第11話 連休前の嵐!④
『このまま私がリーダーでいいの、リン君? 私達でも入れるのかな、塔って入るの初めてかも知れないよ』
『構わないよ、それじゃあ移動しよう。念の為、入る前にちょっと戦闘訓練しようか?』
『そうだねぇ、でも外は結構混んでたよ? どこかいい場所とれるかな?』
僕らは街の外に出て、しばらく混んでない場所を捜し歩く。アクティブモンスターの少ない場所で、程良いスペースの場所を、しばらくしてようやく発見する。
そこでまず、ペットを召喚せずに経験値の程度チェックをさせて貰う事に。
データ取りとは言え、喜んで協力して貰うのは、正直気分の良い物だった。それから優実ちゃんのペット、プーちゃんを呼び出して貰い、どれだけ減ったかのチェック。
確かに経験値は減っていた。僕と彼女達のレベル差は、この際無視してもだ。実際、このゲームはレベル差に関係なくレベル上げを行えるシステムが存在する。
今僕のレベルは沙耶ちゃんに合わせて低下しており、そのせいで高レベルに所属するスキル技の幾つかは、勝手に封印されてしまっているようだ。
HPやMPも補正で減っており、少々頼りない感じ。しかしその分、レベル120では考えられない程の経験値を、このフィールドで得る事が出来るのだ。
レベル上げでは、それが一番肝心だ……他の事には目を瞑らないと。
次は続いて沙耶ちゃんに、ペットの初召喚を頼む。チェックはまだ続いており、今度はペット2匹での経験値の減少具合を見てみたかったのだ。
ところが、経験値はさっきと同様の入り具合。僕は優実ちゃんに、3匹目の召喚をお願いする。やっぱり減らず、どうやらペットは何匹いても一律に扱われるようだ。
少なくとも3体までは、そういう仮説が成り立ちそう。
一律に扱われたペット達の、経験値の分け前までは良く分からないが。全員が、僕らと一緒程度は貰っているのか、ペット同士で仲良く3等分しているのか。
成長するのが本当ならば、その成長具合も出来ればチェックしておきたい。それが駄目なら、少なくとも成長しているのかどうかの正否くらいは。
面白い事に、沙耶ちゃんの召喚したペットは、姿形が優実ちゃんのそれとは全く違っていた。沙耶ちゃんはそれを眺めつつ、何となく楽しそうな素振り。
形はモフッと言うか、モコッと言うかそんな感じ。三角オニギリの形で、それに手足がくっ付いていて、耳が異様に長いと言う特徴が。
もはや動物にも見えないそれは、しかし愛嬌はあるようだ。
優実ちゃんが召喚した光の精霊は、僕の手渡した宝石を食べて妖精に変化した。妖精は確か、回復や支援に優れた後衛魔法タイプだった筈。
それを見て優実ちゃんは、この上なく嬉しそう。
『わ~い、妖精だ~っ♪ この子の名前はピーちゃんだよっ♪』
『むっ、そうね……私もこの子に名前を付けてあげないとね!』
『えっと、それじゃあ塔に向かうよ? 付いて来てね?』
隣の2人から元気の良い返事。僕は先頭に立って、湿原フィールドを進み始める。念のためにレベルの同調を解除して貰い、絡まれても平気なようにするのを忘れない。
移動中の事故と言うのは、実は意外に多かったりする。目的地に向かっている途中に、余計な戦闘に巻き込まれてしまって、それで命を落とすのだ。
そこからはテンションを下げながら、再び同じ道を進まねばならない。これがまた、何とも言えず後味が悪かったりするのだ。目的地での行動に、破綻をきたす恐れもある程に。
そのための用心だったのだが、幸い強敵との遭遇は無くて済んで何より。酷い時には、蛮族の集落からの大移動に遭遇する事もあったりするのだ。
そして塔を見た2人の感想は、完全に正反対だったり。
『うわぁ、凄いねぇ! 沙耶ちゃん、この中に今から入るんだって!』
『何だコレ? 変な建物ね、前にチラッと見た事あるかも。塔に見えない事もないけど、どっちかと言えば壺じゃない?』
確かに壺に見えなくも無いそれは、マップの辺鄙な場所に建つ紛れも無い塔だ。NMが辺鄙な場所に現れるので、そいつを倒すと出現する塔も、やっぱり辺鄙な場所に出現する。
この塔は色々と制約があって、出現してだいたい2~4週間で消えてしまう。それから再びNMに戻って、冒険者に倒されると再びその人所有の塔になる。
料金を払って使用する側にも、ちょっとした制約がある。7日~14日縛りが存在し、一度入ると次に入るまではそれだけ待たなければならない。
僕も2度程倒した事があるが、遭遇は全くの偶然だった。一度は塔が出現せず、ただの経験値とモネー、それから装備などのドロップで終わってしまった。
塔の出現も、100パーセントでは無く運任せみたい。
賑やかなメンバーを尻目に、僕は入り口に通行料金を放り込んでみた。それから沙耶ちゃんにレベルの同調を頼んで、塔の入り口の扉のクリックを指示。
ここからは時間制限付きの、塔攻略のスタートだ。
『二人とも気を引き締めて。ここからは2時間縛りで、塔の最上階を目指すんだよ』
『何か石のメダルの欠片っての貰ったけど、コレは何?』
『最上階の仕掛けで必要なんだ、捨てたり無くしたりないでね』
『ううっ、何だか緊張して来た……私、こういうの苦手かも』
弱気な発言の優実ちゃんの周囲には、主人を守るように2匹のペットが。反対に、先陣を切る格好で沙耶ちゃんが、塔の入り口から周囲を見渡して敵のチェック。
けれど、さっきの予行演習で敵の釣り役は僕に決まっていたので、彼女はそれ以上の事をしなかった。沙耶ちゃんや優実ちゃんが敵を釣ると、ペットがその敵に向けて一直線に突っ込んで行ってしまうのだ。
こちらの指定した安全な場所で戦闘したい場合は、そんな行動は遠慮したい。
そんな訳で、変則的なレベル上げのスタートだ。一応時計を見ながら、時間が足りなければ余計な戦闘は
たまに宝箱などが置かれているので、通路は全部チェックしたいところだ。
戦闘は割と順調だった。つまりは、僕が色々と立ち位置などに気を付けていればの話だが。最初、僕は彼女達と釣った敵の、丁度一直線上にキャラを立たせて戦闘を行っていた。
ところが2人の召喚したペット達も、頑としてその場を譲らなかった。って言うか、場所取りの融通など、全く利かせる素振りも無かった。要するに、僕から見れば物凄く邪魔と言う事だ。
僕のステップ防御を潰して、一心不乱に敵を殴るペット達。
沙耶ちゃんの新しいペットは、仕草だけ見れば可愛かった。やたらと長い垂れ耳を、拳のように丸めて敵を殴るスタイルらしい。
ダメージに関しては、まぁゴミ以下だが。
しかし、その手数分は確実に敵にSPを与えている事になる。要するに、敵の特殊技が来やすい事態を味方の筈のペットが招いている事になる。
これでは、まるで敵の手助けをしているみたいなモノ。僕は尻拭いするように、必死になってスタン技で敵の特殊技を止めに掛かる。
優実ちゃんのプーちゃんは、レベルが高い分それよりはマシだった。彼(彼女?)は、頭に生えた一角で突き専門の攻撃らしい。
ダメージも少ないが、沙耶ちゃんのペットに較べたら割と出ている方だろうか。生まれたばかりの妖精のピーちゃんは、後方でフワフワ飛んでいるだけ。
ペットの回復は、HPが一定以上減らないと飛ばないので、これはまぁ仕方が無い。それより前に、優実ちゃんが僕やペットの傷を治してしまっているのだから。
優実ちゃんの強化魔法も、戦闘前にはバッチリ掛けて貰っている。防御カット系の魔法は、持続時間も長くてレベル上げにはぴったりだ。
沙耶ちゃんの銃での攻撃も、思ったよりはダメージを叩き出してくれていた。これには大助かりで、スキル技の仕留め方も割と様になっている。
僕もしっかりと、前衛で頑張っていた。ひたすらダメージでタゲを取り、二刀流で敵のHPを削って行く。釣る時は闇系の魔法で、これで敵の防御力を何割か落とす。
段々と場所取りもこなれて来て、確かに思ったよりは順調だ。
僕は結局、釣った敵の真横から殴る事に決めていた。最初は真反対に廻って見たのだが、これは優実ちゃんから魔法が掛け難いと不評を貰って。
敵が重なって、どうやら僕の姿が見え辛いらしい。
それで、苦肉の策として真横に位置変更した訳だ。とにかく、ステップの邪魔をされない場所ならどこでも良い。幸い、敵の殲滅時間や経験値の量もなかなか良好。
1階フロアを片付け終わる頃には、早くも優実ちゃんがレベルアップ。おめでとうと僕と沙耶ちゃんとで祝福しつつ、更にフロアの隅に宝箱まで発見。
良い事は続くもので、それを開けると何と経験値が入って来た。
『わおっ、こんな事ってあるのね~っ♪ 私ももうすぐ上がりそう……あれっ?』
『うれしぃ~♪ って、どうしたの沙耶ちゃん?』
『えっと、銃の耐久度が大変な事になってる……8が4に減ってる、もう半分しかないっ!』
『えっ、それは……そっか、スキル技が負担になってるんだ。熟練度が低いと、武器の耐久度が減るのは早いからね。
威力の高い《眉間撃ち》は、雑魚戦では封印した方がいいかも?』
『え~っ、あの技ってポーズが格好良くて好きだったのにっ! でも銃が壊れちゃったら、元も子も無いし仕方無いっか』
『私も隣で見てて、格好良いなって思ってたけど。もう見れないのかぁ、残念』
武器や盾など耐久度の表示のある武具は、その数値が0を超えて使用すると、壊れて使い物にならなくなる。威力の高い物は耐久度も低く、扱い辛い特性もあるのだが。
そっくり銃にも当て嵌まっていて、どの銃も大抵は耐久度が低いのだ。威力は抜群に高い代わりに、長時間の使用ではすぐに焼きついてしまう訳だ。
これを回避するには、さっき言ったように武器の熟練度を上げるしかない。熟練度はその武器を使う事で勝手に上がって行くが、それ以外で上げる事は不可能だ。
スキル技のように融通が利かないので、注意が必要。
これで少々、レベル上げの予定が狂って来たのも確か。次回以降は予備の銃を持参した方がいいかもと、僕は色々と修正案を心の中で組み立てる。
それでも階段に陣取っていた中ボスは軽く撃破して。パーティは2階フロアの探索に移る事に。時間はまだあるし、どんどんと僕はフロアの雑魚を釣って行く。
もちろん時折、釣りのペースの確認を女性陣2人に取る事も忘れない。このペースが速過ぎると、これが結構なストレスになるのだ。
ソロばかりのゲーム生活とは言え、レベル上げは野良でパーティを組んだ事もある。その方が効率的だからなのだが、色々と勉強になった事も多い。
それがパーティメンバーに対する気遣いだったり、釣りのペース配分だったり。ファンスカの戦闘はオートでは無くアクション要素が強いので、ペースは意外に重要な要素なのだ。
あまり根を詰め過ぎると、疲れるしメンバーから苦情が来る事も。
『狩りは今のところ順調だね、どんどん釣っていいよ、リン君っ! あ~っ、強い技使いたいっ、代わりに魔法撃ったらダメかなっ?』
『構わないよ、全然。優実ちゃんも攻撃魔法使っていいよ、追い込みの時に。交代でヒーリングするとか、僕が釣りに行ってる時にMP回復すればいいから』
『なる程っ、交替で休憩すればいいんだっ! 私も今のペースで大丈夫だよ、リン君っ。最近では無かったねぇ、こんな順調なレベル上げ♪』
同感だと、沙耶ちゃんも満足そうな口調。僕はフロアの隅々を回って、雑魚を一掃して行く。ここの中ボスもそれ程強くなく、ここで沙耶ちゃんもレベルアップ。
再びお祝いと歓声が上がる中、このフロアには宝箱が無かったとの不満の声も。
『僕の経験では、置いてある方が不思議だよ。塔って、お金を払ってハンターポイントを買うってイメージが強いかなぁ?
他のドロップとかは、全然期待した事が無いよ』
『そうなのかぁ、それは残念。宝箱とか探すの、結構面白くて好きなんだけど。でも、さっきの仕掛けにはちょっとイラッと来たかもっ!』
『ダンジョンだもん、仕掛けくらいあるでしょうに。って言っても、私達はあんまりこんな所来た事無いわよねぇ』
2階フロアではちょっとした罠が張ってあり、それを彼女達は話題にした訳だが。時間をロスさせる為のトラップも、塔の内部には結構仕掛けられているのは確か。
3階フロアにも、その手の罠がキッチリと待ち構えていた。知らない内に敵が湧いてリンクする仕掛けで、いきなり一行はピンチに立たされる。
前衛の僕は、慌てながらも結構必死に抗うのだが。
後衛の彼女達が、いきなり1匹のタゲを取ったのには驚いた。その途端に、ペット達も従順に殴る矛先を変える。その特性を、彼女達は知っていた訳だ。
そして悲劇が……沙耶ちゃんのペット、たった一撃で死亡。
『ああっ、雪之丈っ! 何て弱いのっ!』
『沙耶ちゃん……名前付けるの下手だねぇ?』
プーちゃんとかピーちゃんよりはマシだと、沙耶ちゃんの反論。確かにそうだなと思いつつ、そう言えばオウムのオーちゃんの命名はまだ幼かったメルだったらしいとの記憶が蘇る。
似たような思考パターンなのか、優実ちゃんがひたすら幼い思考の持ち主なのか、判然としないけど。しかし、残されたプーちゃんはキープ役を頑張っていた。
意外と言っては失礼だが、なる程彼女達の盾役だっただけの事はある。
僕の必殺の足止め
更に1匹を引っこ抜いて、沙耶ちゃんが氷魔法の《アイスコフィン》で封じ込めに成功。氷の棺がフィールドに出現して、敵をその内側に閉じ込める。
慣れたその流れに、僕は安心感を覚える。
調子に乗った沙耶ちゃんの《アイスランス》が、僕の殴っている敵のHPを一気に削って行った。それに重なるように、優実ちゃんの
これは正しい選択で、リンクした時はいかに最初の1匹目を迅速に倒すかが鍵となって来る。最初からもたついていたら、数で押されて不利になるばかりだ。
こちらに幾ら余力があっても、その余力を有効に使わないと無駄になるのだ。
2人とも、さすが自分の種族属性の魔法スキルだ。かなり高いダメージを叩き出して、あっという間に僕の前の敵は倒されて地に臥して行った。
僕はすかさず、プーちゃんのキープしている敵へと対峙。片手棍の《兜割り》でタゲを強引に奪い取る。何しろ《ヘキサストライク》などの主要スキル技も、同じく封印されて使えない有り様なのだ。
それでも虫顔をした人型の敵は、こちらをグィンと振り返る。
塔内で最も多いのが、この虫顔で人型の敵だ。背丈は低いのと高いのと2種類いて、更に色鮮やかで魔法を使って来る、背丈の高いタイプもいる。
特殊技は噛み付きや毒牙など、それ程気にかけるタイプは存在しないが。全部がアクティブでリンクするので、釣りには細心の注意を払っていたのだけど。
プーちゃんのHPの回復を妖精に任せて、MPを使い切った優実ちゃんがヒーリングに回る。2匹目の敵も、僕と沙耶ちゃんの攻撃で倒し切った。
3匹目に掛かる頃には、今度は沙耶ちゃんがヒーリングにしゃがみ込む。交替での休息も、初めてにしてはかなり上手だ。2人とも、後衛に向いているのかも知れない。
何とかピンチも乗り切って、3人でようやく一安心。
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