第12話 連休前の嵐!⑤



『怖かった~! 急に壁が動いたと思ったら、敵が出て来るんだもん!』

『ズルいよねぇ、こんな仕掛け! 沙耶ちゃんのペットが尊い犠牲?』

『ペットって、一度死んだらどうなるんだっけ? すぐ呼び出せるのかな?』

『再召喚は呼び出して30分後だから、もう平気だね……あっ、せっかく休憩したのにまたMPがズカンと減っちゃった!』


 再び呼び出された雪之丈。魔法陣の中に出現して、しばらくフワフワしていたが。やがてトコトコと沙耶ちゃんの側に近寄って、耳をパタパタとはためかせる。

 しかし、これでまた倒されたら、ペットの召喚は30分後まで不可能になる訳だ。そう考えると、なる程リスクが高くて流行らないだろうと推測出来る。


 ペットは成長する事は一応証明出来たが、成長させるにも根気が必要だろうし。キャラ自身には何の恩恵も無い訳で、強くなれば頑強なパートナーには成り得るかも知れないが。

 即戦力にならないのは確か、選択者が増えないのも道理か。


 彼女達が再度の休憩をしている間に、僕は周囲の探索を行う。3階フロアもそろそろ掌握した感じで、残るは階段付近の一角のみとなっていた。

 そこには中ボスがいて、廊下の端っこには何と2個目の宝箱も発見。彼女達の合流を待って、持っていた合鍵でそれを開けて確認する。


 中には売れば15万モネー以上する、高級素材が入っていた。僕の経験からして有り得ない事態だが、彼女達は純粋に喜んでいるよう。

 逆に、僕の揚げ足を取って非難する素振り。


『何だ、塔内って結構嬉しい仕掛けも多いじゃないの、リン君♪ も~っ、期待するなって言ってた癖に』

『いや、だっておかしいじゃない。この塔に入るのに15万モネー使ってるのに、それ以上の儲けが出るなんて……う~ん、バージョンアップでの変更なのかな。

 それとも、3人での入場だと余禄が増えるのかなぁ?』

『入場代金はリン君が出してくれたんだから、それリン君が貰っていいよ。ってか、ギルドの荷物管理係になってくれたら嬉しいかな。

 それでいいよね、優実?』

『そうだねぇ……でもリン君ばっかりにお金出して貰うの悪いから、やっぱり私達も金策しなきゃね、沙耶ちゃん?

 リン君、お金の儲かるいい場所知らない?』


 それからは金策場所の候補を上げながら、3度目の中ボス戦へ。下の2体よりは強かったが、体力任せの攻撃を避けてしまえば大した問題も無く。

 ほぼ万全の態勢で、4階フロアに向かう召喚パーティ。


 ここまでで、ようやく1時間というところ。2時間制限なのに順調過ぎると、沙耶ちゃんなどはいぶかるのだけれど。この塔は低ランクで、ソロでも攻略可能なタイプ。

 もっとも、ソロなら敵の殲滅狙いでフロア内をうろつく事もしないけど。そのせいで案外、宝箱が何度も出現しているのかも。そう説明すると、どうやら納得してくれた模様。

 ここのフロアも掃討するぞと、勇ましく気勢を上げる。


 さすがにここまで来れば、敵も厄介な魔法使用タイプが増えて戦闘も苦労する。僕の得意とする片手棍のスキル技《兜割り》は、敵の詠唱を一定時間止める効果もある。

 知られていないが、片手棍はこれでなかなか使い勝手が良いのだ。前衛で使用する者は極端に少なく、後衛で《MP回復》目的で伸ばす者がいる程度と聞く。

 その超便利な補正スキルも、今は残念ながら封印されて使用不可。


『リン君の大っきな鍵で殴る姿、可愛いよねぇ♪ 私は好きだなぁ』

『そこじゃなくてダメージを見てあげなさいよ、優実。前衛キャラは、攻撃力を褒められた方が嬉しいって話なんだから』

『ありがとう、2人とも。武器の攻撃力は補正受けてないから、正直助かってるけどね』


 それが今までの快進撃の、最大の理由と言えるだろうか。4階フロアも順調で、今までより敵の数や種類は増えていたが、何とか凌ぎ切る事に成功。

 リンクが2度あったが、今回も何とか被害は最小限に留まった。いや、つまりは、沙耶ちゃんの雪之丈が範囲攻撃に巻き込まれて、死んでしまったりはしたけど。


 本日2度目の昇天だが、メンバー内での精神的ダメージは皆無。こんなもんだろうと皆が割り切ってるのが、何となく悲しかったりするけど。

 再召喚時間もずっと先、使えないジョブだと心から思う。


 それでも、戦力的には全く問題が無かったせいで。20分程度で、このフロアの制圧もほぼ完了した感じ。残るは不動の中ボスと、その反対側の宝箱の仕掛け。

 明らかに罠っぽいのは、パーティ一致での意見。何しろ中ボスが、視界内のすぐそこにいるのだ。無言のプレッシャーは相当な物、4階の門番はガーゴイルタイプだ。

 連動しているのを前提に、僕らは作戦会議。


『どう思う、コレ? 先に門番倒したら、やっぱり消えるかな?』

『多分そうなるだろうね。宝箱を開けたら、向こうの門番が強化される感じかな?』

『分かった! こっちも3人いるから、一斉に全部開ければいいんだ!』


 突然叫びだした優実ちゃん。自分の解答に酔いしれて、それが最良の策だと力説する。門番と罠のセットの仕掛けはポピュラーで、要するに安全を取るか欲を取るかの問題なのだが。

 優実ちゃんの策を取れば、つまりは欲望全開となる訳だ。ところが沙耶ちゃんもそれに同意したので、結局はその案を実行する事に。3人で敵に背を向け、何と無防備な事か。

 作戦通りに一斉に開けた、その宝箱の中身は。


『わっ、私の奴はミミックだった! キャ~、助けて~っ!』

『後ろから門番来てるよっ! 2人はここを離れて、戦闘距離を維持してっ!』


 僕の指示に、一瞬遅れて2人が従う。ガツンと門番に殴られた優実ちゃんは、しかしプーちゃんの捨て身の突進に追撃を免れる。ヨロヨロと逃げ出して、安全区域に。

 一方の沙耶ちゃんは、ミミックの不意打ちに大ダメージを貰ってしまっていた。麻痺まで喰らって、追撃を許して大ピンチだったのだか。

 妖精がようやく役に立って、ヒールを受けつつ前線離脱にようやく成功。


 すかさず僕が割り込んで、強敵ミミックと改めて対峙する。二刀流でダメージを与えつつも、すぐ後ろでの闘いにも気が気ではない。

 さすがのプーちゃんも、中ボス相手では荷が重いようだ。体力が早くも半分になっていて、新人の妖精も相方の回復に忙しそう。


 中ボスの門番、ガーゴイルの戦闘能力は、今までの中ボスの比ではない。いきなり範囲攻撃の翼手撃で、プーちゃんばかりか戦場に取り残された妖精まで被害を受ける。

 不覚にも僕まで巻き込まれ、慌てたのは後衛に逃れた彼女達も同じだった様子。回復やら足止め魔法やらが飛んで来て、しばらくは混乱模様。


 中ボスは足止め魔法をレジスト、その威力はプーちゃんを瀕死にまで追い込んでいる。このままでは僕が2体同時に相手にせねばならず、非常に不味い状況だ。

 その窮地に、沙耶ちゃんがとうとう封印を解除。貯まっていたSPを使っての《眉間撃ち》で、HPが7割まで減っているミミックを倒しに掛かる。乗っかる感じで、僕も敵への削りを再開する。

 応援は、しかしプーちゃんをギリギリで生かしている優実ちゃんに集中。


『優実っ、回復でタゲ取ってもいいから、絶対にプーちゃんを殺しちゃダメよっ! 根性見せて、キリキリ踏ん張りなさいっ!』

『今門番を解き放ったら、確実に不味い事態だからっ。頑張って、優実ちゃんっ!』

『ひ~んっ、妖精と2人掛かりでも辛いっ。リン君、早くミミック倒してっ!』


 泣きモードの優実ちゃんを救うべく、2人掛かりで大技の連発。硬いミミックに止めを刺したのは、沙耶ちゃんの渾身の《アイスランス》だった。

 僕は《SPヒール》を自身に掛け直して、今度はガーゴイルの殴りに参加する。厄介な特殊技は短剣スキルの《麻痺撃》で止めに掛かりつつ。


 タゲも何とか横取りに成功して、頑張ったプーちゃんへの賞賛も忘れずに。実際に頑張ったのは、優実ちゃんの回復支援だったかもだけど。

 何とか勝利の方程式に引き込んだ戦闘は、間もなく終了の運びに。


 思いっ切り駄目ダメだった3つ同時開錠案は、しかし万能薬と闇の術書のドロップを生んだ。しかもミミックからは、3万モネーの大金がドロップ。

 ダンジョンにつきもののアイテム報酬だが、実際に術書や指南書が出て来るのはそれ程多くはない。闇の術書も、そんな訳で売れば20万モネー近くにはなる。


 光と闇系の術書は高額だし、出にくい属性なのだけれど。これも僕が貰って良い事になり、2人には必要無いから使っていいよとの嬉しい申し出。

 ほんわりと心が暖まりつつ、いよいよ最終フロアに進む一行。


 最後のフロアは壁がぼ無くて、敵と柱ばかりが目立つ厄介な間取り。そのせいでリンクが起こり易くて、非常に厭らしい構造なのだけど。

 何とか慎重に進んで行く内に、僕もレベルアップの運びに。


 ギルドメンバーとしてお祝いをして貰うのは初な僕。それが何だか嬉しくて、くすぐったいような気分にさせられる。ギルドって良いなと、これも初めてな感想。

 それでも最終ボスの姿が視界に入ると、気も引き締まると言うモノ。まだ動きは無いが、一番奥の王座のような場所に収まっていて、こちらを睨み据えている。

 優実ちゃんは怖がって、魔法の届くギリギリの距離までしか動こうとしない。


『リン君、雑魚の数減って来た? ちょっとボスに近付き過ぎじゃない?』

『ボスが大きいから、そう見えるだけだよ。雑魚はあと……うん、4匹かな?』

『ううっ、それじゃうもうすぐボス戦だあっ……ふあっ、凄い緊張するっ!』


 そんな事を言われても、時間縛りもある訳で。優実ちゃんの心が落ち着くまでは、とても待っていられないのが現状。とうとう雑魚を倒し終わり、戦闘前にヒーリング。

 最終ボスは、何とも威圧感のある半蛇巨人。下半身はモロに大蛇の胴体で、青白い皮膚は嫌なテカり方。髪の毛の半分位は蛇になっていて、そこだけウネウネと動いている。

 手には曲刀と丸い盾が、どうやら防御も手抜かりは無いらしい。

 

 休憩が終わって、それぞれポケットの中身もチェック完了。沙耶ちゃんの銃の耐久度も、残りは3ほどあるらしい。MP回復のエーテルも用意し、万全の様子。

 おまけの雪之丈も再召喚して貰って、取り敢えず生き残って欲しいと願いつつ。僕が先陣を切って敵のエリア内に踏み込むと、突然の強制イベント動画が割り込みを掛ける。

 大きな蛇の胴体が後方で波打ち、ボスの瞳が赤く光る。


 メンバーからは気持ち悪いと蛇のうねる姿に拒絶反応的なコメントが。それでも戦闘が始まってしまえば、そんな事は言っていられない。

 否応無しに、敵はこちらを攻撃して来て戦線は形成されるのだ。まずは僕のタゲ取りから戦闘はスタート。特殊技をいつでも止めれるように、スキル技は温存気味に。


『ガンガン行っちゃっていいの、リン君? いきなりスキル技とか、駄目?』

『敵の特殊技のどれを止めるべきか見たいから、最初は押さえ気味でお願い。でもHPは、ちょっとずつでも削って行きたいかな?』

『敵が大っきいから、髪の毛の蛇もそれなりに大きい……わっ、落ちてきた!』


 上ばかり見ていた優実ちゃんが、真っ先にその異変に気付いた。確かに特殊技を使った形跡のあるボスだが、それが何と髪の毛部分の蛇のばら撒きだったとは。

 戦闘エリアに落ちて来た蛇は、全部で3匹。噛み付かれた僕は、やはりの毒状態に。タゲを変更して殴り付けた結果、程なくソイツは倒されたのだが。


 これは厄介な特殊技だと思っていたが、次の技は単純ながらも更に強烈だった。巨大な尻尾の振り回しで、物凄い範囲ダメージがやって来る。

 前衛陣が全員巻き込まれ、雪之丈が本日3回目の昇天の憂き目に。当然、こちらにもかなりのダメージが、今後潰すならこの技かも。


『わ~っ、雪之丈っ! ってか、いまの技って何?』

『次にこの技が来そうになったら、僕がスタン技で止めるから。その代わり小さい蛇が降って来たら、そっちは2人が退治して。

 単発魔法でも範囲魔法でもいいから、お願いねっ』

『りょ、了解っ……なる程、そうやって被害を抑える戦術ね!』


 敵の特殊技は、物凄く痛いのが多い。大抵のNM戦では、これを喰らって崩れて行くパターンがほとんど。だからと言って、全て止めるのはまず不可能である。

 それならどうするかと言うと、止めるべき特殊技を選んで、それを止めるのに集中するのである。特殊技の来る前のアクションに注目して、それに合わせてスタン技を見舞うのだ。


 上手く行ったら、その特殊技は止める事が出来る訳だ。これが出来ないと、前衛でも上級者とは言えない。ステップ防御より、ある意味重要な技かも知れない。

 それにはまず、キャラがスタン技を覚えている必要があるけど。


 スタン系の技は、短剣や細剣などの片手武器から出やすい。削り重視の両手武器に対して、攻撃力の弱い武器でも需要がある大きな理由だ。

 再度の半蛇半人の範囲系特殊技は、そんな訳でスタン止めに成功する。それを見た後衛の女性陣から、わっと喜びの歓声が湧き上がる。

 いよいよ削りに重点を置こうと、僕と沙耶ちゃんの削りにも力が籠もり始め。


 再度の特殊技は、蛇のばら撒きがやって来た。すかさず沙耶ちゃんの《ブリザード》が見舞われて、増えた敵は一瞬にして凍りついて行く。結構な範囲魔法の威力に、巻き添えになった本体も大幅に体力を減らして行く。

 追い討ちを掛けるように、優実ちゃんの《バニッシュ》が炸裂。盾防御を無視した一撃に、ボスのHPも残り3割まで一気に減って行った。

 僕も驚いた、彼女達の本気で追い込みモードの炸裂だ。


 敵のハイパー化は、そういう点では少し遅かったようだ。盾でのシールドバッシュからの連撃、更には毒と火炎のブレス攻撃は見事だったが、傷付くのは僕だけ(正確にはプーちゃんもいるが)である。

 避けれない攻撃ならば、ステップ防御を諦めてこちらも攻撃に転じるのみ。ハイパー化の敵には、スタン技も通りにくいので尚更だ。

 僕はダメージ系の技に切り替えて、追い込みの指示を後衛に出す。


 後衛の彼女達も、いよいよ覚悟を決めたようだ。僕とプーちゃんの回復は妖精に任せ、一撃魔法と銃のスキル技で敵のHPとのにらめっこ体制。

 持参したマナポまで消費しての、全勢力の注ぎ込みに。


 とうとう崩れ落ちる、巨体を誇っていた最終ボス。僕の残りHPは3割、おまけに毒が回っていてちょっと危ない状況だったりして。喜び跳ね回っている女性陣に、何とか先に回復を貰いたいのだが。

 妖精はとっくに、MP枯渇で飛んでるだけの存在に。戦闘が終わった後にポーションや万能薬を使うのもバカらしいし、早くログに気付いてくれないモノだろうか。

 ボスのいた空間の後ろには、魔法装置と宝箱が3つ窺える。


『あっ、ゴメンねリン君っ。毒が回ってたのか……優実、帰っておいでったら!』

『うぁうっ、ゴメン。回復……あっ、ライトヒールが先か』


 どたばたした遣り取りがあった後、ようやく落ち着いたのは数分後。ボスのドロップした石のメダルの欠片の2個目を、最初の欠片とくっつけ合わせる作業を経て。

 これで魔法装置が作動して、ここの塔のクリアが確定する訳となった。先に宝箱を開けるという嬉しい権利を、女性陣に譲った結果。

 入手したのは経験値とモネーと、念願のハンターPが幾らか。


 経験値とモネーは割と結構な量で、喜びもひとしおである。僕がソロでの攻略時には、ハンターPの宝箱のみだったのだけれど。

 その肝心のハンターPは、何故か3ポイントしか入って来なかった。ソロだと7P、2人からは5P、3人で4Pの筈なんだけど。


 それを2人に告げると、面白かったから別にいいよと気にしてない感じだ。経験値も宝箱から余分に貰えたし、レベルもそれぞれ上がったし。

 ちょっと少ない程度は、全然問題ナシらしい。


 それでも僕は、ハンターPの減少が気になっていた。ひょっとしたらペットのせいかも知れないし、それなら次回から塔のランクを上げるのも視野に入れておかないと。

 3ポイントだと、4回も通わないと10を超えない。4ポイントだと3回で済むわけで、この1回の差は結構大きい気がするし。入場料は、その分高くなるけど。

 今日みたいに、塔内で回収出来れば問題無いのだが。


 彼女達は、初めての塔のクリアとようやく貯まったハンターPに、かなり盛り上がっていた。感想を言い合って、こんなクリアタイプのレベル上げも悪くないねと口にして。

 また行こうねと、2人とも興奮も冷めやらぬ感じ。 





 ――終わり良ければ全て良し、春の嵐は僕の心を騒然と吹き抜けて行ったようだ。







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