで午前中は歩き回らされ、確かに色んな場所を巡って購買意欲をそそる仕掛けのような気も。埋まったスタンプ用紙と交換に景品に風船や小物を貰って、サミィと魁南は大はしゃぎな様子。

 僕らも何だか、達成感というか満足感を得て気分上々。


 昼ご飯は、ある意味戦場だった。子供のペースで食事をするのは、かなりの忍耐が必要になって来るのだ。それでもメルが魁南に食事を与えたがり、なかなかのお姉さん振り。

 サミィの面倒は優実ちゃんが見てくれて、そこは助かったのだが。


 午後は帰る前に買い物をして、それまでゲームセンターやウィンドウショッピングを楽しむ予定だった。建物の屋上には立派なコーナーが設えてあり、子供が大勢遊んでいる。

 幼児用のプレイルームは、結構な盛況振りだった。魁南とサミィは、そこで大はしゃぎ。僕と優実ちゃんは、一応監視役の筈だったんだけど。

 珍しい遊具には、ついつい優実ちゃんもつられて参加。


「リン君、これ面白いよっ? 魁南君、もう1回ゴー!」

「お姉ちゃん、私もやる。次は私ね?」


 サミィのはしゃぐ姿は、いつ見ても心が安らぐ。母親が長期入院中で、たまに寂しそうな顔をするのを見ているせいもあるけど。

 連れ出してあげて良かったと、今は心から感謝。


 その連れ出した張本人は、メルを連れてゲームセンターに行ったようだ。1時間後に爆睡を始めた子供たちを優実ちゃんに任せて、僕は様子を見にそちらに向かった。

 2人は容姿が目立つせいもあって、割と広いコーナーでもすぐに見付かった。この短期間で、2人はすっかり仲良くなってしまったようだ。

 手を繋ぎあって移動して、ゲームでは互いを熱心に応援している。


 相当に熱が入っているのは、傍目から見ても分かる程の沙耶ちゃんとメル。対戦型格闘ゲームのプレイになると、2人とも超真剣な様子で。

 沙耶ちゃんが勝ち進むたびに、メルは飛び上がって喜んでいる。仲の良い姉妹みたいで、最初の衝突の傷痕は見当たらない。


 そう言えば、僕もそうだった。沙耶ちゃんと喧嘩して、気付いたら週に3日はこうやって一緒に遊ぶ仲になっていた。何でだろうと思うけど、理由は良く分からない。

 真っ直ぐはっきりした性格なので、彼女は誰とも衝突しやすいのは分かるけど。内包したパワーに触れると、相手も彼女への見方を変えるのかも知れない。

 僕がそう思うのは、彼女を過信し過ぎなのだろうか?


 その後も、程よい睡眠によって復活した子供たちを従えて、館内を見て廻る一行だったけど。帰る頃にはクタクタで、実際翌日の筋肉痛コースは確定的だ。

 それでも楽しかったし、せっかくの連休を皆で過ごせたのも良い記念になった。子供たちも大満足のよう、帰りのバスでは魁南はお休みモードだったけど。

 色んなお土産の入った袋は、その小さな手に掴まれたままだった。





 こんな感じで、外でばかり遊んでいたように聞こえるかも知れないが。実際は毎日定期的に、夜中にはネットでレベル上げに勤しんでいた僕ら。

 場所は毎回、違う場所に出現しているNM塔なのは同じだ。もちろんハンターP狙いで、しかし塔のランクを上げた事が最初は裏目に出てしまう結果に。


 途中で時間切れとなって、1度クリアを失敗してしまったのだ。こうなると強制退出させられて、目的のハンターPも貰えない。

 死亡扱いではないが、再突入も日にちを待たないと無理。もしクリア出来ていたら、ハンターPが5は貰えていた筈なのに残念だ。


 敵の強さが1ランク上がった事と、アスレチックエリアが増えた事が原因なのだが。それに優実ちゃんがてこずってしまい、大幅にタイムロスの運びに。

 それでも次の2回は何とか成功して、初のジョブスキル獲得に王手となった。結局塔のランクを前と同じに戻して、3ポイントを2回獲得したのだ。


 レベルや宝箱の中身に関しては、相変わらず好調だった。連休中にレベルは1人平均3つは上がって、何より3人の中で戦術が固定したのが大きい。

 宝箱の謎は保留中だが、とにかく色々なアイテムも獲得出来た。


 土曜日の午後、連休の4日目に僕は沙耶ちゃんの家に再び招かれていた。今日はハンス家族は、母親の見舞いに病院に訪れていて僕の出番は無い。

 そんな訳で、僕の午後からの予定はすっぽりと空いていたのだが。それならウチに遊びに来なさいよと、沙耶ちゃんの鶴の一声。

 その後ろには環奈ちゃんが糸を引いていたようで、僕を大歓迎してくれた。


 優実ちゃんももちろんいて、インの支度に大忙し。環奈ちゃんが友達から予備モニターを借りて来ていて、今日は4人で遊ぶ気満々な様子である。

 神薙家の両親は、どうやら揃ってお出掛けしているらしい。そういう点では気が楽だが、どうも私服姿の彼女達に囲まれていると緊張してしまう。

 女性陣は全く気にせず、呑気に会話を楽しんでいるが。


「ちゃんと私、百年クエストの事調べてみたんだけど。ゲームの中では1時間で1日、時間が過ぎる訳なんでしょ?

 って事は1日で24日、1ヶ月で2年、1年でゲーム内では24年過ぎるのよ。要するに、リアルで4年2ヶ月掛けないと解けないほど難しい内容らしいわねっ!」

「それは大変だねぇ、オリンピックが2回も見れるよ? 環奈ちゃんも高校3年生だ」

「2人とも黙って、そんな例えは無意味だから。百年って言うのはそれだけ難しいよって意味で、ベテラン冒険者ならもっと早く解けるでしょうね……もちろんリン様も」

「う~ん、最近流行ってるミッションポイントの高額交換品で、領地だとかキャラバン隊だとかってカテゴリがあるでしょ?

 それを持ってないと起きないクエがあって、つまり多人数で取り組むの前提なクエストだって気がするかな?

 だから環奈ちゃんの言う通り、ギルド単位ならずっと早く解けるだろうね」


 僕の説明に、フムフムと揃って納得する神薙姉妹である。沙耶ちゃんなど、丁度良い時期にギルドを作ったと少し得意げだったりして。

 ギルドの名前も、それにちなんだものにしようかと提案して来た。


 ついには色々と名前の候補を上げ始め、前もって買ってあったバッチに名前入力の素振り。このバッチとは同じギルドメンバーである事の証で、通信とか身分表示に便利である。

 ギルド単位で無いと参加出来ないイベントやミッションも存在して、それ故にメンバーの確保はどのギルドにとっても大事には違いない。

 3人など弱小も良い所、格好良い名前を付けてメンバー補充に弾みを付けたいが。

 

「そうだっ、ミリオンチェイサー……ミリオンシーカーなんてどうかな? 響きがちょっと、格好良いと思わない?」

「ほ~、いいねぇ、沙耶ちゃんにしてはっ♪ 確かに響きは良いけど、どういう意味?」

「……2人とも本気で言ってるの? お姉ちゃん、ミリオンって百万だよ、百は英語でハンドレッド!」


 途端に真っ赤になって、弁明を始める沙耶ちゃん。まぁ、間違いは誰にでもあるが、それを妹に咎められるのはさすがに恥ずかしかったようだ。

 僕はと言えば、実は優実ちゃんと同じ意見。何となくその響きに惹かれて、そのギルド名には賛成だと一票を投じる。

 笑っていた優実ちゃんもそれに乗じて、賛成と挙手して。


 名乗るたびに恥ずかしい思いをするよとの、環奈ちゃんの言葉も確かにその通りかも知れないが。沙耶ちゃんも今更引っ込める訳には行かず、渋々決定の移行に。

 最初からドタバタするのは、ここの空間に何か作用しているのかも。


 よく分からない紆余曲折を得て、ようやくギルド名も決まって。何となく恥ずかしがりつつ、バッチを配り始める沙耶ちゃん。僕に向かってサブマスやってねと、半ば強引な押し付けに。

 環奈ちゃんは、尻に引く気なのかと途端にヒートアップ。優実ちゃんは改めてよろしくと、危なっかしいギルドの船出にも動じた気配はまるでない様子。

 ある意味この中で、一番の大物かも知れない。


 それじゃあ今日のレベル上げに行こうかと、今日は4人での移動である。プレーヤー専用掲示板から適当な塔を選ぼうと、僕はその画面を隠れ家から呼び出す。

 興味津々で、その行為を眺める沙耶ちゃんと優実ちゃん。僕は今日は人数が多いので、塔のランクを上げてみようかと2人に提案してみるのだが。


 途端に前回のクリア失敗を思い出して、尻込みする優実ちゃん。どうやら完全にトラウマになっているようで、難しいのは嫌だと駄々をこねる。

 そんな事を言っても、今日は人数が多いのでランク上げは必須だ。


「何を甘えた事言ってるのよ、優実っ。苦手な分野をそのままにしておいても、全然良い事ないわよっ!」

「優実ちゃん、私とリン様でフォローしてあげるから、泣き言いわずに頑張りなさいよ」

「だって~っ、また失敗したらみんな絶対怒るもん~」


 僕もみんなも、怒らないからと優実ちゃんを説得にかかる。掲示板から適当なランクを見つけて、ゴタゴタしつつもようやく行き先を決定。

 掲示板とは、ギルドメンバー募集とか、プレーヤーの主催するイベントの告知とか、そういう報告が張り出されているネットの告知場の事である。


 場所が不定のNM塔だから、放っておいたら人は集まらない。塔を出現させた権利者は、入場料を取るために掲示板を使って塔の出現場所を知らせるのだ。

 今回の場所は、しかしなかなかの難題かも知れない。ランクはともかくとして、塔には様々な癖があるのだ。元のNMの属性とか、そんな感じの附加効果が。

 しかしハンターPの報酬は良いので、頑張りたい所ではある。


 薬品や消耗品の補充も完了。近場の街で合流して、沙耶ちゃんリーダーでパーティを組む。環奈ちゃんと組むのは初めてだが、はっきり言って前衛の参加は有り難い。

 そしていつもの如く、入る前に戦闘シュミレーションから始める僕ら。そこまで慎重なのは、時間縛りのエリアに入った後で、あたふた慌てたくないから。


 そして実感、アタッカーが1人入っただけで安定感が全く違う。削り力の向上で、敵と対する時間が極端に短くなっているせいだ。

 後衛の2人も、その効果は体感でハッキリと感じた様子で。戦闘時間が短く済んで、楽で良いよねとのまだまだ呑気なコメントを発している。


 ところがお目当ての塔が視界に入った途端、やっぱり怖気づくメンバーが約1名。構わずに進めてくれとの事なので、入り口にモネーを投入する僕。

 今回の塔は、ランクにすれば初回より2つ上で、辺鄙な湖の側にそそり立っている。形がなんだかナマズに似ていると、沙耶ちゃんは入る前の観察も呑気なモノ。


 環奈ちゃんは、案外ナマズのNMが持っていた塔かもと、珍しく姉に同意の素振り。2ランク上だと、必要な入場料も結構お高い。

 35万モネーだと、失敗のダメージは相当大きい気はするが。


 果たして中で元を回収出来るかは、今の所は全くの謎である。環奈ちゃんも、お金の掛かる塔の攻略経験はそれ程には無いらしい。

 ましてやレベル上げに使うなど、想像の遥か枠外を行っているとの事。まぁこんな事でもしないと、先行する猛者の冒険者達には追いつけないからね。


 入ってみた感想は、結構幻想的なエリアに一同ビックリな模様。水の中にいるような雰囲気で、魚の群れが柱や壁の間を泳ぎ回っている。

 その魚達が敵のようで、僕が最初に釣って来たのはピラニアの群れ。10匹くらいで1つのHPを共有しているようで、傍目よりは雑魚ではあるのだが。


 いつもの塔より、敵の配置数が多いのは確かな感じと言うか手応え。しかし、幸運にも今回参加の環奈ちゃんが、雷属性なのが有り難い。

 水属性相手には、その属性は有利に戦闘に働くのだ。


 属性の相関関係は案外強力で、これを無視するとかなり痛い目に合う。今も言ったように、雷は水に強く、水は炎に強いと言った感じだ。

 ファンスカの相関関係は雷>水>炎>氷>土>雷と1周して、僕の選んだ風種族は無属性扱いのようだ。光と闇は互い同士を苦手としていて、これも別扱い。


 ここは水属性ばかりが縄張りとしているらしく、恐らく元の塔NMがそうなのだろう。雷種族の環奈ちゃんがメンバーにいる事は、こちらの有利には違いなく。

 それに味を占め、初っ端から飛ばして着々と経験値を稼いで行くパーティ。1フロアの平均を20分程度に定めつつ、着実に前へと進んで行く。


「順調だね、リン君。環奈が案外、役に立ってるわねぇ?」

「すごく役に立ってくれてるよ。やっぱりアタッカーの存在は大きいよね」

「ふむっ、プーちゃんがそうなってくれれば言う事ないんだけどなっ?」

「何を叶えられそうも無い幻想を抱いてるのよ、優実ちゃん」


 辛辣な言葉を口にしながらも、環奈ちゃんは鼻が高そう。相変わらず邪魔っけなペット達に文句を並べながら、重い一撃で次々に敵を薙ぎ倒して行く。

 そんな感じて、1階フロアの中ボスまでは無事に撃破に至って。時間が余ったのを良い事に、階段前で優実ちゃんがヒーリングに勤しんでいる。

 それからここのフロアには宝箱が無かったねと、残念そうなコメントが飛ぶ。


 環奈ちゃんは、塔に金策を期待するのは愚かだと一刀両断。僕と同じ意見なのだが、沙耶ちゃんだけは違ったようだ。怪しい壁を発見して、その場をチェックし始める。

 色が違うのは、確かに僕も気になっていたけど。カーソルが移動する訳でもなく、僕は早々に諦めたのだが。いきなり沙耶ちゃんが床ごと沈み出し、一同ビックリ仰天。

 そして見付かる、こんな場所にあったのかとまさかの宝物庫が!


「わっ、凄いよみんな……宝箱が5個も置いてあるっ! あれっ、いつの間にか階段が出来てるねっ? みんな、おいでよっ!」

「えええっ、何でこんな事が……お姉ちゃん、知ってたのっ!」

「すごい~~っ♪ 素敵~♪」








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