第14話 連休とギルドの掟!②
ファンスカでの合成の話を、もう少しした方が良いだろうか。僕が合成に手を染めた理由は別にして、多くの人は主にお金儲けの為に合成に手を染める。
しかし実際は、高いハードルに挫折する人が多い。金策なら他にもあるし、何よりたくさんの種類の素材を手元に維持していないといけない。
ある程度の自由に出来る敷地と時間、更には入手が難しい器材やセンスも必要になって来る。スキルや熟練度を上げる為には、同じ素材を数十、数百買い占める事も必要になって来る。
そう、金策目的に合成のスキルを上げる為に、前もって資金が必要になって来るのだ。合成した物が全て捌けるほど甘くない。必要の無い装備やアイテムは、赤字になっても店売り処分する位しか手は無いのだ。
そんな品も、上手く行けば競売に出して儲けが出る事もあるのだが。
そんな感じで苦労しながらも、スキルや熟練度を上げるのだけれども。これもやっぱり、自分が思っているようには上手く行かなかったりする。
何故かここにも、合成スキル取得のランダム性が絡んで来るのだ。製作側は、一体何を考えてこんな難易度に設定してしまってるんだか。
詳しく話すと、次の通りだ。
まず合成を上げようと思った人は、4つの中からどのタイプを上げるかを選択する。通常合成、強化合成、属性合成、分解・変異合成の4つで、それぞれ出来る事が違って来る。
通常合成は、NPCの職人からレシピを教わって、その素材と手順で合成を行えば良い。一番単純で取り組みやすく、極めればそれなりに便利である。
2つ目は強化合成。その名の通りに武器や装備の強化、更には修理などを手掛ける合成だ。通常合成のHQより更に上等の性能に仕上げる事が可能で、儲けも大きいのだが。
意外とセンスも必要で、そもそもレシピが存在しない。どの武器装備を、どんな素材で強化するか? そのレシピは、時には高値で取り引きされる事もある程。
合成するのに特別な器材が必要で、それを設置する為の場所も必要と来ている。通常合成より、かなりハードルが高いと言えるだろう。
しかも強化用素材は、競売所での取り引き金額も常に高値がついている。資金力が無いと、そもそも熟練度が上げられない合成でもある。
3つ目は属性合成と言う。主に、属性の力を武器や装備に付与する事が出来る合成だ。例えば炎の属性だと、炎スキル+3だとか、腕力+2だとか。
ちょっと知識が必要になるが、とにかくファンスカの売りである属性を元にした合成だ。これで炎の神酒とか、闇の秘酒、光の水晶玉などの消耗品を作る事も可能だ。
オーブを属性の宝珠にする事も出来て、そう言った意味でも需要は多い。ある意味、強化の一種とも言えるが、レシピは既にほとんどが知れている。
通常合成を極めた職人が、次に挑むのには適しているかも知れない。
最後の1つは分解・変異合成と言って、これはかなり特殊である。上手く行けばクズの素材から使える物を抽出したり、変異させたりする事が出来ると言った所か。
失敗、ロスト率が高いのでも有名で、工房で行う宝捜しとも言われている。当たれば儲けは大きいが、確率はあまり高くないのが残念な点か。
原石から宝石を取り出したり、キャラが装備不可能の獣人の装備品からインゴットや素材を取り出したり、錬金タイプの合成でもある。
レシピを必要としない唯一の合成であり、そういう点でも特殊だ。
上げる合成のタイプを決めたら、次はスキル上げだ。全種類上げるとかも可能だが、下手に幾つも手出ししても共倒れになる可能性が高くなるだけ。
スキルを上げるには、まずは街にいる職人の弟子になる必要がある。そこで修行して、皆伝書を何枚も、何十枚も、何百枚も貰う必要があるのだ。
皆伝書でスキルポイントを貯めて、それがそのまま成功率やHQ率になる。そして難しいレシピにも挑戦出来るようにもなる訳だ。そしてやっぱり、スキル10ごとに技と言うか特技を覚える。
例えば《革素材適性率UP》とか《頭装備成功率UP》とか。これらのスキルは無くても困らないが、あると革素材を使った合成がスムーズになったり、兜を作る時に成功の確率が上がったりする訳だ。
合成にも個性と言うか得意分野が出来る訳だ。素材が割れたら丸損の職人には、それはそれで嬉しいのだけど。
皆伝書を貰うのは、それ程難しくは無い。ただし、熟練度を上げていないと、職人NPCの出す試験に合格出来ないが。
熟練度を上げるのは、ひたすら適性レベルの合成を繰り返す事。
つまりはたくさんの素材と、それを買うお金が必要になって来る。作り上げた品が黒字で売れれば良いが、人気の無い商品だと売れ残って赤字になる。
まぁ、こんな所にもセンスが必要になって来るのだが。赤字を避けて、なるべくコストの掛からない素材で熟練度を上げると言うセンスが。
ここまで来ると、商才とかゲームを離れてしまう気もするけど。
こんな感じで、職人NPCから適当な期間を置きつつ試験が出るので、それをクリアして皆伝書を貰う。試験は10回連続で合成を成功させろとか、内容はそれ程難しくは無い。
それでスキルを上げて行き、新しいレシピに挑み続け。職人達は、とにかく高みを目指すのだ。そんな一つの極みが、ギルド『小人の木槌』だろうか。
僕の師匠も所属する、熟練職人達の作り上げた万人が認める技術の結晶ギルドだ。合成に関しては知らぬ事が無いと言う噂も、あながちウソではないだろう。
師匠の弟子になったとは言え、僕など入れて貰えるレベルでは決してない。もし師匠が誘ってくれても、僕は怖くて籍を置けないだろう。
それ程の差が、僕と師匠の間にはあるのも事実。
そんな僕だが、つい半年前に師匠にも誇れる合成に偶然にも成功した。それが強化合成を駆使した、片手棍のロックスターという訳だ。
こいつが生まれた瞬間は、さすがの僕も物凄く興奮した。何しろ、選んだ素材がいわくもの付きの難物と呼ばれるモノばかりだったので。
詳しくは言えないが、今から同じ素材を集めろと言われても困難極まりない。
この合成は、僕のキャラの成長方針にも多大なる影響を与えた訳だ。僕としては、ネットゲームを始めて初の、重大事件だったと言えるかも知れない。
沙耶ちゃん達にギルドに誘われた事は、その上を行く事件だけどね。
隠れ家を作るのは、実は通常合成で事足りてしまう。ただし、スキル技で《小人召喚》と《建築技術》を持ってないと不可能なのだけれど。
この特殊スキルを取得するのに、僕は結構苦労した。
ちなみに、そんなマイホームの限りない集大成が『領主』の取得だろうか。お城みたいな隠れ家と土地を、物凄くたくさんのミッションPと交換するシステムだ。
招かれないと入れないので、実際の建物は見た事は無いけど。普通はギルド単位のグループで取得して、集会所みたいにして使うらしい。
さすがに1人で維持するには、広過ぎるし問題も多いらしい。
師匠もその取得には、少しだけ興味があったらしいそうだが。合成に関連して『キャラバン隊』の方に、ミッションPを費やしてしまったらしい。
その後で、僕と合同経営者契約を交わしたのだが、その話はまた今度。事の顛末を話し始めると、それだけで結構長くなるからね。
「終わっちゃったねぇ、隠れ家つくり……ん~っ、サミィが起きるまで、細剣の熟練度上げるの手伝って、リンリン」
「いいよ、ちょっと待ってて、スキルセットし直すから……僕も遊びで、片手剣のスキルでも上げようかな?」
「ここ出た場所の敵は、強過ぎるかな? やっぱり戻った方がいいかなぁ」
「ここは尽藻エリアだよ、メル? こっちは2人だから、初期エリアか、せめて新エリアじゃないと無理だって」
そんな事を話し合っていると、僕のキャラに通信が入って来た。誰かと思ったら沙耶ちゃんと優実ちゃんで、暇なので合同インして来たらしい。
僕が現状を説明すると、短い時間を了承しつつも一緒に遊ぶと返事して来る。そんな訳で、彼女達の行けない新エリアも削除、初期エリアの適当な場所に決定。
メルは最初は、人数が増えたのにも歓迎ムードだったのだけど。2人が僕の同級生で、しかも女性だと知ると途端に機嫌が悪くなった。
プレイに集中しなくなり、妹が起きる気配がないかとちらちらとサミィを観察し始めて。そして時間を見計らって、勝手に落ちると告げてしまった。
無論、僕も一緒に。妹を起こす時間だと一方的に告げて。
――これが沙耶ちゃんとメルの、闘いの第1ラウンドだった訳だ。
第2ラウンドは、もっと熾烈だった。何しろ今度は、直接対決だったのだから。次の日も僕は、朝の良い時間を見計らって、ミスケさんのマンションで猫の世話と部屋の換気を行った。
それからは、ぽっかりと時間が空いてしまった。今日のハンス家の子守りは藤村さんで、僕は夕方の餌遣りまで暇を持て余していたのだ。
沙耶ちゃんには昨夜のレベル上げ中に、今日の昼から合同インしようと誘われてはいたのだが。はっきり返事をしないまま、僕は図書館で時間を潰す事に。
一度家に戻っても良かったのだが、何度も街を往復するのは面倒だ。どうせお昼は外に食べに出掛けるつもりだったから、尚更の事そう。
父さんの課題のプログラム本に目を通しながら、僕は充実した時間を過ごしていた。本を読むのは楽しくて、それが例え難解な内容であろうとも同じ事。
内容を覚えるくらい集中して読めば、いつか何かの拍子にパッと難解な内容が紐解ける事態も訪れるのだ。難しい本には、それに対応した読み方が存在する。
1回で覚えられなければ、何回か読み直せば済む話だ。
集中していたら、いつの間にかお昼になっていた。近くにオープンカフェがあって、それ以外は大学の学食位しか、この周辺にお店は存在しない。
自転車だからちょっと走らせれば、駅前やアーケード通りに辿り着きはするんだけど。そういう所は賑やかで、特に連休中は混み混みに違いない。
僕は近くのオープンカフェが空いている事を期待して、一度図書館を後にする。
幸い、何とか席を取る事は出来たのだが。携帯が突然受信を知らせて、プルプルと震え出す。食べかけのサンドイッチをそのままに、僕は慌てて電話に出た。
相手は藤村さんで、どうやら姉妹に手を焼いているらしい。お昼を食べさせたのはいいが、とうとう2人ともぐずり出し。こっちは掃除と洗濯をしたいのに、それも侭ならない。
幸い天気もいいし、凛君、散歩にでも連れ出してくれないかしら?
サミィはともかく、メルがぐずるのはちょっと珍しい。外に遊びに出たいのだが、妹に遠慮してそれも出来ないせいかも知れない。
僕は、すぐ行きますと藤村さんに伝えて電話を切った。
こうなる気がして、僕は予定を空けていたのだが。しかし昨日は結構、2人とも普通に機嫌が良かった筈なのに。あれから夕方には、ミスケさんの猫を皆で見に言ったのだ。
メルもすぐに機嫌を直したし、しかし猫の方は結構嫌がっていたが。愛想の良い猫も逃げ出すほど、子供のパワーは侮れないのは僕にも理解出来る。
それを考えると、オーちゃんは凄いと思う。
そんな事を考えながら、僕が急いで昼食を平らげていると。再度の携帯の着信が、僕の食事を中断する。飲み物で何とか気道を確保して、今度の通話相手と対峙。
今度は沙耶ちゃんからだった。お昼の合同インの具合はどうかと、明るい声で話し掛けて来る。お昼がまだだったら、ウチで食べれば良いし。
って、今ドコ?
僕は現在文化会館前のカフェテラスにいて、食事は丁度済ませた所だと返事する。そして、今から子供を連れて散歩に出なければならない事情を沙耶ちゃんに話した。
別にわざわざ、外へと出なくても良いのだけれど。藤村さんは、子供達がいない方が掃除や洗濯に集中出来るに決まっているので。
彼女は分かったと言って、散歩なら一緒しても問題ないみたいな事を口にした。丁度今、そこの文化会館で『世界のお菓子博覧会』なる企画をやっているらしい。
子供の日を前に、子供だったらお菓子じゃん的な発想から持ち上がった企画に違いないと、沙耶ちゃんは言葉を並べ立てる。優実ちゃんが、是非とも行きたいと意気込んでるとも。
断る術もなく、僕はいつの間にかオッケーしていた。
あの行動力はどこから来るのだろうと、僕は不思議に思いつつ。ようやく食事を終えて、昼食の会計を素早く済ませる。チラッと見たら、確かにお菓子のポスターが貼ってあった。
子供連れの数も多く、なる程お菓子イベントのせいらしい。そんな事気にもしなかったのだが、気にしないから目に入らなかったとも言える。
優実ちゃんは確かに好きそうだ。いや、そんな事より早くハンス家に行かないと。
自転車を飛ばして、僕は住宅街を駆け上がる。テニスで鍛えた脚力は、未だに衰えてはいないよう。出迎えてくれた藤村さんは、明らかに安堵の表情。
反面、姉妹はなるほどの揃ってむくれ顔。
「凛君、子守りの方はお願いね。オウムの毛が家中に散乱してて、子供の健康にも絶対に良くないわ。徹底的に掃除しないと、私の気がすまないっ!」
「分かりました、夕方までその辺を散歩して来ますね。メル、お出掛けカバンとサミィの外着を取って来てくれる?」
「……オーちゃんの毛は、別に汚くないよっ」
ブツブツ言いながらも、僕の言葉に従うメル。こう言う時は、敢えてどちらの味方もせずに、僕はメルに向かって眉を顰めてやる。メルは肩を竦めて、大人しく出掛ける用意。
サミィは完全に機嫌を損ねていた。僕以上に眉根に皺を寄せていて、可愛い顔が台無しだ。僕に抱っこをせがんでから、一言も言葉を発していない。
これは手強そうだと、内心僕は冷や汗モノ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます