第17話 連休とギルドの掟!⑤



 驚いたのは僕も同じ。沈んだ床の先の宝物庫で、しきりに僕達を呼ぶ沙耶ちゃんだが。如何いかんせん、探し当てた本人は合鍵を持っていなかったり。

 僕が降りて行って、次々に宝箱を開錠して行く。出て来たモノは、金のメダルや水の水晶玉、水の編み込み麻布など、やっぱり水関連のアイテムが多い。


 水晶玉は、範囲攻撃に重宝する水属性の攻撃アイテムである。ポケットから使用して、お手軽な上にダメージも大きく、今でも人気の奥の手的な攻撃手段である。

 麻布は属性合成に使う素材で、水スキル+を装備に付与するのに使える。金のメダルは、今はミッションPに押されているとは言え、初期エリアでは特殊アイテム交換に今でも使用可能だ。


 最後の2つは大当たりだった。やっぱり15万モネーのレア素材と、何と水の呼び水である。呼び水はNMのトリガーで、当たりを引けば再びドロップやハンターPが期待出来る。

 大喜びなパーティだが、いきなり出来過ぎな感も。


 余韻も覚めやらぬ内に、僕は皆を急かして2階フロアに。ここにも恐らく、アスレチックエリアは存在する。フロアの殲滅で時間を短縮しないと、またクリア失敗になってしまう。

 それもそうだと、気を引き締め直すメンバー達。環奈ちゃんだけは、こんな奇跡みたいなドロップがあるのかと、未だに不審そうな思いを引きずっていたが。


 あるのだから仕方が無いと、そこは割り切って貰うしか。この階にも何と経験値の入った宝箱を見つけ、ご満悦のお姉さんコンビである。

 既に塔巡りは美味しいモノだと、刷り込みが完成している感もあったりして。


 敵の種類がややこしくなって来たのは3階フロアから。今までは凶暴なピラニアの群れや、外皮の硬い大きな古代魚、放電ナマズなどがメインだったのだが。

 大型のエイや罠タイプの水ヒルなどが加わって、一気にメンバーにイライラが貯まって行く。コイツのいるトラップ床を踏むと、取り付いた水ヒルを倒すまでHPを吸われ続けるのだ。


 唯一の救いは、ペットの献身だろうか。優実ちゃんに張り付いた敵をプーちゃんが叩き落した時は、彼女は泣きそうなほど感激していた。

 雪之丈に関しては……いや、何も言うまい。


「いいなぁ、優実のペット。私の雪之丈、幾ら殴ってもダメージ出ないから取れやしない」

「いや、のんびりしてないで早く取って、魔法で焼き落としてっ! HPがグングン減ってるってば、沙耶ちゃん!」


 後衛のHPの少なさを嘗めてはいけない。小さな傷でも、あっという間に戦闘不能まで追い込まれてしまうのだ。前衛の僕達は戦闘中で、今は彼女のフォローに回る暇も無い。

 自分についた水ヒルは、自分の武器では落とせない。仲間に取って貰うか、魔法で焼き落としてしまうかなのだが。呑気に構えていた彼女も、ようやくその事に思い至ったらしい。

 何とか処理が終わったのは、HPが半分になってから。


 3階フロアの中ボスも、下と同じく色鮮やかな大カエルだった。毒のブレスや呑み込み技は、割と有名で引っ掛かる事も今はほとんど無い。

 先ほどと同じく楽勝ムードで戦っていたら、しかしある事件が。大カエルの前でじゃれ付いていた雪之丈が、いつの間にか消えている。


「あれっ……ゆっ、雪之丈っ? どこ行った?」

「あっ、お姉ちゃんの役立たずペット? それならさっき、呑み込まれてあっという間に消化されたわよ?」

「……ゴメン、僕も見てたけど救う前に消化されたみたい」


 戦闘は何とか、プーちゃんも消える前に片がついた。ここまで順調で、1時間経っていないよと優実ちゃんのフォロー。雪之丈を再召喚しながら、何故か釈然としない感じの沙耶ちゃん。

 この2体のペットの差は何なのと、彼女は声に出して呟いているのだが。プーちゃんはあげないよと、ややびくつきながら優実ちゃんが抗議。

 欲しい訳では無さそうだが、やっぱり釈然としない様子の沙耶ちゃん。


 4階フロアには、小型の魔術師白カエルが解き放たれていた。そいつの範囲魔法がまた強烈で、せっかく呼び出された雪之丈が再度昇天の憂き目に。

 頭に来た沙耶ちゃんが《ブリザード》でやり返す。氷種族の魔法は、とにかく強烈で有名なのだが。一発の魔法で敵のHPが半減なんて、僕は今まで見た事が無かった。


 妹の環奈ちゃんはMPの無駄遣いだと、姉に対して相変わらず辛辣な口調だったり。何にせよ、ここのフロアも20分でクリアに至って本当に順調。

 しかし、調子が良いと言えば、沙耶ちゃんに悪いと全員が沈黙すると言う妙な事態に。そして中ボスを倒した先には、やっぱり拡がるアスレチックエリア。


「優実ちゃん、落ち着いてね? 私とリン様が、ちゃんと道をつくってあげるから。その通りについて来ればいいからね?」

「うっ、うん、分かった……ちょっとプーちゃんが邪魔だなんて、全然思ってないよ?」

「送り返せないもんねぇ……やっぱり、送還くらい覚えないと不便だと思う」


 足元のペットが邪魔で、足場の悪いアスレチックエリアではすこぶる不便な優実ちゃん。その点沙耶ちゃんは、先ほどいなくなって逆にサッパリしているかも。

 このエリアは、螺旋階段が上へと続いている仕様らしい。石畳で出来た飛び石みたいなつくりの階段が、塔の外壁に沿って上へと続いている。


 真ん中にも太い柱があって、そこにも足を置く場所と昇降機が備え付けられているが。敵や仕掛けも存在し、更には滝のように落ちる水の流れが。

 幻想的とも言えなくないが、こちらのルートは危険過ぎると皆が却下。


 入り口付近に列をなしていた雑魚を倒した所で、優実ちゃんと環奈ちゃんがレベルアップ。お祝いを受けながらも、ちょっと不幸そうな顔の優実ちゃん。

 僕と環奈ちゃんが先頭で、いよいよ石畳で出来た階段を上り始める。敵は吹き抜けを浮遊して来たり、階段を物凄い勢いで降りて来たり。

 それを始末しながら、取り敢えずは順調な先行き。


 石段の間には隙間があるとは言え、ジャンプで飛び移る場所はそれ程多くない。ステップを使う要領で飛び込めば良いのだが、これが慣れていない後衛には難しい。

 優実ちゃんは、手古摺てこずりつつも何とか1周分クリア。


「そうそう、もう戦闘に参加しなくていいから、とにかく落ちないように頑張って」

「わっ、急に横壁の穴から水が流れて来たっ! これも当たったら落ちてたかな?」

「水の仕掛けだね……よしっ、収まったから渡れるよっ!」

「同じ場所に留まると、仕掛けが作動しやすくなるよっ。石の階段が爆発するとか」


 環奈ちゃんが言ったそばから、派手な噴水が優実ちゃんに襲い掛かる。どうやらダメージのみで、何とか同じ場所に留まる優実ちゃんとプーちゃんと妖精。

 ダメージを等分に受けており、何となく仲良しな感じを醸し出している。泣きそうになりながら、ひたすら我慢の優実ちゃん。コントローラーをしっかと持って、飛び移る先を見つめていたり。

 そんな感じでようやく半分。中央の柱と繋がった、空中の踊り場で一息つく一同。


「ふうっ、これなら昇降機の方がまだ楽なんじゃない? そっちの方は、どんな仕掛けがあるのか知らないけどさ」

「近道の昇降機は、確か出口で戦闘が待ってるパターンじゃなかったかな? しかもたくさんの敵が、リンクする感じで」

「それは……落下の心配はしなくて良い?」


 ひたすら前向きに、嫌な仕掛けを良い方に取る優実ちゃん。沙耶ちゃんが作戦会議を開いて、何とかなりそうかとベテランの僕と環奈ちゃんに問う。

 確かに昇降機を使えば、大幅な時間短縮には違いない。ただし、命を落とさなければの話。リスクは同じなら、昇降機で行こうとは、リーダーの沙耶ちゃんの言葉。

 ここで誰かが落下したら、時間縛りでの失敗のリスクも高くなってしまう。


「なる程、それもそうだね。それじゃ、時間短縮を狙って昇降機を使おうか」

「む~っ、お姉ちゃんにしては英断だわねっ。分かったわ、その代わり後衛の2人は敵に狙われて死なないでよねっ?」

「えっ、敵がたくさん出て来るの? はうっ、大丈夫かなっ?」


 ここから僕を中心に、短く作戦タイム。足止め魔法が良いか、吹き飛ばし技が良いか? 前線キープは僕と環奈ちゃんに決まっているが、一度に支えれる数は精々が2匹程度。

 その他の敵は、何とかして遠ざけておかないと。鍵を握るのは沙耶ちゃんの動きだと、僕の期待の言葉に本人は重々しく頷いて見せる。


 昇降機は幸い、4人が乗っても平気なタイプだった。各々が強化魔法を掛け終えて、マナポでMP回復してから一斉に昇降機に乗り込む。

 スイッチに触ると、途端に強制イベント動画がスタート。


 上へと一直線に昇り始める装置。装置の作動音が響き渡り、一行は否応無しに層の上に運ばれて行く。そして停まった装置の上で、鳴り響く非常ベル。

 待機していたモンスターの群れが、その警戒音に軒並み敏感に反応する。這いよって近付きながら、皆が揃って音の鳴る方へ。

 縄張りに侵入した者の姿を、ひたすら探しながら。


 ここで動画は終了して、自由を取り戻すパーティメンバー達。作戦通り、まずは沙耶ちゃんの《ブリザード》から戦闘はスタート。いきなりの最強範囲魔法で、彼女が複数の敵のタゲを取ってしまうけれど。

 僕の《アースウォール》で、取り敢えずの物理攻撃シャットアウト。魔法は問題ないので、その隙に沙耶ちゃんの《アイスコフィン》や優実ちゃんの《ルーンロープ》が飛ぶ。

 足止め魔法に、その場での待機を余儀なくされる複数の敵。


 思ったより敵の数が多く、しかし範囲魔法に巻き込まれた敵達のHPは3割近く削れている。雑魚ばかりとは言え、10匹近い敵の群れは一気にたかられると厄介だ。

 それでも後衛の沙耶ちゃんがタゲを取ったのは、半分は賭けだが半分は一気に敵の体力を削る作戦。壊れた魔法の土壁を越えて、殺到するモンスターの群れに。


 俊足魔法と防御魔法で自己強化した沙耶ちゃんが、ばっと自陣を飛び出して行く。敵を引き連れて、手すりの無い層の上の石畳を颯爽さっそうと駆け出して。

 それに割り込むように、環奈ちゃんの《雷撃チャージ》が炸裂。強引にタゲを取った敵を、僕と2人で殲滅せんめつに掛かる。柱を囲むように、足場が形成されているのが吉と出たようだ。

 沙耶ちゃんが敵に捕まる事無く、敵を引き連れ無事に柱を一周。


 優実ちゃんの足止め魔法とプーちゃんのペアも、3匹の敵のキープに成功していた。沙耶ちゃんが1周する間に、僕と環奈ちゃんで2匹目の敵を撃破する。

 昇降機前の広場で、再びパーティが一瞬だけ合流。僕の方に駆け寄りながら、派手に騒ぎ立ててチャンス到来の合図を送る沙耶ちゃん。


 追い駆けて来る敵に向き直り、僕は闇魔法の《断罪》を使用。これは自身のHPを極限まで減らす事で、攻撃力を数倍に高めるという荒業なのだが。

 僕達の目的はそれとは違う。3割を切ったHPに反応し、僕の種族スキルの《風神》が発動。吹き飛ばし効果の旋風とカマイタチの斬撃が、敵の群れに振り撒かれる。

 満を持しての再度の沙耶ちゃんの《ブリザード》が、戦況を決定的にする。


 残った敵達は、ほとんどがヘロヘロの状態。優実ちゃんが魔法で、環奈ちゃんが両手槍で、次々ととどめを刺して行く。足止め魔法で範囲から外れた敵も、慎重に全員でボコって行く。

 そんな感じで危機を脱したメンバー達、戦闘が終わると大歓声でハイタッチ。ヒーリングの時間を利用しながら、熱い戦闘危機回避に皆が興奮気味。

 環奈ちゃんなど、僕の腕にしがみついてキャイキャイと物凄い騒ぎよう。


「リン様ってば、さすがスゴい奥の手持ってますよねっ! あっという間に、パーティの大ピンチを回避しましたよっ!」

「ちょっと、決めたのは私の魔法と献身的なランニングでしょうにっ! まぁ、リン君がいなかったら、取れない作戦だったけど」

「範囲魔法は、再詠唱まで時間が掛かるからね。でもやっぱり、沙耶ちゃんの段取りとか度胸もすごく良かったと思うよ?」

「う~ん、2人とも強引な決め技を持ってて凄いなぁ。本当は私も、1個くらいは範囲魔法欲しいけど……光系は案外出ないよねぇ?」


 魔法は、属性によって傾向が違って来るので、どれを伸ばすかの選択は意外に重要になって来る。優実ちゃんの伸ばしている光や水、それから土系の魔法は、回復や支援、防御や自己強化系の出る割合が多い。

 沙耶ちゃんの伸ばしている氷系の魔法は、その点攻撃魔法、とりわけ範囲魔法を覚えやすい。支援もダメージを上乗せ底上げするタイプ、同じ系列では炎や風があるだろうか。


 雷と闇は、どちらかと言えばトリッキーな魔法が多い。攻撃系統も出やすいが、トラップ的な待ち伏せ魔法や、直接戦闘に関係無い移動系の魔法などもあるのだ。

 転移魔法や移動速度が上がる魔法は、確かに覚えると楽なのだ。


 専属アタッカーでも、だから雷と闇は上げている冒険者は意外と多い。他にも自分の種族属性をこだわって上げるとか、便利さやスタイルでキャラに味が出て来るのは確か。

 強化魔法もこのゲーム、スキルが余程高くないと他人に掛ける事が出来ない仕様なのだ。防御系はそうでも無いのだが、だから手っ取り早く自分で覚えようとする前衛も多い。


 覚えてしまうと、スキルの低い魔法に物足りなさを感じてしまう者、取り敢えず掛かってればいいやと言う二択に分かれるようだ。

 僕達みたいな魔法剣士は、別と言うか魔法の威力と並びは必須だけどね。魔法剣士にとって、取得している魔法は生命線と言っても過言では無い。

 それによって、がらりと戦術が変わって来るから。


 僕は色々と優実ちゃんにアドバイスを与えながら、残された時間を計算する。何とか20分ちょっとは残っていて、最終フロアの攻略に慌てずに臨めそう。

 ランクの高い塔の最終フロアに、沙耶ちゃんなどは超ヤル気モード。ここまで来たら奇麗に締めるぞと、リーダーらしく皆のテンションを引き上げている。

 早速雑魚の掃除を始め、最終ボスへの道を作りに掛かる。


「最終ボスは、カメさんだ~♪ 相変わらず、ボスは大っきいねぇ?」

「甲羅に何か、変なのがくっ付いてるけど……違う、魔法陣が浮かんでるみたい」

「魔法防御の陣かな? 物理と魔法、両方万全な防御を持ってるタイプみたいだ」

「ええっ、じゃあどうやって倒せばいいのよっ?」


 根性で頑張って倒すしかない。この手のタイプは、長期戦になりやすいのだが。時間制限があるので、こちらも黙って付き合う訳には行かず。

 何とか雑魚の魚の群れを、奇麗に最後の1匹まで倒し終えて。改めてヒーリングしながら、どうやって大ボスを倒すか作戦会議の運びに。

 皆のスキルや魔法をチェックしつつ、ダメージの出る技を並べて行く。


 例えば僕の《闇喰い》は、じわじわと体力を蝕みながら、敵の防御力を下げる魔法。MPコストが少ない割には、とても便利な闇魔法だ。

 敵を釣るのに、僕は毎回これを使ってる。


「僕の《闇喰い》を掛けてから、環奈ちゃんの《貫通撃》が有効かな? 後は沙耶ちゃんの《魔女の囁き》を重ねた《アイスランス》とか。

 あとは、コツコツと削って行くしかないかな」

「あれっ、リン君……《貫通撃》なら私もあるよ? 実はさっき覚えた♪」

「えっ、お姉ちゃんいつの間にっ! このスキル技かなり使えるのよっ、武器の壊れる速度が加速度的に上がるけど」


 その妹の言葉にショックを受ける沙耶ちゃん。環奈ちゃんの言う通り、《貫通撃》は使う度に必ず耐久度が1つ減る、使用者泣かせのスキル技である。

 その代わり攻撃力は凄まじく、高い防御も無効にする能力は超便利。今日は僕のアドバイスに従って、一応予備の銃を沙耶ちゃんは持参したらしいのだが。

 予備だけあって、攻撃力は一段劣る。なるべくなら使いたくないのだろう。


 そんな遣り取りの後に、早速始まった最終ボス戦。時間が無いからって、強敵相手に焦りは禁物だ。位置取りを確認しつつ、前衛が慎重にタゲを取る。

 ところが斜めに陣取った環奈ちゃんが、早くもダメージが出ないと悲鳴を上げる。どうやら甲羅の多い部分は、圧倒的にダメージが減じられるようだ。


 敵の真正面はスキル技の餌食になりやすいので、陣取るのは1人が良いのだが。そんな事も言ってられないと、僕と環奈ちゃんは2人並んでカメの顔を殴り始める。

 そして早速やって来る、とんでも無い特殊技。


 踏み潰しと言うとんでもない大技で、前衛陣は2人揃ってペシャンコに。威力はともかくスタン状態を喰らい、ド肝を抜かれたと声を上げるパーティ一同。

 慌てて回復を飛ばす優実ちゃんは、初っ端から大忙しだ。何しろレベル制限で、僕の《連携》も《封印》も主要スキルは封じられているので。

 敵のスキルを潰すには、地味なスキル潰し技に頼るのみ。


 結局、一番頑張ったのは沙耶ちゃんでも環奈ちゃんでもなく、実は優実ちゃんだった。敵のボスにはスタン技無効の能力があるらしく、踏み潰しやアクアブレスなどの範囲技が、毎回素通しだったのだ。

 お陰で前衛は、常に満身創痍の状態で。優実ちゃんと妖精がいなかったら、一体どうなっていた事か。僕も《シャドータッチ》を飛ばすが、敵の魔法防御のせいで上手くHPを吸い取れない。

 優実ちゃん様々の一戦だったが、削りは残りの2人が頑張ってくれた。


 2人の《貫通撃》は、確かに大きなダメージ源だった。武器の耐久度を気にしていて勝てる敵ではなかったので、2人とものっけから飛ばして行く。

 沙耶ちゃんの《魔女の囁き》を重ねた《アイスランス》は確かに一番のダメージを叩き出した。逆に強過ぎて、敵のタゲを一時取ってしまうほど。


 前衛として情けないが、とにかく硬い敵には魔法が一番効くようだ。《魔女の囁き》とは、魔法の威力を一時的に高める補助魔法で、コレがまた抜群の効果を発揮したらしい。

 とにかく沙耶ちゃんは、後衛アタッカーの素質充分である。


 中盤以降は、迫り来る時間縛りのリミットと、更にはMP回復薬のマナポの残り本数を気にしながらの戦闘。何とか倒し切った時には、全員思わず万歳をしていたり。

 ハイタッチの時間も惜しんで、とにかく沙耶ちゃんが石のメダルを組み上げて行く。その間にボスの後ろの空間から、宝箱を見つけ出す一同。

 今回もありましたよと、すかさず中身を確認すると。


 出て来たのは現金で3万モネーと、精神の果実。精神力のステータスが上がるアイテムで、これもなかなかのレアアイテムである。売れば3万モネーはするだろう。

 精神力は水属性と相関関係にあるので、なるほど納得なドロップではある。ちなみに一番人気は、炎属性と相関関係にある力の果実だろうか。

 腕力が上昇するので前衛が欲しがり、10万近い値になる事もある人気商品だ。


 環奈ちゃんは、塔にしてはサービスが良過ぎると未だに不審げな顔付きである。僕もそう思うが、沙耶ちゃん達と同じくもう慣れてしまった。

 貰える物は、遠慮せずに貰ってしまえば良い的なノリ。



 こんな感じで、午後の冒険は何とか無事に終わりを迎えて。入って来た報酬を等分して皆に渡すと、環奈ちゃんからも感謝されてしまった。

 帰り際にも環奈ちゃんにじゃれ付かれて、僕はどうやら子供受けは良い様子。また遊びに来て下さいと、まるでお姉さんは無視の態度に。

 当の沙耶ちゃんは特に気にした風も無く、また今度ねと言って来る。





 ――そうして連休は、我知らず沙耶ちゃん中心に過ぎて行ったようだ。







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